第10話 マナブハウス
食事を終えた僕とユイファは干し草のところまで戻ってきた。
「干し草はこのまま日暮れまで干していれば大丈夫だ。使ってみて乾燥が悪ければまた明日干せばいい」
「ありがとうユイファ助かったよ」
「これからマナブはどうする?」
「そうだな、タジキさんに家は作れるか? って言われたんだ」
「家か、少しずつ作るしかない。何か手伝うか?」
「うーん。まずはどんな家にするのか考えるよ」
「それなら、私は木の実を採りに行く。手伝う事ができたら明日にでも言って欲しい」
「ありがとう、言葉に甘えさせてもらうよ」
ユイファは僕から良い返事が聞けて満足したのかカゴを持つとニパッと笑って森の方へ入っていった。
僕はと言うと、もちろん魔法でどうにかできないかを考える。
典型的なのが土魔法で箱状の家を形成してしまう事なのだが、僕のスキル【全魔法】で土魔法に当たるのは【アース】、【ストーン】、【サンド】など名称で表されている。
【ファイア】、【サンダー】、【ウォーター】などは分かりやすい。土魔法に関しては状態によって細分化されているという事だろうか? とりあえず魔法を行使してみる。
僕は両手を地面に当てて魔法を唱えた。
「アース」
地面がすこしやわらかくなっただろうか? 大きな変化はない。いわゆるトウフハウスをイメージして唱えてみても建造物が出来上がることはなかった。
「ストーン」
手を起点に小石や土、砂が集まりひとつの石が形成された。現象として面白い。まるで手品を見ているようだった。いや魔法なのだけど。
続けてストーンを唱えると、手の中に出来上がった石に追加されて一回り大きくなった。興味深いのが別々の小石が融合してひとつの石に変わってしまったことだ。
石を邪魔にならないところへ転がして、今度はサンドを唱えてみる。
「サンド」
土だった部分がさらさらと細かい粒子の砂へと変わった。ふと思いついてさっきの石を拾い上げてサンドの魔法を唱えてみると、こちらは砂利のような少し荒い砂ができた。クールタイムを待ってもう一度サンドをかけてみると更に細かいサラサラとした粉状に変わった。
手が砂埃で汚れてしまったのでウォーターを唱えて水を出して手を洗う。魔法ってやっぱり便利だな。
足元を見ると砂が水を吸って泥になっていた。粉になるほど細かくしたこともあって水を吸収したのだろう。
......確かこのような泥から粘土を成形して陶器を作るのではなかっただろうか? 曖昧な知識だが魔法が使える今なら簡単に試す事ができる。
それなら試してみるのが早い。粘土を練って丸く形成する。
次は周りの安全を確保してファイアで焼いてみる。
ファイアの効果時間は3秒程度、1回では焼き上がらないのでクールタイムを待ってもう1度唱えるとウィンドウが勝手に表示された。
『ファイアの熟練度が上がりました』
「熟練度システムがあるのか!」
魔法の詳細ページを開いて何が変わったのかを確認すると、効果時間アップとあった。
これはありがたい変化だとファイアを唱える。3秒経過してもファイアを継続できるようになった。そのまま10秒以上維持できたので意識的にファイアを中断する。
ステータスを確認するとMPが4になっていた。魔法の使用を止めると今まで通りクールタイムが発生するようだ。
もう一度ファイアを唱えながらMPに注目すると、発動時にMPが1消費され、3秒後にまたMPが1消費されたと思ったら、魔法発動中にも関わらずMP自然回復スキルのおかげかMPが1回復した。
魔法を使って焼き続けたおかげで粘土もいくらか焼き上がったみたいだ。
見るからに熱そうなので石を拾って軽く叩いてみると硬質な手ごたえが返ってきた。予想外にうまくいって自画自賛する。それにこれは陶器というよりはレンガに近い。
......レンガなら積み上げるだけで家ができる。
配合やらなにやらできっと強度も変わってくるのだろう。残念ながらそういった知識は僕にはない。
粘土を焼いたら陶器になると思っていたのに出来たのはレンガのような塊だったのが幸運だ。
さすがにレンガの作り方までは知らなかったが陶器と似たような製法だったのは今に思えば納得である。
「ふふ......そんじゃ、ここの人たちに文明的な家ってやつを見せてやりますか!」
僕は周りの人より良い家が作れそう。それだけの理由で気分が高揚し始めていた。
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