第七話 初‼︎地上へGO‼︎ ②
「ふわ〜!すごいすごい‼︎」
「落ち着け、雅。スパイスも街も逃げたりしないから」
街の様子に目を輝かせ、今すぐにでも走り出しそうな雅をジリアンが捕まえ、アルミスが宥める。
地上にある国の中で最も大きい国であるアステミア帝国の城下町の路地裏に、目立たない様に転移魔法で移動した雅達。
地上の中で最も賑わっている街についた雅の興奮は凄まじかった。
どれだけ落ち着く様に話しかけられても生返事しかしない雅に、ジリアン達は左右の手を握ることで走り出せない様にした。
手を握るだけでは、その気になれば転移で逃げられるが、街を見るのに一生懸命になっている雅はそんな事にすら気が付かないほど街のことで頭がいっぱいになっていたのだ。
その様子を見て、普段落ち着いている雅が、まさかこんなになるとは思ってなかった二人は「街に連れて来るのはもう少し大きくなってからの方が良かったかなあ」などと考えながら、スパイス店へと向かった。
「わあ‼︎クミンがある!これシナモンじゃない⁉︎店主さん、あれと、これと、後それも!あ、そこの三つもお願いします!お金はこれで!」
スパイス店についた途端に、店主さんには気付かれないように、鑑定魔法を使ってスパイスを見分けて買っていく雅に、店主は驚き、アルミス達は苦笑いする。
ちなみにお金は、神様業をしていた時に捧げられていて、使わぬまま仕舞われていたお金だ。
まさかその時、お金を捧げた人達も、こんなふうに使われるとは思ってなかった事だろう。
「嬢ちゃん、すげえなあ!よし、いっぱい買ってくれたからこれはおまけだ。なんか欲しいスパイスがあるなら言え。今度仕入れてやるからな!……じゃあな!また来いよ!」
スパイスは、売れ筋のものはよく売れるのだが、あまり沢山の種類を買ってくれる客は少ない。そんな中で、一目でスパイスの種類を見分け、沢山買ってくれた少女に店主は感動していた。
「ありがとう!店主さん!」
そんな事は微塵も知らない雅はおまけで何種類かのスパイスを貰い、しかもスパイスの種類を言ったら仕入れてくれると約束してもらった事で、ほくほく顔で城下町の観光を続けていた。
少し興奮も落ち着いたようで、走り出しそうな様子は無くなったので後ろから見守る程度にして好きにさせていた時だった。
「アルミス姉さん、冒険者ギルドってどこにあるんですか?行ってみたいです!」
雅が急にそんな事を言い出したのは。
冒険者がいるという事は冒険者ギルドもあるという事だ。雅としては、冒険者になる気は一ミリ程もなく、ただただ異世界っぽいから見てみたいという意図だったのだが、その言葉を聞いたジリアン達からすれば……
(か、可愛い弟が、雅が、冒険者だと……?女の子に間違えられる雅が、冒険者だと……?)
(お、落ち着け、大丈夫だ。冒険者登録が出来るのは十五歳から。十二歳前後に見える雅にはまだ出来ん。)
(今、よく会う冒険者達を思い浮かべたが……だめだ。あいつらには会わせられん。)
雅に聞こえないように念話で話していた。あまりのショックに混乱している。
「み、雅?冒険者になりたいのか?」
「え?いや、そうじゃないですよ?見てみたいだけです。」
勇気を出して問いかけ、その答えに心底安心した。
冒険者は命の危険がある仕事だ。神であれど、その認識は持たなければならない。
二人も神でありながら冒険者だし、そうである事に誇りを持ってもいる。
雅が、色んな神に可愛がられていて、多くの技能を持っていて、強いなんて事は百も承知だ。
だが‼︎それとこれとは話が別だ。可愛い可愛い弟がそんな危ない仕事に就きたいなどと言えば、確実に泣く自信がある。そもそも、荒くれ者の多い冒険者。そいつらが集まる場所に雅を連れていくなど言語道「ダメ、ですか……?」「いや、行こうか」
弟の涙目アンド上目遣いのコンボには勝てない。勝てる奴などいるのだろうか。ああ、これを素でやってる弟が今日も可愛すぎる。
雅の手を引いて冒険者ギルドに向かう事にした二人が、この判断を後悔するまでの猶予はあと少しだった。
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