第28話 大豆パン定食の完成
「気のせい⁈」
「汗をかいて体の水分が抜けたから痩せた気がしてるだけ。サウナに入るだけだと痩せられないわよ」
「だったら、何のために入ったのよ!」
「サウナと水風呂に交互に入ることで血管が広がったり縮んだりして、血液の循環が良くなるの。結果的に代謝が良くなって、痩せやすい体が作られていくのよ。それに、水分が抜けるからむくみもなくなるし、肌も綺麗になるから、いいことだらけなのよ」
「??」
あんまりよく分かっていない顔だ。まあ、この世界の知識レベルだと血管とか代謝とか言われても分からないわよね。
「とにかく健康的な食事と運動さえすれば、すぐに痩せられるってことよ。なんなら、食事は私がプロデュースしてもいいわよ」
「は?」
「振られたら、振ってきた相手が後悔するくらい綺麗になるのが一番よ。少なくとも引きこもっているより、ずっと健全ね」
「な、なんでそんなことするのよ。あなたに利益なんてないでしょう……」
彼女のお父様から頼まれていることで、対価として安めの値段で改築・増築をしてもらえたから、なるべく解決したいと思ってる。それに……。
「これがきっかけで、お風呂好きが増えたら嬉しいもの」
私の返答に彼女はキョトンとした。そして、呆れたようにため息を吐いた。
「あなたって、本当にお風呂が好きなのね」
「そうよ」
「気が抜けるわね……」
「あはは」
私の目的はいつだって変わらない。ただただお風呂が好きで、ここまで来たのだから。
エレンさんは私をじっと見つめて、口を開いた。
「そんなに言うなら、やるわよ……! 見返せるくらい綺麗になってやるわ!」
「よし。それなら、毎日の運動後、ここに通ってちょうだい。一緒に痩せるわよ!」
というわけで、彼女のダイエットに付き合うことが決定した。
⭐︎⭐︎⭐︎
次の日、エレンさんが風呂カフェに来るのを待っていると、リーナとルークが話しかけてきた。
「結局、あのお嬢様が風呂カフェに来るようになったって……、リディア様は一体何をしたんですか?」
「引きこもっていたんですよね? 部屋から出てくるどころか、風呂カフェに来てもらえるなんて、すごいですね」
もうすぐ風呂カフェの営業を再開するということで、準備のためにカフェで作業をしていたリーナとルーク。
2人とも、風呂カフェに足繁く通うエレンさんを不思議に思ったようだ。
「実は、毎日お風呂話を部屋の前で毎日数時間していたのよ。そしたら、出てきてくれたわ」
「「うわぁ……」」
2人がドン引いている。何よ、文句あるのかしら。
そのまま2人は、話し始めた。
「リディア様のお風呂話、始めると止まらないものね」
「最早、新手の拷問だよな」
「あれで何回地獄を見たことか……」
「いや、リーナはいつも頃合いを見て逃げ出してるじゃん。その代わり、俺が最後まで付き合ってるんだけど⁇」
「尊き犠牲となったルークのことは忘れない」
「死んでないから」
「そこの従者2人、聞こえてるわよ! 悪口ならもっと小声で言いなさい、小声で!」
まあ、エレンさんの外への連れ出し方が独特だったかもしれないのは認めるけど……。
昨日は、あの後、エレンさんのお父様にエレンさんが外に出るようになったことを報告した。そしたら、「どうやって娘を外に出してくれたのか」と聞かれた。
なので、私が実践したことを話したんだけど……。めちゃくちゃ爆笑されたのよね……。
しばらくすると、昨日と同じくフードを被ったエレンさんが店にやって来た。
「今日は、走り込みもしてきたわ!」
「じゃあ、まずはサウナね。その後にご飯にしましょう」
「分かったわ!」
エレンさんは気合い充分な様子だ。私も気合を入れて、料理を作る。
あまりストレスになりすぎるのは良くないので、食べる量は減らさずに糖質を抑える方向で考えている。
小麦粉の代わりに自作した大豆粉を使って、パンを焼く。糖質の高い甘い野菜は避けてサラダを作り、比較的糖質を抑えられる鶏肉を使った炒め物を完成させる。
作り終わったところでエレンさんが出て来たので、出来立てほやほやの料理を出す。すると、エレンさんは眉を顰めた。
「ちょっと、食べる量とか全然減らされてないんだけど、これで痩せるわけないじゃない」
「使ってる材料が健康的なものばかりだから、これでも大大大なのよ」
「そうなの? このパンも?」
「大豆パンね。小麦の代わりに大豆を使ってるのよ」
「大豆? 確かにユードレイスでは結構生産されてるけど、かなりマイナーな食べ物よね。使い道がなくて、売れ残ってることも多いわよ」
「そうなのね」
エレンさんは、パンにがぶっとかぶりつく。
「普通のパンとほとんど同じ味じゃない! 普段と同じくらいの量を食べて、これで本当に痩せるの?」
「もちろんよ。小麦粉は糖質が高いからね。大豆粉に置き換えることで、糖分の摂取量を抑えられるのよ」
前世ではオートミールダイエットとかバナナダイエットなど、色々流行していたけど、こっちの世界ではそういったものがない。糖質とかそういう知識がないから当然だろう。
ユードレイスの特産も使っているし、もしかしたら、この料理は店のメニューとしていいかもしれないわね……。
「ねえ。この方法、友達にも伝えていいかしら?」
「それなら、これを新装オープンの新メニュにするから、風呂カフェの宣伝お願いね」
「本当にお風呂を広めたいのねぇ。……まあ、いいけど」
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