第3話冒険者ギルド
俺たちがいる国はグランディオーサで、その首都はグランデシティアだ。
グランデシティア冒険者ギルド本部に、クエストを受注するために向かっている。
以前、個人ではなくパーティーでクエストを受けられるように、四人できたことがある。
俺たちは実績がないので、Fランクパーティーということになった。
受けられるクエストはパーティーのランクで決まる。
現在は高難易度のクエストは受注できない。
簡単なクエストを受注して、実績を作っていくしかない。
冒険者ギルドに向かう途中、店が軒を連ねているのが目に入ってくる。
肉屋や魚屋には新鮮な食材が並んでいる。
クエストが終わったら、あいつらにお土産でも買っていくかな。
道具屋や武器屋、防具屋も営業している。
剣や槍、斧などが並んでいる。
俺はシーフなので、短剣か投擲武器しか装備できない。
ファンタジー世界なので剣へのあこがれはあるが。
防具も重装備は無理で、軽装備のみだ。
モーガンは商人、ラヴェラは踊り子だ。
ん? 商人と踊り子って何が装備できるんだ? まあ、おいおい訊いてみればいいか。
杖をマルセリーヌに買って帰れば喜ぶかな。
そういえば、前世で野球部が新品のグローブを親に買ってもらったり、バスケ部がバスケットシューズを買ってもらうと、やる気を出してたな。
飽きて、すぐにやる気を失ってしまっていたが、入り口としてはいいだろう。
その後は習慣付けられるかで、続けられるかが決まる。
そこは俺の能力次第だろう。
冒険者ギルドに到着した。
クエスト受注窓口に近づく。
またお決まりのリアクションがきた。
「勇者様……」
これで勇者と間違えられたの何回目だろう。
もう慣れっこだが。
「勇者じゃなくて申し訳ない、レナーシャさん。残念でしたね、はは」
受付の女性はレナーシャさんという。
俺たちを冒険者登録してくれた人だ。
「いえ、残念ではありません、エミリオさん」
何故かレナーシャさんは顔が赤い。
体調でも悪いのだろうか。
俺はレナーシャさんにポーションを手渡した。
「これは……?」
「お疲れでしょうから差し入れです。良かったら飲んでください」
顔が赤くなるほど疲れているのだろう。
疲れはパフォーマンスを低下させてしまう。
本当は『家でゆっくり寝てください』と言いたいが、冒険者とギルド職員の関係でそこまで言う権利はないだろう。
彼女にも生活があるし。
「ありがとうございます。それで今日はどのようなご用件でしょうか?」
「クエストを受注しようと思いまして」
レナーシャさんは口元に手を当て考え込んいる。
それもそうだろう。
冒険者がパーティーでなく、個人でクエストを受けようとしているのだから。
「駄目でしたか? 流石にパーティーメンバー集まらないとクエストは受けられませんか?」
「そういう決まりはありません。ですが、パーティーに属している人が個人でクエストを受ける様なことは先ずありません。ただし、ソロで冒険者をしている人もいます。今確認したら、エミリオさんはパーティーメンバーとしてのみ冒険者登録されています。ソロ冒険者としても登録できますが、どうされますか?」
仕方ないことなのかな。
レナーシャさんの提案を受けようと思ったが、俺の頭にある疑問が浮かんだ。
「ソロ冒険者としてクエストをこなすと、その実績はどうなりますか?」
「エミリオさんの実績になります」
それでは困る。
俺個人の冒険者ランクが上がるなんてどうでもいい。
パーティーの冒険者ランクが上がらないと困る。
「ソロ冒険者登録はやめておきます。パーティーとしてのクエストを個人で受けます。そうしないとパーティーランクは上がらないんですよね?」
「かしこまりました。ところで、これは訊いてよろしいのかわかりませんが、お仲間さんは?」
レナーシャさんは申し訳なさそうに訊いてくる。
俺はオブラートに包んで、今の状況を説明した。
三人の印象を不必要に下げることは、望ましくないからだ。
あいつらもいずれは冒険者ギルドを利用することになる。
