第3話 城前の池で
試験後は一週間を観光に使うと決めていた。
目立たなくていいからこの服は凄くいい。
今日は王都のデートスポットのようなオーウェン城前の池に来ている。ここは凄く城が綺麗に見えるんだとか。
魔道端末で良くここが紹介されている。それだけ話題のところだということだろう。
今は昼間だから人はまばらだ。
ベンチに座り、一息つく。
試験は合格したと思うけど、どうだろう。
なんだかドキドキしてきたなぁ。
本当に大丈夫かな?
筆記は大丈夫。きっちり合格点を取れてるはず。
戦闘も一撃与えたから合格のはず。
魔法も的は壊したから大丈夫なはず。
合格してればいいなぁ。
不合格だったらどんな顔して帰ればいいか分からない。そのままこっちで働き口を探そうかな。
合格したとしても、ダイバーなんて目立つ職業じゃなくてダンジョンの管理人とかしようかな。目立たなくていいよね。
管理するだけだし。
モンスターが溢れそうになったら間引きすればいいって言ってたし、簡単だよねぇ。
※本来であれば命の危険が伴う大変なお仕事です。良い子は決して真似しないでください。
それもいいかもなぁ。
なんか地味な仕事がいいよねぇ。
前世で大人になったら工場勤務とかしたかったんだよねぇ。目立たなくていいし。
※工場勤務も大変なお仕事です。簡単なことではありません。尊敬しています。
ダイバーは目立つもんなぁ。
あれで最速RTAなんて出したら表彰されたりするでしょう?
勘弁して欲しいよねぇ。
しかも今は魔道端末が流行ってるから探索撮影用の魔道具が出回ってるらしいんだよね。自分がダンジョン探索してるのを配信するんだって。
なんでそんな目立つことをするのかは、僕に言わせれば本当に謎なんだよね。
城の池をジーッと眺めていた所、目に入ったのは屋台のソフトクリーム。
この世界でもソフトクリームあるんだ。
立ち上がると並んでいる列の最後尾に並ぶ。ソフトクリームが百ガルかぁ。まぁ、百円みたいなもんかなぁ? 物価の感覚的に。
ウッシーがいるからミルクは取れるしね。アイスが開発されてても不思議ではないか。いやー。久しぶりだなぁ。
ルンルンで体を揺らしていたらめっちゃ子供に凝視されてしまった。
直立に戻る。ヤバイ。目立っちゃった。
せっかく目立たない服なのにね。
僕が動いたらダメじゃないか。
子供は母親とソフトクリームを買うと喜んでベンチへ歩いていった。
「次のかたー」
自分の番になり、ソフトクリームを買う。
人差し指を出す。
「一つですねぇ。百ガルでーす」
お金を差し出して出来上がるのを待つ。
ふと子供の方を見ると大柄な魚人族が二人歩いてくる。
子供の方を見ていないでペチャクチャと話している。
子供も母親もお互いを見ていて前を見ていない。
まずい。ぶつかる。
間に合え!
本気で踏み込み、一瞬で魚人族の前に現れソフトクリームとの間に入り込んだ。
僕のズボンにはソフトクリームがベッタリ。
魚人族の人は突如現れた僕がぶつかってきた事に苛立っているようだ。
「な、なんだテメェ!? いきなり現れやがって!」
「前に気をつけて歩いてください」
「あぁ!? 前見て歩いてただろうがよ!」
「子供」
「あぁ!?」
「子供に当たるところでしたよ」
魚人族の男は、僕の後ろにいた子供を見ると少し下がった。
「そっちも見てなかったんだろうが!」
「はぁ。体格差考えてくださいよ。こんな小さな子供があなたに当たったら怪我するでしょ?」
体格のいい魚人族だけど、僕よりは少し背が低いんだよね。ゴツさも僕より一回り小さい。でも、子供ぶつかったら大怪我させかねないよ。
「変な言いがかりはやめろやコラァ! テメェがぶつかつてきたんだろぉ!?」
隣にいた魚人族の男が怒鳴り散らしていた。
なんで怒鳴るんだか。話がわからない人だなぁ。
「気をつけてくださいって言ってるだけじゃないですか」
「それじゃあ気がおさまらねぇなぁ! 一発殴らせろ!」
「──そんな! 酷い!」
後ろにいた子供の母親が叫び声をあげる。
自分のせいでこんなことになったと思っているんだろうけど、大丈夫なのに。
「お母さん、大丈夫です。ちょっと待っててくださいね」
母親をなだめてその魚人族の男の前に立った。
頭一つ小さいけど、一体どんな一撃が来るんだろう?
魚人族ってよく知らないけど、父さんのゲンコツより痛いかな?
それは嫌だなぁ。まぁ、一発ぐらいなら仕方がない。受けよう。
「一発、良いですよ」
「ハッハッハァァァ! いくぞゴラァ!」
顔への一撃が迫ってくる。
ちょうど下顎ぐらいに拳が突き刺さった。
ゴキンッという音が鳴り響き、膝を着いた。
「手がぁぁぁぁ! ぐわぁぁぁぁ!」
魚人族の男は拳を痛めたらしい。
里の子供のパンチより痛くなかったけど、本気で殴ったのかな?
「大丈夫ですか?」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「すみませんでしたぁぁぁぁ!」
二人の男は慌てたように逃げていった。
僕はソフトクリーム屋へと戻る。
「できてますか?」
「あ、はい! どうぞ!」
ソフトクリームを受け取ると子供の元へと歩いていき、しゃがんだ。
「ごめんね。僕がいきなり現れたからぶつかっちゃったよね? これ、お詫びに食べて?」
「いいの?」
「えっ!? で、でも!」
母親は慌てている。
何も気にすることないのに。
「いいんです。どうぞ」
僕はそのまま立ち去った。
よかったぁ。子供が無事で。
足にアイスをつけて歩いていたので目立っていたことを知らない。
◇◆◇
その場面を見ていたうさ耳の美少女受験生がいた。
「ふふふっ。ソフトクリーム買いに来てみれば面白いものが見られたなぁ。あの人、噂の黒襟さんだよね。受かってたらいいなぁ」
この美少女も目立つ兆しになってしまうのか。
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