第31話 バアルとエリスの叫び

 探すといっても、向かった方向しか分からないため難航するだろう。


 カーラさんを後ろに隠しつつ移動する。

 段々と日が傾いてきた。

 これはもうすぐ夜になるぞ。


 暗くなれば隠れやすいけど、その分動きにくくなる。周りが見えないと警戒していても襲撃されたら危険だ。


「カーラさん、暗くなるギリギリまで探して居なかったらどこかで野営の準備をしよう」


「うん。暗くなると見えないもんね」


「そうなんだ。こういうジャングルでは暗く感じるのが早いと思う。奇襲を受けやすくなっちゃうから……」


「リオンくんに任せるよ。ごめんね。さっき偉そうなこと言ったのに……」


「ううん。後ろは任せるから」


「うん!」


 カーラさんは笑顔で着いてきてくれていた。

 二人とも無事だといいんだけど。


◇◆◇


 その頃、後を追ったエリスは、バアルをジャングルで問い詰めていた。


「バアルくん、なんでいきなりあんな感じで飛び出したの!?」


「オレは我慢できなかったんだ! リオンくんに守られることに!」


「だとしたら、その気持ちをちゃんと伝えて納得してもらわなきゃダメじゃん!」


「アイツは弱いオレたちの気持ちなんて、分からないだろ!」


 私はその言葉に怒りが湧いてきた。

 リオンくんは優しい人だ。

 こっちの気持ちが分からないわけない。


 そんな人じゃない。

 伝えればきっと分かってくれる。


「本当にそう思ってるの? リオンくんが私達の気持ちを理解できないって?」


「だってそうだろう? アイツは強いから……」


「でも、優しいでしょ!」


「けど、弱いやつの気持ちなんて……」


「リオンくんがなにか隠してるのはわかるでしょ!? なんで隠してると思うわけ!?」


「はぁ? 目立ちたくないからだろう?」


 このわからず屋は何も分かってない。

 腹が立ってきた。


「リオンくんの最初の友達が聞いて呆れるわ」


「なんだよ! エリスさんには何がわかるって言うんだ!?」


「リオンくんはきっと何かに怯えてる。だから、目立たないようにしているのよ。きっとそうだと思う……」


「何に怯えてるって言うんだ!?」


「それはわからない! けど、私達にはわからない何かがそうさせてるんだと思う。でも、そんな思いをしながらも、目立ってでも私達を守ろうとしてくれていることは感じる!」


「それは……けど、守られるだけは嫌だ」


「だったら、一緒に戦いたいって言えばいいでしょ? 口があるんだから! 私達は人だよ?」


「アイツだって話さないじゃないか……」


「話してくれるまで待とうって言ったじゃない!」


「いつまで待てばいいんだよ!」


「私だって分からないよ! 辛いよ! 話してくれないのは! でも、待つしかないんだよ!」


 目から溢れてくるものを堪えきれなかった。


「私は、優しいリオンくんが好き。守ってくれるリオンくんが好き。だから、もし秘密を話してくれたら、この思いも伝えたい」


「それは、分かってた。オレを追いかけてきたのもリオンくんの為なんだろ?」


「はぁ。そうだよ? その子供が駄々こねてるみたいなのやめなよ? みっともないよ?」


「誰がダダをこねてるって!?」


 腰に手を当ててバアルくんを指す。


「あんただよ! イヤイヤ言って子供みたい! 後ろはオレに任せろって堂々と言えばいいだけでしょ!」


「子供扱いするな! オレだって後ろを守りたいさ! でも、弱いから……」


「そのウジウジしてんのが腹立つのよ! 弱きゃ後ろを任されないの? だったら私も一緒に後ろへ立つわよ! カーラちゃんもね!」


「えっ?」


「リオンくんの背中は三人で守る! それでいいじゃない! 一人で守らなきゃいけないの!?」


「い、いや……」


「ったく。こんな事ではぐれちゃって。せっかく合流したのに」


「ご、ごめん……」


「暗くなってきちゃった。はぁ。どっかで野営しなきゃ」


「ごめん……」


「ウジウジしないでよ! ほら! 前に立って歩く! そして、野営する場所探すよ!」


「お、おう!」


◇◆◇


 そんな言い争いをしているとは知らないリオンは、その頃同じように野営地を探していた。


「暗くなっちゃったね。そこの少し開けてるところで火をおこそうか」


「うん。真っ暗だね?」


「こういう街灯も無いところでは真っ暗になるんだ。でもさ、ほら、空を見て?」


 闇に支配されている空には、光を照らそうと輝きを放っている星で溢れていた。

 天の川のような星の大群が空を横切っている。こんなに綺麗な星は里で見て以来だ。


「わぁぁぁ! すごいきれぇ……。こんなに星が綺麗だなんて」


「街の光は便利だけど、こういう自然を感じるには不要なものだよね」


「ウチ、初めて見たかも。こんな星空」


「そっか。僕の故郷では普通だったから」


「もしかして、リオンくんって結構な田舎者?」


「はははっ! そうだよ? かなりの世間知らずだしね」


「それは感じる!」


「えっ!? うそっ!?」


「ぷっ! あははははっ! 自分が常識人だと思ってたの? だいぶ非常識だよ! その格好とか!」


「そうかな?」


「うん。そう!」


 カーラさんの笑顔に元気付けられた。


 枝をかき集めると火をつける。

 そういえば食料調達してなかったなぁ。

 余ってた肉しかない。


 エリスさんとバアルくん大丈夫かな。

 食べるものあるかな?


 尖らせた枝に肉をさして焼き始める。


「バアルくん達が心配?」


「えっ? なんで?」


「なんか雰囲気で心配してそうな気がした」


「カーラさん凄いね。食べるものあるかなって……」


「ふふふっ。合流したら痩せてるかもね!」


 そしたらお腹いっぱい食べさせてあげなくちゃ。


 夜明けまで、ゆっくりできるかな?

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