第9話 空の旅
「ダンジョン都市イカル行きの飛空艇は間も無く出発です」
係員が声を張る。発着場にはそれなりの列ができていた。ネイビスとイリスとビエラの三人はギリギリ最後の乗客に滑り込むことができた。
「危なかったな。もう少し遅れてたら乗りそびれるところだったぞ」
「そうね。それより飛空艇ってものすごく大きいわね」
「ほんとだねぇー」
これから乗ることになる飛空艇の大きさに度肝を抜かすイリスとビエラだった。対してネイビスはダンジョン都市イカルに着いたらどう行動するかを考えていた。
「私たちの番よ、ネイビス」
「おう。みんな30,000ギル出して」
係員にお金を渡して三人は飛空艇に乗り込む。飛空艇の中は船と大して変わらない。
「私デッキ行きたい!」
イリスの宣言にネイビスは顔を顰めて訊く。
「危なくないか?」
「平気よ平気」
イリスは手をひらひらとさせ余裕ぶる。
「私は怖いから中にいようかな。ネイビス君もデッキ行っちゃうの?」
心配そうにネイビスに尋ねるビエラを見て、ネイビスはやはりビエラは可愛いなと思う。ネイビスはビエラに微笑みかけると「一緒にいようか」と言う。
「ネイビス君優しい。ありがとう」
「おう。なんか照れるな」
イリスはそんな二人をジト目で見る。
「なんかネイビスとビエラの距離近くない?」
「そうか?」
「き、気のせいだよ!」
「ふーん」とイリスは唸ってから「私はデッキにいるからね」と告げて行ってしまった。残されたネイビスとビエラの間にどこか気まずい空気が流れる。
「そんなに近いか?」
ネイビスが沈黙に耐えかねて開口する。
「ネイビス君は嫌?」
ビエラは一歩ネイビスに詰め寄って上目遣いで訊いた。ネイビスはビエラのその仕草にドギマギする。
「え、別に嫌じゃないよ。というかむしろ嬉しいっていうか」
「嬉しいの?」
「まぁ、うん」
「なら私も嬉しいな」
ネイビスは最初ビエラを人見知りの臆病な子だと思っていた。だが、いざパーティーを組んでみると意外にも積極的なんだと気づき考えを改めた。
「ビエラはさ、俺のことどう思う?」
ネイビスはもしかしてこの子俺に気があるんじゃないか? と考えていた。それを確かめるためにビエラにそう尋ねる。
「えっと……。カッコいいと、思います」
顔を朱に染め、言葉に詰まりながらもか細い声でビエラはそう言う。
「そうか。俺はビエラは可愛いと思うぞ」
ネイビスは勇気を出して答えてくれたビエラにせめてもの誠意を見せようと自身の思いを告げる。お互いに褒め合う形になったがまたしても会話がそこで途絶える。
「…………」
「…………」
「デッキ行くか?」
「そうだね。イリスちゃんを一人にするのも申し訳ないしね」
二人がデッキにつくや否やビエラはイリスに連行され、一人残されたネイビスはデッキの柵に手をかけ、流れゆく下界の景色を眺めるのだった。
「隣いいかな?」
突如ネイビスは声をかけられる。声の方を見るとそこには白髪の好青年がいた。
「いいですよ。俺はネイビスです」
「僕はルート。よろしくね」
ルートは自己紹介をすると右手をネイビスに突き出した。ネイビスも右手を出して握手する。
「見てたよ。君女の子二人とパーティー組んでるみたいだね」
「そうですが、それが何か?」
「いやー。実は僕もそうなんだ。だから声をかけようと思って」
「理由になっていない気がしますが」
ネイビスはルートがどこか怪しいなと感じていた。そんなネイビスにルートは不敵な笑みを浮かべて告げる。
「いやね。アドバイスをしようと思って」
「アドバイスですか?」
ネイビスが聞き返すとルートは自信ありげに言う。
「もしあの二人とどうにかなりたいのなら先に攻略するべきなのは金髪のお嬢さんの方だと思ってね」
「どうにかなるってなんですか?」
「分からないかい? 君も
「はぁ……」
「要するに恋人になるってことさ」
「こ、恋人ですか」
「見た感じ今君黒髪の子と結構いい感じなんじゃないの?」
「分かりますか?」
「そりゃ僕だからね。そういうの一目見て分かっちゃうんだ」
そう言ってウインクするルートに軽く引きながらもネイビスはどこかルートの話に聞き入っている自分に気づく。
「で、でも。二股前提なんですか?」
「何言ってるのさ。本当は二人とも自分のものにしたいって思ってるくせに」
「否定できないですね……」
ネイビスはこの人はなんでもお見通しなのかと思った。
「それでは何故イリスから恋人になる必要があるんですか?」
「イリスってのは金髪のお嬢さんの方?」
「はい。そうです」
「うーん。もし仮にネイビス君が今のまま黒髪の子と恋人になったらイリスちゃんはどう感じると思う?」
ルートの質問にネイビスは暫し考える。
「三人パーティーの中で一人だけ仲間外れにされたって感じるかも」
「50点かな」
「あと半分は?」
「イリスちゃんね、十中八九ネイビス君に気があるよ」
「なんでわかるんですか?」
「そりゃ、僕がイリスちゃんをナンパした時に気になっている人がいるって言ってたからだよ」
この言葉にやっぱりこの人は危ない人だとネイビスは再確認する。
「人のパーティーメンバーに何してるんですか!」
「ごめんごめん。イリスちゃんがデッキで一人黄昏ていたからつい。僕は寂しがってる女の子はほっとけない主義だからね。でも安心していいよ。僕は人の恋は応援する主義だから、今こうしてアドバイスしてあげてるでしょ?」
「確かにそうですが……」
両手を顔の前に合わせるルートを見てやれやれとネイビスは思う。
「ダンジョン都市イカルに行くってことはダンジョン攻略が目的かな?」
「はい」
「なら、ダンジョンでカッコいいところ見せて今以上に惚れさせれば次第にイリスちゃんもデレてくると思うよ」
「そうなんですかね」
「あのタイプの女の子はプライドが高くて自分の気持ちになかなか素直になれないんだよ。だから攻略には時間がかかるんだ。だからといってその間に黒髪の子とイチャイチャしたらパーティーを抜けようとするかもね」
「では俺はどうすればいいんですか?」
「黒髪の子に言うのさ。『俺はお前のこともイリスのことも愛してる』ってね。多分黒髪の子はそれでも喜ぶはずさ。で、三人でいる時はなるべくイチャイチャしないって決めるんだ」
「二人の時は?」
「そこはご自由にだね」
「そうですか……」
「あと、夜這いだけはやめておいた方がいいよ」
「理由を聞いても?」
「痛い目を見るからかな」
どこか遠くを眺めるルートを見て、「経験談かぁ」とネイビスは思うが口には出さず胸の中にしまった。
「まぁ、頑張ります。アドバイスありがとうございました!」
「どういたしまして」
その後もネイビスはルートと談笑して空の旅を満喫する。日が暮れ始めた頃、飛空艇は巨大なダンジョン都市イカルに着くのだった。
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