第12話 戦闘訓練

「午後からは戦闘訓練だぁ! いいかぁ? 強くなるには実践あるのみ! では、リオン! こっち来い」


 ん? なんか僕の名前が呼ばれたような。

 気のせいだよね。


「ねぇ、リオンくん呼ばれてるよ?」


「えっ? 僕をなんで呼ぶのさ? そんな訳なくない?」


 エリスさんになんか言われたけど、そんなわけないもんね。うん。


「ほぉ。無視とはいい度胸だぁ! リオン! そこのお前だよ!」


 指差したのはやっぱり僕で。

 なんでだろ?

 首を傾げながら先生の元へ。


「あのーなんでしょう?」


「ここに立て」


「あっ、はい」


「いいかぁ? 模擬戦開始!って言ったら、こう!」


 いきなり拳を放ってきた。


「おっと」

 

 体を斜めにして避ける。

 追撃で蹴り下ろしてきた。

 クルリと側宙して避けると。

 今度は正面から蹴り。

 フワリと跳躍し、足の上に乗る。

 再び跳躍して先生の後ろに降り立つ。


「一撃ぐらい喰らえよ! 可愛げがねぇ……なっ!」


 後ろへの裏拳を放ってくる。

 それはパシンと受ける。


「これでいいですか?」


 この間三秒。


「くそっ! お前には単位やる!」


 単位くれるんだ。ラッキー。

 でも何でだろう?


「こんなの捌ける奴なんてA級以上のダイバーだぜぇ? リオンは常識が足りないみたいだなぁ?」


 なんだとぉ。

 この教師僕を目立たせるためにやったなぁ!

 くっそぉ! やられたぁ!


「ぐぬぬぬ……」


「ハッハッハッ! ざまぁねぇな。可愛げがねぇからだまったく!」


 ちなみに、ランクはE~Aまで上がっていき、最後はSというランクがある。ダンジョンも同じようにランクが付けられている。


 僕はトボトボと元いたところに戻っていく。

 くそぉ。やられたなぁ。

 あの人そんなに強い人だったんだ。


「さすが、リオンくんだね?」


 戻るとエリスちゃんが褒めてくれるけど、目立ってしまったことに後悔が。


「うぅぅぅ」


「まぁ、いいんじゃない? 目立っても。強いんだし」


 その目にはなにか思うところがあるみたいで、遠くを見つめていた。


「私なんてこの容姿で目立つのに、弱いからいざと言う時に誰かの助けを必要としちゃう。それがどうしようもなく嫌」


 エリスさんでも自分の事そんなふうに思うことあるんだ。


「オレはよく分かるなぁ。オレもこんな見た目だから女の子寄ってくるけど、気に入らないって男に力づくで来られると勝てなくて……」


 そっか。バアルくんもその容姿なりにそういう悩みがあったんだね。なんか……贅沢な悩みな気がするけど。


 強いとは思ってないけど、目立っていい時もあるのかもしれないな。普段は目立ちたくないけど。


「じゃあ、近くで二人一組で組んで組手してみろ。軽くでいいぞ?」


 皆それぞれ組手相手を組んでいくが、エリスさんとバアルくんと組む人はいない。なぜなら、顔が綺麗すぎるから。


 顔を傷付けたら恐いからだろう。なるほど。目立つというのはやはりあまり良くないな。


「じゃあ、エリスさん、覚悟!」


「そのイケメンをボコボコにしてあげるわ!」


 二人で向かい合っている。

 僕はちょっと離れたところから見ている。


「先にいいよ?」


「なめてるわね。行くわ……よっ!」


 踏み込んで突きを放っていった。

 後ろに下がることで避けるバアルくん。


 反撃の蹴りを顔の横目掛けて放っていく。

 一瞬エリスさんを見失った。

 しゃがんでバアルくんの足を払った。


 あっ、これは……。


「そんな! くそっ! 女の子に負けるなんて!」


「ふふふーん。なめてかかるからこうなるのだよ? バアルくん?」


 まぁ、蹴りも本気じゃなかっただろうけど、避けられてたから関係ないか。


 バアルくんは床に座り込んで落ち込んでいる様子。無理もない。僕もエリスちゃんに負けたら落ち込んじゃいそうな気がする。


 こんな可愛い子がそこまで戦えるなんて思わないもんね。仕方がないよ。


 近くに行ってしゃがむ。

 肩に手を置き。

 

「仕方ないよ。頑張ろうね。バアルくん」


 成績優秀だったのにね。何でだろう?

 学科と魔法で取ったようなもんって言ってたけど、その通りだったってことなのかな。


 その授業の間は二人で何度戦ってもエリスさんが勝っていて、バアルくんが勝つことはなかった。手を抜いていたのかな?


◇◆◇


 教師side


「くっそぉ! アイツに不意打ちでも当てられなかった! 何なんだあの反応速度! 竜人だからってあんまりじゃねぇか?」


「はっはっはっ! してやられたんですか? 私はこの前、してやったんで」


 こう話しているのは歴史の教師だ。


「いや、でも攻撃を避けられて最後の一撃も受け止められたからよぉ。これを捌き切れるのはA級以上のダイバーだぞって言ってやったわ!」


「ははははっ! どうでした?」


「ぐぬぬぬって悔しそうに震えてやがったぜぇ! はっはっはっ! 常識が足りねぇなって言ってやった!」


「そりゃいい! 常識がないから目立っちゃうってことですねぇ!」


「そういうことだな! はっはっはっ!」


 ふと真面目な顔をする歴史の教師。


「先生、それって先生が教えられることないんじゃないですか?」


「ダァッハッハッハッ! そうなんだよな。他の生徒に教えるしかないよな?」


「ま、単位あげてれば大丈夫じゃないですか?」


「うん。そうだな」


 少し自分達の行いを反省したようだ。

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