第43話「お姫様と従者のたわむれ」

 ルナのお願いを当然アイラちゃんは了承し、観覧車の時は二人きりにしてもらえることになった。

 本当はそういった密閉空間でこそ、アイラちゃんはいたほうがいい気もするのだけど……ルナなりの、こだわりがあるんだろう。

 せっかくのデートなのだし、俺も彼女の気持ちを優先してあげたい。


「…………」


 遊園地に入るなり、ルナは途端にソワソワとし始めた。

 楽しみにしていただけでなく初めて来たのだから、早く乗りたくて仕方がないのだろう。

 俺はほっこりとした気持ちになりながら、ルナに笑みを向ける。


「まずは何から乗りたい?」


 今日一日はルナのために使う日だ。

 彼女が乗りたいアトラクションに乗って、沢山楽しんでほしい。


「えっと……聖斗様のお乗りになりたいもので、私は大丈夫ですよ?」


 ルナは髪の毛を人差し指で耳にかけながら、困ったように笑みを向けてきた。

 彼女は彼女で、俺に気を遣っているらしい。


「今日はルナのために来たんだ。初めてなんだし、ルナが乗りたいものに乗ろうよ。俺もルナが乗りたいアトラクションに乗りたいし」


 俺は笑顔で正直な気持ちを彼女に伝える。

 すると――。


「~~~~~っ!」


 俺の顔を見つめていた彼女は、言葉にならない声を出しながら顔を背けてしまった。

 見れば、彼女の耳が真っ赤になっている。


 何か、変なことを言ったかな……?


『こうして男性と遊びに行くことはおろか、特別親しくなったことすらなかったルナ様には、耐性がありませんからね。聖斗様も聖斗様で、無自覚にルナ様が喜ぶ言葉をおっしゃっていますし、ルナ様がこうなるのも無理はありません』


 ルナの様子がおかしくなったせいで、アイラちゃんがブツブツと呟きながら俺を見つめてくる。

 どうしよう、俺怒られるのかな……?


「ル、ルナ、ごめんね……?」


 とりあえず、アイラちゃんに文句を言われる前に謝ってみた。

 それにより、口元を両手で隠すように包み込んだルナが、俺に視線を戻した。


「どうして、謝られるのですか……?」


 聞かれて思う。

 なんで俺は謝ったんだろう……?


 いや、アイラちゃんに怒られたくないから――という気持ちはあったんだけど、そもそも怒られるようなことは言っていないはずだ。

 むしろ、ルナが喜んでくれそうな言葉を言っただけで、恥ずかしがらせるようなことは言っていない。


 ……あれ?


 ふと、思考を巡らせていて気が付く。

 ルナは別に、恥ずかしがってはいないのかもしれない。


 単純に喜んでくれていて、その感情が吹っ切れただけという可能性な気がしてきた。


 まぁ、あんな言葉でそこまで悶えるのかな――という疑問はあるのだけど、それだけ俺のことを好きでいてくれるのかもしれない。


「乙女心がわかってなくて、ルナを困らせちゃったことかな……?」


 謝った理由を正直に答えると、それこそ傍で見上げてきている小さな女の子に怒られそうなので、俺は気が付いた部分に合わせて謝る理由を修正してみた。

 それにより、ルナは両手の人差し指を合わせ、照れくさそうにモジモジとし始める。

 これはこれで、なぜかまた喜んでもらえたようだ。


「聖斗様は何も悪くありませんのに……私のことを考えて頂いて、ありがとうございます……」

「あはは……あまりこういうのに慣れてないから、嫌だったりしたら正直に言ってくれたらいいからね? そうやって、ルナがいろいろと俺に教えてくれると嬉しいかな?」


 なんだか俺が乙女心を理解しようと頑張っている、と捉えられたようなので、変な期待をされないように補足しておく。

 正直、乙女心が理解できるなんて思っていないからなぁ……。


 今朝の服のやりとりのように、莉音との経験を活かすことができる場面もあるだろうけど……多分、あまり期待はできない。

 なんせ、莉音とルナの性格が違いすぎるのだから。


 根が優しいところはどちらも同じだけど、莉音はクールで落ち着いた女の子だ。

 子供のようなところはなく、むしろ年齢の割に大人びている子だろう。


 ルナも外面そとづらは大人びた上品な女性という感じで、凛々しくもあるのだけど――根が甘えん坊だ。

 彼女を喜ばせたいと考えた時、莉音と同じような対応では駄目だと思う。


 それこそ、甘やかしてあげれば喜ぶだろうし。

 もし莉音相手に、ルナにしているようなナデナデなんてしたら――とんでもなく冷たい言葉が返ってくるだろう。

 当たり前のことではあるのだけど、ちゃんとその人に合った接し方をする必要があるのだ。


 少しずつ、ルナ自身が喜ぶことや、されて嫌なことなどを学んでいかないといけない。


『私色に、聖斗様を染めてしまう……』


 少し考えごとをしていると、ルナがボソッと独り言を呟いた。

 気が付けば、何やら熱のこもった瞳で、期待したように俺を見つめてきている。


 あれ、何かおかしいぞ?


