第4話 私と競輪④

「これってもしかして……」

そうすると彼女は微笑みながら頷き、こう答えました。

「そう、私の連絡先だよ」

それを聞いて嬉しくなった私はすぐに登録を済ませると、お礼を言いました。

彼女はニッコリ笑いながら応えてくれました。

その後、私たちはお互いの連絡先を交換し合うことができたわけですが、

ここからどうやって親睦を深めようか考えるうちに頭がボーッとしていきました。

どうやら熱中症になってしまったみたいです。

そんな私を見た彼女は、慌てて救護室へと連れて行ってくれました。

そこでしばらく休むことになったのですが、その間ずっと側にいてくれた彼女に

対して感謝の気持ちでいっぱいになりました。

その後、回復した私は競輪場を後にしましたが、彼女とは連絡先を交換したので

いつでも連絡を取ることができるようになったので安心です。

家に帰るまでの間、ずっと上機嫌だったことは言うまでもありません。

家に帰ってからも、ずっと彼女のことばかり考えていました。

翌日、いつものように競輪場へ足を運んだ私は、そこで彼女と出会うことになるのでした。

今日は彼女が出場するレースなので、私も応援するために駆けつけました。

出走前の彼女の姿を見た瞬間、胸がドキドキしてきました。

頑張れ! と心の中で叫びながら見守っていると、ついにスタートの時が訪れました。

勢いよく飛び出していった彼女は、あっという間に先頭に躍り出ていました。

まるで弾丸のような速さで駆け抜けていく彼女の姿に目を奪われながら、夢中で声援を送り続けていました。

最終コーナーを回ってホームストレートに入ると、さらに勢いを増して加速していく彼女の姿を、

ただ見ていることしかできませんでした。

そして、そのまま見事に一着でゴールインしたので、

その瞬間、周りのお客さん達が一斉に立ち上がって歓声を上げ始めました。

私も一緒になって喜び、ハイタッチを交わした後、お互いに微笑み合いました。

その後、表彰式が行われたのですが、なんと彼女はガールズケイリンで優勝したのです。

これには驚きましたよ本当に。

まさかこんなに早くトップに立つとは思っていませんでしたから。

しかも、出場レースでの出来事ですから、尚更です。

そんなことを考えているうちに閉会式が終わり、解散となったので帰ろうとしていたところを呼び止められました。

振り向くとそこには、あの有名選手が立っていたのです。

一体どうしたんだろうと思っていると、思いがけないことを言われました。

その内容とは、私と友達になりたいというものでした。

一瞬耳を疑いましたが、本当みたいです。

こうして私達は友達になったのですが、それからというもの毎日のように競輪場に通うようになりました。

というのも、彼女が誘ってくれたからなんですが、私にとってはとても嬉しい出来事でした。

だって、憧れの選手と一緒に過ごせるんですから夢のような時間ですよね?

それに、お互い名前で呼び合えるようになったおかげで距離も縮まった気がしますし、

今ではすっかり仲良しになれました。

そんなある日のこと、いつものように競輪場に向かっている途中で偶然彼女を見つけました。

声をかけようと思ったんですが、その前に隣にいた男の人に話しかけられていました。

知り合いのようでしたが、一体どういう関係なんだろうと思っていると、

不意にこちらを振り返った彼女と目が合ってしまいました。

なんだか気まずくなってしまって、咄嗟に隠れてしまったんです。

どうしてそんなことをしたのか自分でもよく分からなかったんですけど、

なぜかその場から動けなくなってしまい、じっとしていました。

しばらくして、やっと動けるようになったと思ったら、既に二人はどこかへ行ってしまった後でした。

ホッとしたような残念なような複雑な気持ちでしたが、気を取り直して競輪場へと向かうことにしました。

ところが、着いた途端とんでもない光景を目にしたのです。

何と、あの有名な選手と一緒に入場ゲートから出てきたではありませんか!

思わず二度見してしまいましたよ、ええ。

しかも仲良さげに会話しながら歩いているのですから驚きました。

一体何があったんでしょうか?

