偽勇者パーティーに転生したので、本物勇者パーティーを超えるパーティーを作ることにした
新条優里
第1話偽勇者パーティー転生
前世は教師だった。
激務に追われていたが、充実した日々。
生徒一人一人の性格や能力が違うので、大変な部分もあった。
時間的にも労力的にも大変な仕事だ。
授業の計画と実施。
試験の作成や採点。
評価の作成。
進路指導や学校行事の指導。
問題のある生徒もいた。
他にも大変なことを挙げればきりがない。
でもやりがいのある仕事だ。
生徒の成長を見るのは、なによりもの喜びだ。
試験でよい成績を残したり、部活で活躍したり。
この生徒はあのゲームが好きなんだな、この生徒はあの漫画が好きなんだなと知れることも楽しかった。
そんな充実した日々も終わった。
激務に追われるうちに過労で亡くなってしまったからだ。
気づけば異世界に転生していた。
転生した先は貧民街。
前世も大変だったが、恵まれていたことにこちらでの生活を送るうちに気付かされた。
そしてこの世界が大学生の時にやっていたゲーム、オーソドックスファンタジーであることに気付いた。
勇者パーティーが魔王を倒すという昔ながらの王道RPGだ。
剣や魔法の世界で、モンスターが登場する。
武器屋や防具屋といった前世ではなじみのなかった店が存在している。
登場人物も日本人離れした彫りの深い人たちばかりだ。
教師になってからはゲームをしていなかったので、最初は気づかなかったが、常に付きまとっている違和感の正体の原因を探っていたら、そういうことなのだと気付いた。
オーソドックスファンタジーは昔ながらのRPGだが、本編以外にミニゲームがある。
馬車レースや、闘技場、カジノ等だ。
当時はレベル上げが楽しすぎて、時間も忘れて遊んでいたが、将来のことを考えるにあたって、ゲームはしなくなった。
教師という仕事は楽しかったが、この時はこの時で楽しかった。
だが、この世界に転生してからは、とても教師を目指すなんてできそうもなかった。
生きることで精一杯だ。
そこら辺に生えている草を食べたり、捨ててあるものを食べて食いつないできた。
死にかけたこともあったが、おかげで軽度の毒耐性が身についた。
人間とモンスターの大規模戦闘があったら、どさくさに紛れて盗みをした。
盗みはするがルールは決めていた。
人間のものは盗まない。
モンスターが身に着けている装備品や道具だけを盗む。
こうすれば人間側が有利になる。
悪事ではないだろう。
こうして手に入れた装備品や道具を闇市で売りさばいた。
逆境を生き抜いて、俺は何とか大人になることができた。
大人になった俺はシーフになった。
学校に通ってないので、教師にはなれない。
そもそもこの世界に教師という職業があるのかも怪しかった。
厳しい世界を生き抜いた経験を活かすには、シーフが一番良いと思ったからだ。
パーティーを組んだほうが良さそうでもあったので、とあるパーティーに加入することになった。
強欲な商人。
自意識過剰な踊り子。
怠惰な魔法使い。
パーティーバランスわる!
