ラディの話1

 グラントとリサが出発するまであと10日あまり、僕は約束通り、リサに料理をコーチするため、駐機している船に向かった。

 

 リサの、グラントに(自分が作った)美味しいものを食べさせてあげたいという気持ちは大事にしたいし、まずは簡単にできそうなところからはじめてみようと思っている。


 実際に船を見るのは、はじめてだった。


「設計などの予備知識がないラディが、先入観無しでチェックしてきて欲しい」と、モーリスは言って、僕を船の改造に関与させなかったのはこのためだったのだろうか。


「ラディさん、こっちです!わざわざありがとうございます」

 リサがデッキで手をふって迎えてくれて、船の中をひと通り案内してくれた。


 スターランナー号。

 新造船ではなく、僕達の船だったニューホープⅡ号をベースにしたこの船は、モーリスが設計し、ヴァン所長が実際に改造した。


 僕達の船とは違い、辺境に行って調査する必要はないから、中はコンパクトでシンプルだった。大きな違いは貨物室を広くとっていることと(貨物輸送がふたりのメインの仕事になるから)、グラントとリサのふたりだけでも運用できるよう造られていること。

 学習機能があるAI箱舟アークと補助ロボットSUB 2nd.を搭載していて、自動修理、補修、整備をサポートすることが可能になっている。


 AIアークの経験値を上げるためにも、モーリスは慎重にテスト飛行を繰り返してきた。


 もちろん、それだけコストも当初より大きくふくらんでいて、請求書の山を偶然、目にしたグラントは、

「えっ…。モーリス、これ、いつ返済完了して、オーナーになれるかわからないよ」と、絶句していた。

 モーリスは平然と、「うん。急がないから全然大丈夫」と言ってたけれど、何の気休めにもなっていなかったと思う。


 

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