『ルナ様。聖斗様は、そこまではおっしゃっておられないので……』


 恍惚こうこつとした表情を浮かべていたルナに対し、アイラちゃんが声をかけた。

 それにより、ハッとしたようにルナの瞳がハッキリとする。


『ア、アイラ、独り言を聞かないでくださいませ……!』

『この距離では無理がございます。そのようなことよりも、ルナ様は聖斗様に何か不満がおありでしょうか?』


 俺に聞かれたくないのか、ルナとアイラちゃんは英語で話を始めてしまう。

 話に入れない俺は、彼女たちの話が終わるのを待つしかなかった。


 さすがに、日本語で話してくれ――なんて言える、図太い神経は持ち合わせていない。


『まったくありません……! ですが、聖斗様は乙女心をまだ知られておられないとのことで、それはつまり真っ白な用紙です。そして、私に教えてほしいということは、私好みの知識を知って頂くということになり――私の色で染めてしまうことになる、ということではありませんか……!?』


 英語は全くわからないけど、ルナが興奮しているのがわかる。

 好きなことにはテンションが上がる子なのは既にわかっているけど、なんで色の話を今しているんだろう……?


 部分的な単語しかわからないから、全然話の内容が掴めない。


『兄妹のように育った幼馴染がいて、染まっていないとは思えませんが……まぁ、わざわざ言う必要はありませんか』


 ルナの言葉が納得いかなかったのか、アイラちゃんは一瞬微妙そうな表情を浮かべたけど、すぐに笑みを浮かべ直した。


『具体的には、どのように染め上げるおつもりで?』

『えっ、それは……その……』


 アイラちゃんが小首を傾げると、ルナは視線を彷徨わせながらまたモジモジとし始める。

 言いづらそうにしているけど、何を聞かれたのだろう?


『言葉にできないこと……ルナ様も、ついにそちら・・・方面に興味を持つ日が来られたのですね……』

『何も言っていないでしょう!?』

『はい、おっしゃっておられないので、言葉にできないことなのかと』


 くっ、いったいどんな会話をしているんだ……!?

 ルナが驚いたように食い気味に声を張り上げる姿なんて、そうそう見ないんだけど……!?

 英語を理解できないことが、今凄く悔しい……。


『具体的な内容が思い浮かばなかっただけです……! 変な想像をしないでください……!』

『変な想像とは?』

『そ、それは……! ~~~~~~っ!』


 今度は、ルナがまた言葉にならない声をあげて、悶え始めた。

 まじでどんな話をしているんだ……?


 気になって仕方がないんだけど……。


『アイラ、さすがの私も怒りますよ……! あるじをからかうのも、ほどほどになさい……!』


 今度は、幼い子供を叱るかのようにルナは人差し指を立てた。

 アイラちゃんがルナをからかっていたのかもしれない。


『変な想像で悶えてしまうくらいに、ルナ様は知識を得てしまわれたのですね。いったいどこで知識を得たのやら』

『――っ! も、もうそのお話は終わりです! いいですね!?』


 アイラちゃんの反撃を喰らったのか、ルナは慌てているように見える。

 だけど、アイラちゃんがコクリッと頷いたので、どうやら話は終わったようだ。


「疲れました……」


 ルナは俺に視線を向けると、体を預けるように腕に抱き着いてきた。

 これから遊ぶって時に、この子たちは何をしていたんだ……。


「なんか凄く取り乱していたけど、何を話していたの?」


 この流れなら聞いてもおかしくないかと思い、俺は自然体を装いながら尋ねてみた。


 しかし――。


「い、言えません……」


 ルナはとても恥ずかしそうに顔を逸らしてしまい、内容は教えてくれなかったのだった。


 ――くっ、まじで気になるじゃないか……。




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【あとがき】


いつも読んで頂き、ありがとうございます!!


話が面白い、ルナかわいい!と思って頂けましたら、

作品フォローや評価(下にある☆☆☆)、いいねをして頂けると嬉しいです(≧◇≦)


これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪


また、一昨日(4月25日)

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既にXで素敵なご感想を沢山いただいており、

大好評発売中なので、

是非是非よろしくお願い致します♪

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