第37話 自分の顔

「りゅ「竜人族とかなの?」」


 ぼくの声に被せてきたのはバアルくんだった。

 今度は僕の方が唖然とする番だった。

 なんで知ってるの?


「えっ? なんで?」


「プッ! ちょっと、もしかしてそれが重大な秘密だったの?」


 今度はエリスさんが目じりから涙を流しながら聞いてくる。

 笑いすぎて泣いている。

 そんなにおかしかったかな。

 僕、真剣に悩んでたんだけど。


「ごめん。オレたち、それにはとっくに気が付いていたんだ」


「えぇぇぇっ!? なんで!?」


「いやさ、リオンくんご飯食べるとき襟のチャック下すでしょ? それで、食べるときさ頬の鱗が見えてるんだよね。最初は見間違いかなと思ってたんだけど、何度か一緒に食べているうちにやっぱり鱗だということに気が付いて」


 その事実に衝撃を受けた。

 僕が一生懸命に隠してきたのは一体なんだったのか。


「そ、そうなの? でも、なんで僕に聞かなかったの?」


「いやぁ。そのうち話してくれるって信じていたから。でも、目立ちたくない理由ってそれなの?」


「うん。実は、昔に目立って嫌な思いをしたんだ。仲間外れにされたり、無視されたり……」


 その言葉に三人の表情は硬くなり、怒りを露わにしているようだった。

 そりゃそうか。

 僕が皆を信用してないって言っているようだものだもんね。


「もうわかっているみたいだから、怒らないけどさ。もっと信用してよ」

 

「うん。そうだね」


 僕は手首に付けていた紐で髪を一つに束ねた。

 顔を隠している意味もなくなったからだ。

 じゃあということで顔をさらけ出した。


 すると、なんかエリスさんの顔が赤くなる。

 カーラさんも口をパクパクしていて、なにやら可愛らしい感じの反応だ。

 一体何したというのか。


「どうしたの?」


「リオンくん。君は、今まで通りの姿の方がいいかもしれないね」


「えっ? どうして?」


 エリスさんが胸を押さえて悶えていた。

 一体どうしたというのか。


「エリスさん。大丈夫!?」


 僕はそばによると、手で制止された。

 どうしたんだいったい。


「……無理。胸が苦しい」


「ちょっとウチにも刺激が強い……」


 エリスさんとカーラさんがスススッと離れてしまった。

 種族は知っていたんだよね?

 なんでこんな反応するのさ。


「リオンくん。君の素顔が綺麗すぎてこの二人は胸を射抜かれたようだ」


「はぁ?」


「きみさ、オレのことを最初、イケメンが近づくなみたいなこと言ってたよね? どの口が言ってるの?」


 それはバアルくんがイケメンすぎるから近づいてほしくなかったんだよね。


「バアルくんは整った顔でしょ」


「自分の顔を鏡で見たことある?」


「あぁー。そういえば、ないかも? 里には鏡とかなかったから」


「鏡見ておいで?」


 僕は髪を束ねて洗面所の鏡をよく見てみた。

 これまで一回も髪を上げた状態で見たことがなかったことを自分で悔やんだ。

 そして、この顔に生まれてきたことを恨んだ。


「なんじゃこのクソ美形ヤローは!?」


 コンパクトでシュッとした骨格。

 そこには少し切れ長の目。

 その目は竜人特有の縦の瞳孔の青い瞳。


 鼻筋は通っていて前世の韓国人を思わせる顔だった。

 これは自分で言うのもなんだが、イケメン過ぎる。

 ダメだ。この顔見せたら余計目立つわ。


「ねぇ、リオンくんオレに謝って? 自分の方が余程美形でしょうが!? 強くて美形ってどんだけなんだよ! 神様は不公平だよ!」


「ご、ごめん。その節は、申し訳なかったね。うん。たしかにこの顔は反則だわ」


「なんか自分で言ってるのも腹立つな」


「アハハハ。まぁまぁ。落ち着いて」


 僕はバアルくんの肩を掴んで落ち着くように説得する。

 目が据わっている。

 わかるよ。うん。いいたいことはわかる。


「リオンくんが、こんな美形だったなんて……一緒に歩けない……」


 エリスさんがそんなことを口走る。そういうのやめて欲しいんだけど。自分だって美少女のくせに。


「あのさ、ウチも一緒にあるけないかも……」


 カーラさんまでそんなこというの?


「ちょっと、僕どうしたらいいの?」


「「「今までのままでいて」」」


 結局のところ、結論はそのままでいろとのことだった。

 そして、エリスさんは顔の赤さが収まったところでようやく普通に戻った。


「いやー。それにしても、リオンくんの秘密がまさか種族だけとはねぇ」


「だよねぇ。完全に犯罪者とか、なんか国の最重要人物とか、王子様とか。そんなこと思ってたもんね」


 エリスさんとカーラさんは、僕の存在の遥か上の存在を想像していたみたい。

 もしかして、僕は自分でハードルをあげてしまっていたのか?

 この恰好をして学院に来たことを少し後悔したのであった。


 でも、最初から顔出してきていたら、それはそれで大変だったかと思い直した。

 正解だったということにしよう。

 そうだ。この恰好で良かったんだ。


「まぁ、でも、この程度の秘密でよかったね!」


「ホントホント! 一番びっくりしたのが、顔の美形さだもんね!」


「まさかのサプライズだったよねぇ」


 三人は楽しそうにそう話している。

 僕は考え過ぎだったみたいだ。

 竜人って、結構受け入れられるんだ。


 この世の中は思っていたより多様性の世の中だったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る