俺を巻き込むなよ
ここに来るまで食べていなかったのか? 俺たちを盗撮していたから?
「伊沢さんもダボーチーズじゃない」
ニコッと笑う伊沢。無気味なヤツだが可愛い顔にもなる。よくわからないヤツだ。
学校にいる時よりも編み込みリボン増えていないか?
「恋バナ――興味あるです。とても」
「協力してくれるなら話すよ」話すのかい!
理解できない。そんなぺちゃくちゃとHGS作戦を明かすのか?
「する。する」協力の中身も聞かずに伊沢は眼鏡の奥の目を輝かせた。
俺の向かい側にいた幸村はいつの間にか伊沢の向かい側に移動していた。話す気満々だ。
俺はしばらく幸村と伊沢の茶番に付き合わされることになった。
「どうやったらうまく手渡せるかな」ラブレターのことだ。
対象が
伊沢は好奇心を隠せずに聞いていたが、幸村が手渡し方法を相談するとわずかに
お前も無理ゲーだと思ったな。
「高い目標に挑戦する幸村くんは勇気があると思う――」伊沢が真顔になった。
背筋もピンと伸ばし、三枚目ではなくなった。
こいつはころころと印象が変わるヤツだ。好奇心旺盛なパパラッチだったり、学級委員の腰巾着だったり、陽気な酔っ払いだったり……、カメレオン女優か?
「――それが越えられない壁であったとしても――」はっきり言うな。「――でも何事も挑んでこそ青春」は?
目を細める伊沢。うんうんと頷く幸村。勝手に盛り上がるなよ。
「私たちは最後まで君の挑戦を見届けてあげるわ!」
私たちって誰だ? 俺は知らないぞ。それに最後までって……。
「まずはそのラボレロゥー……」ラブレターね。「渡される側の立場にたって考えてみよう」
お、まともなことを言うのか。
「――よく知らない男子にいきなり渡されてどう思うか」
いや、もう幸村のキャラはクラス中に知れ渡っているだろ。よく知らない男子ではない。たぶん見たままの男だ。
「この間、自己紹介したのだけれど、それだけでは不十分なのかな?」
「顔と名前が一致するだけでは理解したことにはならない」
「なるほど」
普通はそうだが幸村は一度見たらわかるキャラだろ。空気読めない。
それでも持ち前の行動力で無理やりクラスメイトとコミュをとっている。別の意味で尊敬に値する男だ。
「やはり何度か一緒に行動をともにするしかない」と伊沢。
「フムフム」と頷く幸村。
伊沢もおかしなヤツだがこうして見るとまともに見えるぞ。
「ということでまずはグループ行動が妥当です」
「グループ行動?」
「いきなり一対一のデートに誘うのはノンセンス」
「ノンセンス?」
「断られるのがオチ。仮にうまくいったとして校則で禁じられた男女交際を疑われる。だからこそのグループ行動。あの名高いS組グループも複数の男女で動いている」
俺はよく知らないが中高一貫生に「S組」という文武両道の美男美女グループがあり、学園のカーストトップの存在で、そいつらは男女交際をごまかすために常に複数で動いているらしい。
そんなカーストトップグループを引き合いに出したものだから幸村も頷いた。
「よくわかったよ。いわゆるダブルデートだね」
「そう、ダボーデイト!」
「オー、ダボーデイト!」
二人で意気投合してるぞ。何だか怪しげな展開になってきたな。
頼むから俺だけは巻き込むなよ。
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