ゲーム転生『ランダム勇者』~勇者学院の落ちこぼれ、ゲーム知識使って最強を目指す~
空色凪
第一章 ノービス脱却編 旅の始まり
第1話 いきなり卒業
「それではパーティー決めに入りたいと思います」
教壇に立つ一人の先生が三十人の生徒達を見ながらそう言った。今日はここ、勇者学院の卒業式の日だった。既に卒業式は終わっていて、最後のホームルームが各教室で行われている。ここはFクラス。俗に言う落ちこぼれクラスだった。
「三人一組で決まったら先生の所まで来なさい」
先生の元へと三人組みを作った生徒達が向かって列をなしていく。既に前々からパーティーを決めていた者達だった。対して残された生徒達はどうしようと右往左往していた。
「ねぇ、私とパーティー組まない?」
「君の職業は確か魔法使いだったよね。いいよ」
そんな会話がそこかしこで聞こえる中、一人椅子に座り笑っている少年がいた。
「ふははは。思い出したぞ!これはゲームの世界だ!」
独り言を呟く少年を見て周りの生徒達は距離を置く。
「おい、ノービスがついに狂ったぞ」
「あいつとだけは絶対に組みたくないわ」
少年の名はネイビスと言うが、職業が初級職ノービスだから落ちこぼれのノービスと呼ばれている。ネイビスは学年唯一のノービスで、最弱と悪名高い。
ネイビスは自身の過ごした一七年間の記憶を持ちながらも前世のことを思い返していた。
「これは俺が何度も周回プレイしたゲーム『ランダム勇者』の世界だ! 今はそのスタート場面に違いない!」
ネイビスは前世でプレイしていた一つのゲームを思い返す。その名も『ランダム勇者』。勇者学院のFからSの計7クラスにいる210名の
このゲームの面白い所はなんと全部で1521520通りのパターンがある所だ。キャラの組み合わせで攻略難易度が変わっていく。
キャラごとに職業がありステータスの成長の仕方が変わるため、なかなかに奥深いゲームだ。もちろんリセットしてガチャをやり直すこともできるが、ネイビスはリセマラを邪道として一切リセットすることはなかった。たとえどんなキャラの組み合わせでもクリアできるようになっているのも一つの要因だが、彼のプライドがリセマラを許さなかった。
ネイビスがそんなことを思い返して懐かしんでいると、とうとう最後の三人になってしまった。そのことに気づいたネイビスは席を立って残りの二人の少女の元へ向かう。
「やぁ。俺はノービスのネイビス。一緒にパーティーを組もうぜ」
ネイビスは微笑みながら語りかける。すると、背の低い黒髪のボブの少女が少しだけ前に出て軽くお辞儀をした。
「お、お願いします……」
「ちょっとビエラ。こいつノービスなのよ!わかってる?」
「で、でも。私たちしかいないし……」
「それはそうだけどさぁ」
二人の名はビエラとイリス。イリスは金色の長髪をした強気な少女で、背はネイビスより少し低いくらいだった。どうやらイリスはネイビスとパーティーを組みたくないらしい。
「大丈夫。俺、こう見えて結構強いから」
「誰でもなれるノービスなのに?」
「そう。ノービスこそが最強になれる唯一の職業なんだ」
ビエラはその話を聞いて「へぇー。そうなんだ」と納得し、イリスは「あほくさ」と首を振っている。
「どのみち私達三人で組むしかなさそうね。私はイリス。剣士……見習いよ」
イリスが諦めて自己紹介をしたが、職業を言う所だけ声が小さかった。恥ずかしかったのかとネイビスは思うが同時にはっとする。
「もしかして見習い職?」
ネイビスがそう聞き返すとイリスは顔を赤くして「そうよ、悪い?!」と大声で言い返した。
「いや、悪くない。というか、むしろ最高だわ」
「へ?」
ネイビスの言葉にあっけらかんとするイリス。この反応は無理もない。ノービスに並ぶ初級職が所謂見習い職と呼ばれるものだった。
例えば剣士系統で言えば初級職が剣士見習い、下級職が剣士、中級職が剣豪で上級職が剣聖となる。
Fクラスの中でも初級職の生徒は少なく、彼らは落ちこぼれの中の落ちこぼれという不名誉な烙印を押されていた。そんな初級職である剣士見習いを最高とネイビスは称したのだ。驚くのは必然である。
「いいか。初級職こそが最強へと至る道だ」
ネイビスは自信を持ってそう断言する。それを見てイリスはすかさず言い返す。
「そんな訳ないわ。だって、同じレベルでも職業のランクが違うだけでステータスにも差が出るって授業で習ったじゃない」
確かにランクによってレベルが上がるごとに上昇するステータスは異なる。勇者学院の生徒はどの職業がどのくらいステータスが上がるかを既に授業で習っていた。例えば初級職のノービスが一番低く、上級職の勇者が一番高い。その上昇値は以下のようになる。
ノービス
HP:3
MP:3
STR:1
VIT:1
INT:1
RES:1
AGI:1
DEX:1
LUK:1
勇者
HP:9
MP:9
STR:3
VIT:3
INT:3
RES:3
AGI:3
DEX:3
LUK:3
このことを考えれば職業ランクが高い程強くなれるはずだ。だが、『ランダム勇者』において唯一のノービスの職を持つキャラであるネイビスはむしろ一番の当たりキャラだった。なぜなら……。
「イリス。転職って知ってるか?」
「え? 何の話? 転職って仕事を変えるっていう意味でしょ?」
イリスの反応を見てネイビスは疑問に思った。ネイビスはさっきからずっと黙ったままのビエラの方を向き、同じ質問を尋ねる。
「私も、イリスちゃんの言っていることが正しいと思う」
二人の反応を見てネイビスはこの世界に転職という概念がないことに気付く。確かに今思い返せば学校の授業で転職については一切語られていなかった。
ゲームではレベル99に達するとスキルやステータスを引き継いで一つ上のランクの同系統の職業のレベル1に転職出来るのだ。
ノービスはさらに一段階多く最初に見習い職に転職出来るので、この点で育成次第ではゲーム内最強ステータスに至ることができる。
ネイビスというキャラは全ての系統で最強になり得るので、ジョーカーキャラと呼ばれていたりもした。
だがここは現実世界。そもそもレベル99に達することがまず不可能なのだ。授業で習った歴史上最高到達レベルは確か67とかだったはず。
「この話はまた今度しようか。それより君はビエラであってる?」
ネイビスは一旦転職のことを保留し、三人目のメンバーの自己紹介を促す。
「はい! 私はビエラです。職業は僧侶見習いです……。よろしくお願いします!」
「よし。ナイスだ、僧侶見習い!」
ネイビスはかなり興奮していた。このパーティーなら、最強を目指せると確信していたからだ。ネイビスはいずれ魔法職方面に転職しようと考えていた。近距離の剣士系、遠距離の魔法系、回復の僧侶系とバランスも比較的良く、何しろみんな初級職スタート。もしこの世界が『ランダム勇者』の世界と同じなら、今回のガチャは間違いなく神引き。しかも、一番育成に時間のかかる玄人向けのキャラ構成だ。
前世の記憶はゲームに関する知識以外ほとんどないが、ネイビスとしてこの人生を思い切り楽しもうと少年は決心するのだった。
※作者より
ゲーム転生『ランダム勇者』第一話をお読みくださりありがとうございます。
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