第15話 復讐の代償と愛の告白の結果

「やったぁ‼ 成功しタァァァ!! あははっは!」


「な、何やってんだ! 人殺しだぞ‼」


「あはははははははははははははははは。イケメン……イケメンがいる。私だけを愛して、可愛がってくれるイケメン。イケメンんんんん! あっはぁ~ハハハハハっハハハハハ!」


 ケタケタと狂ったように笑う七瀬さん。既にその眼に生気はなかった。黒髪がどんどんと白くなり、そして、老婆のように老いていく。まるで悪魔が願いを叶えた代償を受けたかのように、恐ろしく醜い姿になった。

 しかも、七瀬さんが言うイケメンはどこにもいない。

 なんだ……、ホラーか?

 いや、そんなことを気にしている場合じゃなかった。


 七瀬さんのことなんてもうどうでもいい。


 俺も遅れて橋を勢いつけて飛び蹴り、命綱のないバンジージャンプで後を追う。

 遥のピンチだからか、いつも以上に身体能力が上がっており、すぐに追いついた。


「遥ぁぁぁ!」


 落下の最中。遥は子猫を抱いて丸くなっていた。

 俺は遥と子猫を守るように前から抱き抱える。

 橋からの川面まで軽く百メートル以上はあった。

 このまま川面に打ち付けられたら怪我は免れない。


 最悪川の水深が浅ければ、地面に叩きつけられて死ぬかもしれない。

 いや、俺の体は魔法で強化されている。

 どれだけ耐えられるか分からないけど、俺が遥と子猫のクッションになればいい。

 

 ゴゴゴゴゴと流れの速い川の音が聞こえた。

 そうだ、今は大雨の後だった。運よく助かったとしても、川の流れが速く、溺れ死ぬ可能性もある。八方塞がりのこの状況に絶望を感じざるを得なかった。


 また、死にかけるのかよ。

 いや、今度はぽっくりと逝ってしまうかもしれない。

 でも、大切な人を守れないで、死ぬのはごめんだ。

 せめて遥だけでも必ず……。

 遥がこっちを見た。


「私、景太のことが好きです」

「えっ。今言う⁉」

「だって、このまま下に落ちてお互いに死んだら言えないかもしれませんから……。私、さっき公園で分かったんです。私はあなたに初めて助けられた時からずっと恋に落ちていたって。あなたの優しさに触れられて幸せでした。大好きです。この想いに嘘はありません。私の本心です。…………景太は?」


 ジーッと言葉を待つ天音さん。

 俺は観念するしかなかった。


「好き。俺も大好きです! 初めて遥にキスしてもらった時からずっと好きでした! ずっと夢中でした!」

「これからも?」

「もちろん!」

「……良かったぁ……」


 そして、ホロリと涙袋に溜まった涙が宙を舞った後、俺の胸に顔を埋めた。

 死ぬ直前、念願叶って初の恋人ができたわけだけど、本当にこのまま死んじまうのか――。


【告白をありがとう、お幸せにね――魔法を授けます】


 声が聞こえた後、俺の眼がズキリと痛む。

 すると、子猫が遥の胸からゴソゴソと出てきて、俺のことをじっと見つめる。

 俺の瞳と子猫の瞳が呼応し、光が宿る。

 子猫の瞳にほんの数日前の朝に見た俺と同じロザリオが浮かび上がってきた。

 え、何、何が起こるの?


「みゃー!」


 子猫が光に包まれると、急激にその体を大きく変化させ、ファンタジーな純白のフリルを来た猫耳少女に変化した。


「うえええええええ⁉」


 なんか進化しちゃったよ!


 猫耳少女は微笑み、俺たちを両脇に抱えると、くるりと一回転。

 空気の壁でも蹴ったのか、橋脚を経由して川岸まで跳んだ。

 俺たちは猫耳少女に川岸に降ろされ、座ったまま呆然としていた。

 間一髪の出来事に頭の処理が追いつかなかったが、それよりも――。


「子猫が人間になった……」

「私は主様の力を借りただけ。凄いのは主様なの」


 従順そうに俺に片膝をついて、頭を俺に向ける猫耳少女。

 しっぽをゆったりと左右に揺らしながら、何かを待っている。

 あぁ、これってもしかして……。

 そっと頭を撫でてやった。


「良くやった」

「主様はよくわかっているの。もふり最高……」


 俺に撫でられてふわわわっと幸せそうな猫耳少女を置いといて、遥を見た。


「これ、どうなっているの?」

「おそらくエルマ様から授けられた神聖魔法でしょう。恐らく、景太と意志が通じた者を人化させ、しかも聖化させる力……名付けて聖転眼」


 は、遥……、急に厨二が過ぎるよ!

 別に良いけどさ!

 遥は少し考え込んでいたが、俺が猫耳少女を撫でているのを見たら――。


「わ、私ももふもふさせてください!」

「んにゃ⁉ くすぐったいけど、嬉しい‼ もっと撫でて!」


 遥は幸せそうに猫耳少女の頭や顎下を撫でる。

 そして――。


「ありがとう景太。あなたも……」


 俺の胸に飛び込んできた。

 

 俺は遥と猫耳少女を受け止め、そのままぱたりと仰向けになって大の字に倒れた。


「まぁ、何はともあれ助かって本当に良かった……」

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