第17話 「風呂カフェ・ほっと」のメニュー
お風呂上がりのユーリさんは、ぽやぽやしていた。
「おかえりなさい。どうだったかしら?」
私が聞くと、彼はハッとして顔を赤らめた。
「いや、その……気のせいかもしれないが、肩こりが解消された気がするのだが」
「気のせいじゃないわ。お風呂には血行促進効果があるから、肩こりや腰痛にも効果があるの」
「なるほどな。これで痛みに悩まされることなく、書類仕事が出来そうだ。効率が上がるな……」
彼は社畜的なことを呟いている。
「せっかくだし、温かいカフェメニューも食べていかない? ちなみに、お風呂に入った人は、飲み物一杯だけ無料よ」
「そうなのか」
このサービスは、お風呂に入った人をカフェスペースに誘導するためのものである。飲み物を頼むだけだと物足りないから、結局、軽食やデザートも頼んでしまうお客さんも多いのだ。
「そうだな。ぜひ食べさせてくれ」
彼は頷いて、テーブルに座った。彼にメニュー表を手渡すと、メニュー表を見た彼は感心したように頷いた。
「かなりメニューが豊富なんだな」
「ええ、そうね。注文を受けてから作り始めるから、出来立てほやほやを食べられるわよ」
ちなみに、「風呂カフェ・ほっと」のメニューは以下の通りになっている。
――――――――――――――――――――
〜飲み物〜
・ストレートティー
・コーヒー
・コーヒー牛乳
・フルーツ牛乳
・オレンジジュース
・アップルジュース
〜軽食〜
・照りマヨピザ
ユードレイス産の鶏肉を照り焼きにして、マヨネーズをかけた濃厚なピザとなっています。
・マカロニグラタン
たっぷりマカロニを使用した、とろみのある熱々グラタンです。
・北の特産チキン
北の大地でしか食べられない特産チキンを使用した一品。香ばしいガーリック風味の味付けになっています。
・彩り野菜ととろっとチーズフォンデュ
王都から仕入れた、彩りの豊かな季節の野菜を使用。とろとろのチーズを贅沢につけて、お召し上がりください。
・濃厚クリームシチューと焼きたてバゲット
具材たっぷりの濃厚シチュー。バゲットをディップしてつけて食べることもできる、食べ応え抜群のセットになっております。
・あったかスープと特別「ほっと」プレート
「ほっと」定番メニュー。野菜、チキン、グラタン、パンを網羅した特別セット。メニューの中から一つを選べないという方、必見です。出来たてスープは全3種類の中からお選び頂けます。(トマトスープ・オニオンスープ・コンソメスープ)
〜デザート〜
・雪だるまアイスクリーム(ハチミツ入り)
雪だるまの形を模した、キュートなアイスクリーム。バニラアイスの中からは、ハチミツがこぼれ出します。お風呂でのぼせてしまった方に、ぜひ。
・ほかほかパンケーキと3種のソース
3枚のパンケーキをのせた一品。3種のソース(はちみつ、メープル、ママレード)によって味付けを変えることもできます。
――――――――――――――――――――
こんな感じで、幅広くカフェメニューを用意している。メニューを見た彼は感心したように頷いた。
「お風呂場にも、“お風呂の入り方”についての標識があったりして初心者でも分かりやすかったし、かなり考えられているお店なんだな」
「そうね。お風呂カフェはずっとやりたいことだったから、前から色々考えていたのよ」
「追放されて、仕方なく始めたことなんじゃないのか?……いや、失礼な質問だったな。すまない」
「大丈夫よ、気にしてないから」
律儀に謝る彼に、私は首を振った。
「あなたの質問だけど、むしろ逆。私は王都から出て行きたかったし、追放されたら絶対にこうしたいって決めてたのよ」
王都では王太子の婚約者としての役割が重く、社交界では利権・利益・交流で雁字搦めの生活だった。
私にとって、それらはとても苦しいもので、辛い日々だった。その生活の中で、私にとってお風呂は“癒し”そのものであり、誰にも責められない唯一の“逃げ場”でもあった。
だからこそ、人の支えにもなれる素敵なお風呂を広めていきたい。このお風呂の良さを色んな人に知って、癒されて欲しいと強く思っているんだ。
私の話を聞いて、ルークは目を見開いた。
「君は自分の意思を強く持っていて、すごいな」
「あはは……。そうだといいんだけど」
そんな会話をしていたら、私たちの間にルークが割って入ってきた。
「お客様。失礼ですが、早くメニューを頼んで下さい」
「ああ、すまない。そうだったな」
彼がメニュー表を見ている間に、ルークがコソッと私に話しかけた。
「リディア様、一人のお客様と話し過ぎじゃないですか」
「そうね。ごめんなさい」
いくら他にお客さんがいないからって、結構話しすぎてしまったから反省だ。
なんというか、働き者なユーリさんが、前世でバリバリ働いていた私と重なって、ついつい話し込んじゃったのよね。
最終的に、彼は温かいクリームシチューを頼んでいた。とろっとしたシチューの具材の多さに舌鼓を打ち、メニューを食べ終えた彼は席を立った。
「また来させてもらいたい。いいか?」
「もちろんよ。またのご来店をお待ちしております」
という感じで、騎士団長のユーリさんは風呂カフェを堪能して、帰って行った。かなり気に入ってくれたみたいだし、このまま常連になってくれれば嬉しいな。
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