気になって仕方なかったので、思い切って話しかけてみることにしました。

「こんにちは、今日もよろしくお願いしますね」

そう言いながら頭を下げると、彼女も笑顔で応えてくれました。

やっぱり可愛いなぁと思いつつも、ふと隣にいる男性に目を向けると何故かニヤニヤしています。

一体どうしたのかと不審に思っていると、突然話しかけられました。

どうやら私のファンらしく、握手して欲しいと言われたので快く応じることにしました。

そうすると彼は感激のあまり涙を流し始めたのでびっくりしていると、今度は別の男性がやってきて、

何やら言い合いを始めてしまいました。

その様子をぽかんとしながら見ていた私は、何が何だか分からず混乱していたのですが、

しばらくすると落ち着いたようで、ようやく解放されたところでレースが始まりました。

ちなみに、今回は残念ながら三着でした。

帰り際、例の二名の男性達と鉢合わせてしまいました。

気まずい空気が流れる中、とりあえず挨拶だけはしておくことにしたのですが、

どちらも無言で顔を背けられてしまいました。

嫌われてしまったのかなと思いながらしょんぼりして帰路につきました。

その夜、寝る前に携帯を確認すると、彼女からのメールが来ていました。

内容は今日の出来事についてでしたが、最後に気になる一文がありました。

その内容というのは、今日の競走が終わった後に、こっそり二人で抜け出して行った喫茶店で、

例の二名の男性達と遭遇してしまったという内容でした。

それに対して私は、どういうことかと返信すると、詳しく説明してくれました。

なんでも、彼女は以前からあの二人のファンだったそうで、いつか会ってみたいと思っていたそうです。

しかし、なかなか機会に恵まれず、今日まで我慢していたそうですが、今

日の競走後に勇気を出して話しかけたところ、想像以上に話が弾んでしまったため、

つい長居してしまったということでした。

それを聞いて、なるほどそういうことだったのかと思った私は、納得しました。

だからあんなに親密そうに話していたんです。

でも、それなら私にも教えてくれても良かったのにと思いましたが、そこは敢えて黙っておきました。

なぜなら、その方が面白いからです。

なので、それ以上は詮索しないことにしました。

翌日、競輪場に行くと、また出くわしてしまいました。

今度は昨日よりも人数が多いようです。

おそらく、他の女性選手もいるのでしょう。

私はというと、当然一人で来ていますが、彼女たちはみんな連れ立って行動しているみたいです。

羨ましい限りですけれど、仕方がないことです。

諦めて自分のレースに集中しようと思います。

さて、今日はどんな展開になるでしょうか?

楽しみです。

まずはスタート地点に立ちます。

いよいよ始まりです。

緊張しますが、頑張りますよ!

そして、スタートの合図が鳴り響き、一斉に飛び出しました。

最初はゆっくり進んでいき、カーブでは外側に膨らまないように気をつけながら、

なるべくスピードを落とさないよう気をつけています。

やがて最初の直線が終わり、第二、第三と入りますが、その間も油断しないように気をつけます。

第四コースに入ったところで最後の一周となりますが、ここで仕掛けることに決めました。

一気にスパートをかけようとペースを上げようとしたその時、誰かが迫ってきたかと思うと、

次の瞬間、抜き去られました。

突然のことに驚いた私は慌てて追いかけることになりましたが、差は開く一方で全く追いつける気がしません。

結局、最後まで追いつくことはできずに終わってしまいましたので、悔しい思いをすることになってしまいました。

しかし、それと同時に、とても楽しい時間を過ごせたと思います。

これからも競輪場に通い続けたいと思いますし、もっと強くなっていきたいと思っています。

そのための努力を怠るつもりはありません。

必ずやリベンジを果たしてみせると心に誓いました。

それから数日後、いつものように競輪場へ足を運んだ私は、いつも通り彼女と会えることを楽しみにしていたのですが、

その日は違いました。

なんと、彼女は出場しなかったのです。

不思議に思って理由を尋ねてみると、今日は体調が悪いから休むということだったので、驚きました。

確かに顔色はあまり良くありませんでしたし、辛そうでしたので無理をさせるわけにはいかないと思い、

そのまま帰ることにしました。

翌日、改めて連絡を取ってみたところ、やはりまだ具合が良くなっていないようでしたので、

お見舞いに行くことにしたのです。

そこで彼女が一人暮らしをしているマンションを教えてもらい、訪ねることにしたのですが、

部屋の前まで来たところで躊躇してしまいました。

何しろ同性の部屋を訪れるのは初めての経験だったので、緊張してしまって入れなかったのです。

そんな時、突然ドアが開きました。

「あれ、あいかちゃん?」

中から現れたのは、なんと彼女本人でした。

驚いて言葉を失っていると、彼女はニッコリ微笑みながら言いました。

「どうしたの? そんなところに立ってないで中に入っておいでよ」

言われるままに部屋の中に入ると、そこはとても綺麗に整頓されていて清潔感がありました。

そして、部屋の中央には大きなベッドが置かれていて、そこに彼女は横たわっていました。

顔色は悪く、辛そうな表情をしていますが、それでも私のことを気遣ってくれているようでした。

そんな彼女を見て胸が締め付けられるような感覚に襲われましたが、

それを悟られないように平静を装って話しかけました。

そうすると、彼女は微笑みながら応えてくれました。

それからしばらく雑談した後、彼女が言いました。

どうやら体調が悪いというのは本当だったようです。

その証拠に、時折咳き込んでいますし、息遣いも荒くなっていますから心配になります。

そんな時、突然ドアが開きました。

驚いてそちらを見ると、そこには一人の女性が立っていました。

年齢は20代後半くらいでしょうか?

とても綺麗な人でしたが、どこか冷たい印象を受けました。

その女性は私の顔を見るなり驚いた表情を浮かべていましたが、すぐに笑顔に戻ると自己紹介をしてくれました。

彼女の名前は桜木美香さんと言って、彼女の知り合いだそうです。

そして、今日はお見舞いに来てくれたのだと言われましたので私も挨拶を返すことにしましたが、

その時、彼女の顔色が悪いことに気付きました。

もしかして体調が悪いのではないかと思い尋ねると、やはりそうだったようです。

そうすると、桜木さんが言いました。

彼女の代わりに私が答えると、彼女は嬉しそうに微笑んでくれました。

それからしばらく雑談した後、彼女が言いました。

どうやら体調が悪いというのは本当だったようです。

その証拠に、時折咳き込んでいますし、息遣いも荒くなっていますから心配になります。

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