ハーシェル・ネヴィルの武勇伝? 女の敵、しかし何故かモテる。~終焉の謳い手〜

柚月 ひなた

女の敵、しかし何故かモテる。

 ハーシェルには三分以内にやらなければならないことがあった。


 それは目の前の問題——全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのごとく、食堂に押しかけて来た三人の女性達をなだめ、仕事へ戻る事だ。


「ちょっとハーシェル! どういうことなのよ、この女達は何!?」

「あんたこそ何よ! ハーシェルとどういう関係なの!?」

「ねえ、私の事『愛してる』って言ってくれたでしょう? あれは嘘だったの?」


 子爵ししゃく家の三男坊、エターク王国の騎士であるハーシェル・ネヴィル。

 金髪緑眼、女性受けが良い整った容姿をしており、ノリが良くて女性にモテる色男。


 剣の腕には少しばかり覚えがあり、騎士となった。


 貴族だが、三男のため家督かとくを継ぐ責務はなし。

 適度に裕福で、衣食住に不自由もなく、気ままな人生を謳歌おうかしていた。


 彼女達は彼の恋人——などではない。

 決してない。


 どこの師団しだんの所属かは忘れたが騎士団の女性団員で、名前は朧気おぼろげにしか覚えていない。


 どんな関係かって?


 酔った勢いで一夜を共にした子達だ。

 

 ハーシェルは女性が大好き。

 更にきっぽく浮気性なため、このような修羅場しゅらば日常茶飯事にちじょうさはんじだった。


 騎士団でも周知の事実として知れ渡っているのだが、何故か被害に合う女性が後を絶たない。


 度々トラブルを起こしている事もあって、ハーシェルは対処法に自信があった。


 だが——今は時間がない。


 昼休憩きゅうけいの終了まで後三分。

 この後、騎士団の遠征任務で出なければいけないため、時間厳守じかんげんしゅ


 遅刻でもしようものなら大目玉である。


 もし遅れた場合——。

 ハーシェルは所属する特務部隊一班のメンバーの反応を想像してみた。


 団長は怒鳴らないが静かにキレて、きびしい懲罰ちょうばつして来るだろう。


 副団長は、団長が口頭で怒らない分、一時間はたーっぷり、お説教を喰らう。


 先輩のディーンさんは「男ならそれぐらいの遊び心がなくっちゃなぁ!」って笑い話にしてくれるはず。


 同僚で同期の親友——とハーシェルは思い込んでる——アーネストは、何だかんだグチグチと言って来るだろうな。


 そして紅一点こういってんのアイシャは、汚物を見るような目で見て、突っかかって来るに違いない。

 下手したら得意の魔術で氷漬こおりづけにされる。


 そんなこんなで、彼らに知られたら面倒くさい事この上ない。


 絶望的な状況だが、己の心の平穏のため、あきめる訳にはいかなかった。


「とりあえず、落ち着いて。そう怒ったら、綺麗な顔が台無しだ。話なら後で聞くから、今は——」

「「「は!? 今話さなくて、いつ話すのよ!?」」」

「……ういっす」


 当たりさわりなくなだめようとしたが、失敗だった。


 可憐かれんな花達は、怒り狂う獣に豹変ひょうへんしており、聞き耳を持っていない。


(……あーあ、ベッドの上ではみんな可愛かったのになぁ)


 そんな最低な事を考えている間にも時間は過ぎて行く——。


 そして、むかえたタイムリミット間際。


「——騎士ならば、正々堂々、決闘で白黒付けるべきね!」

「良いでしょう、受けて立つわ!」

「命を落としたとしても、うらまないで下さいね?」


 騎士のほこりとも呼べる剣を抜いた彼女達。


「ちょ!? 流石にそれはまずいって! 落ち着こうぜ!?」

「「「うるさい!!!」」」


 当人を置いてきぼりにして、あわや刃傷沙汰にんじょうざたに発展しかけた。






 結局、ハーシェルは集合時間には間に合わず。


 それどころか食堂で見ていた騎士達が「これはまずい」と、事態の収拾に団長を呼びに走ってしまい——。


「ハーシェル、貴族たる者の品格について、もう一度学び直した方良さそうだな。優秀な教師を手配するから、休暇きゅうかはじっくりと勉学にはげむといい。

 ああ、それとしばらく休憩きゅうけい時間は俺の鍛錬たんれんに付き合ってくれ。丁度、打ち合う相手が欲しかったんだ」


 にっこりとした笑顔の裏に、とんでもない殺気をひそませた団長に、こってりしぼられる事になってしまった。

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