今は真実を話す必要はないだろう。
「そうですか。早く一緒に冒険ができるといいですね」
「はい。それで今受けられるクエストは何がありますか?」
「お待ちください。今お調べします」
レナーシャさんはクエスト一覧を確認している。
俺がFランクなのであまり受けられるクエストがないのだろう。
パーティーにはFからSのランクがあり、最低ランクがFで、最高ランクがSだ。
ランクによって受けられるクエストの難易度が上がっていく。
その分報酬も上がる。
早くパーティーランクを上げたいので、派手なモンスター討伐をしたいところだが、贅沢は言っていられない。
レナーシャさんがクエストを探してくれているのを待っていると、俺は異変に気付いた。
冒険者ギルドの外が騒がしい。
俺の気配察知スキルが告げている。
何人かが、冒険者ギルドに入ってこようとしている。
「はぁはあ……レナーシャ、緊急だ。緊急でシーフの冒険者を手配してくれないか」
息を切らした女性冒険者が、冒険者ギルドに駆け込んできた。
その女性は深紅の髪で、プレートアーマーを身に纏っている。
その後ろには巨躯で禿げ頭の男性と、矮躯で黒いローブを身に纏い、三角帽子を目深にかぶっている者がいる。
顔の大部分が隠れていて、性別が判別しにくいが、俺の観察スキルが女性だと告げている。
後ろの二人は仲間だろうか。
「ヴァレリアさん、どうされましたか?」
赤髪の女性はヴァレリアというらしい。
「はぁはあ……レナーシャ。詳しい事情を説明している暇はない。緊急でシーフが必要なんだ。手配してくれないか? なるべく早く」
「何て偶然」
「は?」
レナーシャさんは俺に顔を向けた。
ヴァレリアという女性は、つられて俺に顔を向けた。
「おわ! 何でこんなところに勇者がいるんだよ」
「おいおい、マジかよ」
「勇者様なのです!」
三人は俺の顔を見て驚愕している。
まあ、もう慣れっこなんですけど。
黒いローブの女性は、驚愕して、三角帽子が跳ね上がった。
顔が露になる。
観察スキルが告げているように、女性だ。
「よく似ているって言われる」
「何だ、他人の空似かよ。って、今はそんな場合じゃない。本当に緊急なんだ。シーフが必要な状況なんだよ」
「ですから」
レナーシャさんは、俺に手のひらを向ける。
「は? あ、ああ。あんた、シーフなのかい? 言われてみればそんな恰好しているね。勇者に瓜二つなのにシーフとは。って、今はそんなことどうでもいい。緊急なんだよ。一緒に来てくれるかい?」
俺としては、願ってもない誘いだ。
行けるのなら行きたい。
でも、気になることがある。
このクエストが受けられるかだ。
クエストはパーティーランクで受けられるかが決まる。
俺はレナーシャさんに確認した。
「それは問題ないですよ」
レナーシャさん曰く、パーティー同士の助っ人は双方の合意があれば、問題ないようだ。
クライアントが一般市民の場合と違って、パーティーは冒険者ギルドに登録した時に、リスクを受け入れる契約をしている。
そのため、自己判断が尊重される。
俺たちは双方自己責任を受け入れる覚悟がある。
契約成立というわけだ。
「報酬は言い値でいいよ」
何と太っ腹なのだろうか。
でも、それだけリスクが伴うというわけか。
裏もありそうだし。
だからと言って、このクエストを断るわけにもいかない。
最初はおつかい的なクエストをコツコツこなして、実績を積もうとしていた。
報酬だけでなく、今回のクエストでパーティーのランクが上がるかもしれない。
魅力的すぎる提案だ。
今回のクエストが成功したら、モーガンたちはどう思うだろう。
少しはやる気を出してくれるだろうか。
まあ、そう簡単にいかないことはわかっている。
土産話に少しでも興味を持ってくれれば幸いだ。
コツコツやっていくしかない。
先ずは最初のクエストを成功させることからだ。
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