王になりたかった男(徐福伝説と明智光秀)
野松 彦秋
プロローグ
第1話 従兄妹同士
紀元前219年、現在の中国を統一した秦の始皇帝に徐福という男が、不老不死薬に関する上奏をし、男自ら海に出て不老不死の神薬を探しに海に出たという。男は、数年の間探したが、神薬は見つからなかった。
徐福は始皇帝に神薬が無かったとも言えず、東方の三神山に長生不老の神薬がある事が分かったと報告したのであった。
東方の三神山に住む仙人が神薬を持っているが、其処に向かうには大型の船が必要であり、神薬と交換する良家の3,000人の若い男女と、大量の五穀の種、又三神山に到着するまでに様々な問題が発生する事も考えられ、優秀な技術者も同行させて欲しいと徐福は始皇帝に願い出たのである。
始皇帝は、徐福の言う事を真に受け、大いに喜び、そして徐福の願い通りの人材と物資を用意し徐福に渡したという。徐福は、万全の準備をして海に出たが、そのまま2度と中国には戻らなかったという。
伝説の落ちとして伝わっている話の中には、徐福は元々医者であり、元から神薬の存在等信じていなかったという。始皇帝を騙し、巨財を得て海外へ逃げた言う説がある。又は、神薬の存在を信じ探したが、終には見つからず、国に戻れば殺されると思い、戻らなかったとも言われている。
徐福が神薬を求め、向かった島が日本であり、三神山は富士山であったという説もある。
徐福が連れて行った3,000人が現在の日本に土着したとも考えられ、現代の中国人の中で、その説を信じている人も多い。2200年前の話であるため、正に伝説である。
時は流れ、1535年美濃の国。一人の少年と、幼い娘が二人で木登りをして遊んでいた。
少年の名前は、彦太郎。美濃の守護土岐政房の家臣長井新九郎(後の斎藤道三)の家来明智光綱の息子であった。
娘の名は煕子(ひろこ)といい、同じく長井新九郎の家臣、妻木広忠の娘であった。二人は親戚で従兄妹同士であった。
ひろこは、活発な女の子で、怖い物しらずな所があり、年上の彦太郎の静止を聞かず、男の子顔負けに着物の汚れを気にせず、どんどん木の高い位置迄登ってしまう。
『ヒロコ殿、その場で待ってて下され、下を見てはいけませんよ。』と彦太郎が言っている途端に、『彦太郎兄様、見てください。私、こんなに高い所迄登り・・・。』とひろこは言いながら、下をみてしまい、その時初めて自分が能力以上の場所迄登ってしまった事に気がつき、言葉を止める。
自分が落ちてしまったらどうなるんだろうと、突然生まれた恐怖で身体が硬直してしまうひろ子であった。落ちまい、落ちまいと思うと、逆に身体が緊張し、ずるずると身体が滑る。気がつくと、身体の重心を預けていた足が木と枝の間から滑り落ち、非力な両手で木の枝に捕まっている状態になっていた。(落ちるぅ・・。)と思った瞬間には、落ちていた。
背中から、地面に落ちたと思ったひろ子であったが、自分の頭の上から聞こえてくる彦太郎の泣き声と、息遣いで我に返る。
(痛い、私、木から落ちたんだ。)と認識すると、ひろ子も彦太郎の泣き声以上の大きい声で泣き出す。
ひろ子は、気づいていなかったが、彦太郎が落ちてくるひろ子を受け止めようとしたため、彦太郎の身体がクッションになり、ひろ子が受ける衝撃を彦太郎が代わりに受けたのである。しかし、彦太郎の身体も、未だ子供であり、地面の衝撃と、ひろ子の体重をまともに受け、彼は堪えきれず泣いたのである。
二人の子供の泣き声に気づいて、大人たちが二人に近寄る。
『御二人とも、何をしたのですか、ひろ子様大丈夫ですか??。』
『彦太郎様も・・・・・。』
『彦太郎、何たる様じゃ。武士の子であるお主は、どんな事があっても泣いてはならんぞ、そんな事では、亡き兄上も、草場の影で泣いておるぞ!。』と彦太郎の叔父で明智城の城主、明智光安も甥っ子達の異変に気づき近づいてきて、泣いている彦太郎を怒鳴りつけた。
『はぁい、叔父上殿、申し訳ございませぬぅ。』と必死に泣き止もうとする彦太郎、しかし、痛みに加えて、叔父の迫力で、どんなに頑張っても、呼吸が早くなり、鼻をずぅずぅ言わせながら、涙が止まらない。
『叔父上様、私が悪い、うぐぅ、私のせいで、彦太郎兄様が泣いてるの。彦太郎兄様は悪くない・・ヒックッ。』と泣いていたひろ子が、幼いながらに、彦太郎を庇う。
『ああ、そうか、ワシも、声を荒げてしまったな、スマヌ、儂も悪かった、彦太郎も、ひろ子もケガは無いか?』と光安も、困り顔で、幼い甥っ子、姪っ子の頭を撫でながらあやす。
二人は、泣きながらも、光安の問いに答える様に頷く。
1535年、美濃の国では守護大名であった土岐政房が亡くなり、残された息子達同士で熾烈な家督相続を争っている最中であった。その内乱の中、彦太郎の父明智光綱は討ち死にしてしまい、急遽、光綱の弟、光安が亡き兄に代わって城主に就任し、一族の危機に、親戚一同士の絆を強め乗り越えようとしている時期であった。
彦太郎と、ひろ子はそういう環境の中、幼き時期に親戚として交流していたのであった。
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