作文

 己と云う者を見失ってしまった其の時は、心中を手探りで模索し、思いの丈を書き綴ることを私は奨める。

 不器用でも良い、上手く書けなくても良い、たったの一文だけであろうが、何だって構わない。

 思いの丈を書き綴ることこそに意味があるのだ。

 文は心境を映す鏡。

 苦しいとき、文は必然と暗くなり。幸せなとき、文はとても明るくなる。

 私の場合、どうしても明るい文(所謂、読者の方が読まれていて面白いと云ってくださるようなもの)が書けない。何か文を書き綴れば、其れは次第に白から黒、明から暗、晴れから曇りへと変態を遂げる。恐らく、未だ私の心の奥深く、決して手の届かぬ深遠とも云うべき所に未見の闇が潜んでいるのだと思われる。

 私は今、陽光を拒絶する分厚い雲の其の下を独り歩んでいる。

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