第13話 探りを入れる

 裁断機での作業が終わり、次に秋田は短冊切りした紙をハサミで細かくする作業を手伝うことになった。


「妹尾さんは、ここに来てどれくらい経つんですか?」


 そろそろ情報収集を始めようと思い、秋田は隣で同じ作業していた妹尾に話しかけた。


「そこそこの長さかな」


 妹尾から素っ気ない返事か帰ってきた。あまり聞かれたくないのかな?


「はい。秋田くん。手をおろそかにしない。つかんで、ずらして、切る」


 元教師の木下が、秋田に声をかけてきた。


「あっ、はい。すいません。つかんで、ずらして、切る。つかんで、ずらして、切る」


 どうやら無駄口を叩かずに作業しろということらしい。秋田は空気を読んで、黙々と紙を切り続けた。


 しばらくして、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します」


 ドアが開き、帽子を被った若い男が入って来た。


「紙吹雪の準備は、できましたか?」


「あとはそこにあるものを詰めるだけです」


 妹尾がすぐに答えた。


「分かりました。では、こっちの出来てる分は、先にスタジオに持っていきますね」


 若い男は持ってきた台車を会議室の中に入れて、箱ごと紙吹雪を持って行った。


 紙を切り終わった秋田は、次に作った紙吹雪を段ボールに詰め込む作業を手伝った。


 紙吹雪を全て段ボールに詰め込み終えると、木下が秋田に話しかけてきた。


「じゃあ、残りをスタジオに持っていこうか」


「はい」


 秋田は木下とともに、紙吹雪を詰めた段ボールを持ってスタジオに向かった。


 スタジオに入ると、先ほどの若い男が数人の仲間と共に紙吹雪を装置の中に詰めていた。


「お疲れ様です。これで全部です」


 木下が先ほどの若者に話しかけた。


「あっ、ご苦労様です。そこに置いてください」


 木下と秋田は持ってきた段ボールを彼のそばに降ろした。


「よし。それじゃあ、秋田くん。後片付けをしに会議室に戻ろうか」


「はい」


 秋田は木下と共に会議室に向かって歩き始めた。


 スタジオを出て通路を少し進んだ所で、木下が秋田に話しかけて来た。


「秋田くん。紙吹雪を作っている間、何を考えていた?」


「えっ? そうですね……特に何も考えていませんでした」


 秋田は正直に答えた。


「そうか。それはよかった」


 木下がうれしそうに言った。


「何も考えなかったのが、いいんですか?」


「ああ。何も考えない状態になってほしくて、来紀さんは君に単調な作業をやらせていたからね。作業中、君の悩みは消えていただろう?」


「はい」


 確かに作業に没頭している間、余計なことは何も考えなかった。


「あの単調な作業には、きちんと意味があったんだよ。君が妹尾君と会話しようとした時すぐに止めたのも、作業に集中して悩みを全て忘れて欲しかったからなんだ。あの時はあまりいい気分がしなかったと思うから謝るよ。すまなかったね」


「いえいえ。僕の方こそ、初対面の人に対して、あまりに踏み込みすぎた質問でした。止めてくださり、ありがとうございます」


「君は本当にまわりへの気配りができる子だね。悩みがあってここに来ているとは思えないよ」


 秋田は愛想笑いをして、その場を上手くやり過ごした。


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