第33話 レベルアップ

 川についた僕はストーンナイフを作った喜びで、魚を大量に乱獲してしまった。


 サクサク切れるナイフを使いたくてしょうがないのである。


「これはカリカナの分、これはパンヤオの分......っと、ふぅ」


 作業が終わり一息つく。


 タジキさんとの合流時間を気にしなくてよい分やりすぎた感はある。


 ナイフを綺麗に洗い腰に差そうと思ったら、剥き出しの刃が恐ろしすぎた。

 どうしようか少し悩んだ結果、クレイで粘土を作りだし鞘をっぽいものを作成。


 一度ストーンナイフを刺して空洞を作り、ドライで少し乾燥させる。

 もう一度ストーンナイフを差し込み引っかかりがなくなるまで中を削り、具合が良くなったらファイアーで焼き固める。


 そうするとあら不思議あっという間にストーンナイフの鞘の出来上がりってね。


「良い感じじゃないの~?」


 カゴを背負い村への帰路を歩き出す。

 そして問題となる場所へたどり着いた僕はカゴを下ろし、蛮族鈍器を強く握りしめた。


 残念ながら僕はこの世界の人間ではないし、考え方も根本が違う。


 魔物はこの世界の生き物からでは得られない経験値がある。

 レベルアップは異世界転生者としてこの世界を自由に生きる為の優位に立つ条件であることは揺るぎない。


 僕の知る異世界の生活は強さなくして、自分を守れない。

 多少の危険なら飲み込んで力をつけるべきだ。


「今度は完封勝利してやる」


 深く深呼吸して戦前の早る心臓をすこし落ち着かせる。


 どの距離で魔力溜まりが反応するかわからない。


 ゆっくり注意深く近づく。


 魔物が出てくることが分かっているなら先制攻撃をするのは容易い。

 出現と同時にファイアを放つか......それとも蛮族鈍器で殴りつけるか......。


(来い、コイ、こい、来い!)


 魔力溜まりが反応して空間にヒビが入る。空間の裂け目から黒い物体がこぼれ落ちた。


(キタ!)


 僕は出現した黒い物体に走って近寄り蛮族鈍器を振り下ろした。


 蛮族鈍器は黒い物体をすり抜け地面を叩く。


「すり抜けた?!」


 攻撃判定をすり抜けた黒い物体から慌てて距離をとる。


 黒い物体はカタカタと音を立てて形を変える。

 それは魔力が物質へと変わるように黒い煙が漏れ出し液体のような不定形の物質が姿を現す。


 次第に体を作り上げるように液体から個体に質感が変化しているように見えた。


 黒い靄が霧散して、姿現れる。


 魔力溜まりから現れた醜悪な人形の姿をした魔物は、こん棒ユラユラ揺らしながら下から覗き込むように睨んでくる。


「ファイア!」


 姿が明確になった魔物に魔法を放つ。先制攻撃は譲れない。


 魔物は小型で人間の子供のような大きさだ。

 僕のファイア一発で仕留められるとは思わないが、継続ダメージを与えればいけるか?!


 魔物はファイアの火炎に全身を包まれた。


 この火炎に苦しむ魔物の影を想像したが、そうはならなかった。


 僕の視界は炎で遮られて敵の確認ができずにいた。だからといってここで魔法を止める事はできない。

 初手でどれだけダメージを与えられるかで、その後の戦闘の難易度が大きく変わる。


 慎重に慎重を重ねてダメージを与えるつもりが裏目に出た。


 まさか炎を突っ切って突然目の前に魔物が飛び出してくるなんて思いもしなかったんだ。


 炎の魔法にこんなデメリットがあったなんて!


「ギギギ」


 魔物は炎の中から現れ、こん棒を振りまわし僕の太ももを渾身の力で叩いた。


 重い衝撃が体を突き抜けていく。


 攻撃を受ける覚悟があったおかげか不思議と痛みは我慢できてしまう程度。

 足に力を入れて倒れないように踏ん張る。


(コイツ、大したことないぞ!)


 これなら大丈夫と思いカウンターにと蛮族鈍器を振り下ろし体勢に入った矢先、視界に黄色の危険エフェクトが入る。


 HPを見ると残り4?!


  たった一撃で痛みもさほどないのにこのダメージはおかしいだろ。


 魔物も追撃の攻撃モーションに入っている。僕もカウンターを狙った一撃の動作中で避ける事はできない。


 ここからできるのは......!


「ヒール!」


 魔法を唱えると僕の動作とは無関係に発動してくれた。


 それと同時に蛮族鈍器は魔物の脳天を割り、魔物のこん棒は僕の左腕を破壊した。


 パリンっと何かが弾ける音がして腕に突き抜けた衝撃は耐えがたい痛みとなって僕を襲う。


 魔物は魔結晶となって砕けた。


 僕は痛みに倒れ込んで呻く。


「あ゛ア゛ア゛ア゛あい、い痛いぃぃ痛いっ! うぐぅっ」


【魔物をたおした】

経験値10を手に入れた。

魔物は魔水晶の欠片20を落とした。


マナブのレベルが上がった。




 視界は真っ赤に染まり、僕のHPはまたしても0。

 それでも死んでない事を喜ぶべきか、自分の弱さを嘆くべきか。


 HPが自然回復で1になると少しだけ痛みが和らぎ、何とか魔法を唱えることが出来た。


「ヒール」


 HPが2回復する。


 効率は落ちるけど、痛みから逃れるためにこのまま効果を維持。

 視界の点滅が赤から黄色、そして通常の視界に切り替わり魔法を解除した。




朝凪 マナブ Lv.2

混濁の魔法使い


HP 8/15

MP 3/20



ちから   7

みのまもり 6

かしこさ  10

すばやさ  7

きようさ  15

たいりょく 71



ステータスの確認をする。


 レベルが上がって能力が少しだけど上がったが、体力だけが下がっている。


 腕は折れたのか、打撲で済んだのか動かすと痛みが走る。


 MPの回復を待ってヒールを何度も唱える。



朝凪 マナブ Lv.2

混濁の魔法使い


HP 15/15

MP 4/20



ちから   7

みのまもり 6

かしこさ  10

すばやさ  7

きようさ  15

たいりょく 71


 HPを全回復しても腕のケガは治らない。

 しかしHPが回復したおかげか腕の痛みは痛み止めの薬を飲んだ時のような疼痛程度に落ち着いてきた。


「ヒール」


 腕に手を当ててヒールを唱える。


 ケガは治らない。魔法は万能じゃないのか、何かを誤解している......?


「......キュア」


 ピコン少し聞きなれた通知音が聞こえた。ステータスを確認するとキュアの魔法が追加されていた。


朝凪 マナブ Lv.2

混濁の魔法使い


HP 15/15

MP 0/20



ちから   7

みのまもり 6

かしこさ  10

すばやさ  7

きようさ  15

たいりょく 81

 

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