普通は物理タイプの前衛二人、魔法タイプの後衛二人とかなのに。
シーフの俺は耐久力低いとはいえ、かろうじて前衛とは言える。
でも、商人と踊り子って前衛とか以前に戦闘職なのかも微妙だ。
唯一の戦闘職っぽい魔法使いは、パーティーで一番の怠け者だ。
戦闘面よりも問題なのは、三人はとにかくやる気がないことだ。
何これ? めちゃくちゃ楽しい。
前世の教師の血が騒ぐ。
こいつらが勇者パーティーを超えるパーティーになったら面白そう。
俺はこいつらを育てて、最強パーティーにすることにした。
前世でも生徒がどうやったら上手くいくのか、一日中考えていた。
元から優秀な者より、少しくらい問題がある方がやる気が出る。
人にどうこう言う前に俺自身の能力も大事だ。
確認しておこうと思う。
「ステータスオープン」
名前:エミリオ
種族:人間
年齢:15歳
ジョブ:シーフ
レベル:1
HP:10
MP:0
STR:5
VIT:2
AGI:20
DEX:18
INT:1
RES:1
LUC:15
装備
盗賊のナイフ
盗賊のバンダナ
盗賊の服
盗賊の靴
スキル
盗む:LV5
罠発見:LV3
罠解除:LV3
罠設置:LV3
隠し通路発見:LV3
開錠LV3
敏捷:LV3
毒耐性:LV1
隠れ身:LV3
危険察知:LV3
気配察知:LV3
観察スキルLV3
投擲:LV:1
逃走術:LV3
変装:lv1
軽業:LV1
暗闇視力:LV1
地獄耳:LV1
器用で素早いオーソドックなステータスのシーフだ。
スキルもシーフらしい。
パーティーメンバーだけでなく、俺自身のステータスも上げていこうと思う。
「エミリオ、いいですか?」
俺に声をかけてきたのは強欲商人のモーガンだ。
何か良からぬ提案でもしてきそうだな。
いつものことだが。
男爵家出身だが、魔法の才能がなく、家を追い出されたらしい。
お金が好きだから、商人になったようだ。
話題はいつもお金のことだけだ。
稼いだお金は夜のお店で散財してくる。
かなりの肥満体で、いつもだるそうだ。
食べすぎなのか、飲みすぎなのか。
恐らく両方だろう。
「何だ、モーガン?」
「貴方には勇者のふりをしてもらいます」
「は?」
そういえば、原作でそんなイベントもあったな。
偽勇者パーティーが、本物勇者パーティーのふりをして悪事を働く。
「なにすっとぼけてんのよ、エミリオ。あんたが本物の勇者に似ているから勇者のふりをして甘い汁を吸おうって話だったじゃない」
今のはラヴェラ。
自分が世界で一番美しいと思っている踊り子だ。
平民出身で、勉強が嫌いらしい。
手っ取り早く稼げる方法として、踊り子を選んだそうだ。
戦闘能力については未知数だが、その美貌やダンスでファンも多いようだ。
口は悪いが、パーティーで一番の働き者だ。
常に露出度の高い衣装を着ている。
「そうですわよ、エミリオ。忘れたとは言わせませんわよ。甘い汁♪ 甘い汁♪」
女性魔法使いはマルセリーヌだ。
楽することしか考えていない。
公爵家出身で、魔法の才能はあるが、この国の第一王子から婚約破棄され、自暴自棄になって冒険者になったようだ。
適当なパーティーに潜り込んで、養ってもらうというのが、当初の魂胆だったようだ。
当ては外れたみたいだが。
艶やかな金髪を靡かせ、色とりどりの輝きを放つアクセサリーを多数身に着けている。
俺たちは貧民街出身者と公爵令嬢という身分差がある関係だが、同じパーティーということで対等な立場だ。そこは気楽でいい。
一癖も二癖もある奴らだ。
普通の感覚の持ち主なら、こんなパーティー出ていきたいと思うだろう。
俺はそうではない。
こいつらを最強パーティーにできれば、満足感はすごいだろう。
だから出ていかない。
だが、三人の提案を受け入れるわけにはいかない。
「悪いが断る」
「何を言っているのですか、エミリオ。自分が何を言っているのかわかっているのですか?」
「ああ。こんなバカなことじゃなくて、まともに生計を立てよう。例えば魔王を倒しに行くとか」
「まったく、何を言っているのよ。変なモノでも食べた? シーフなんて一番悪そうなジョブなのに」
「全国のシーフに謝れ」
三人は俺の発言に完全にあきれ返っている。
「魔王? 魔王を倒すっておっしゃたの? 冗談はやめてくださいまし。わたくしたちがゴブリン一匹に負けたのは覚えていらして?」
そうだった。
俺たち四人がかりで、一匹のゴブリンに敗走したのだった。
俺の逃走スキルで逃げ切ったが、それ以来三人はモンスターと戦いたがらなくなった。
それからというものの、三人は悪巧みばかりするようになった。
街で俺が勇者と間違われたことから、今回の話を思いついたみたいだ。
転生してからというものの、俺は鏡をのぞき込むたびに何かを思い出しそうになる。
そうだ、俺の顔はオーソドックスファンタジーの勇者と瓜二つなんだと。
街の人が俺を勇者と間違えて、色々な贈り物をしようとしてくる。
俺はそのことを毎回訂正し、贈り物を断っている。
俺の功績じゃないからだ。
「覚えているさ、マルセリーヌ。でも今度は大丈夫かもしれないだろ?」
「そうは思いませんわ」
最初から上手くいくとは思っていない。
これからの俺の関わり方で、三人の考え方も変わってくれるだろう。
腰を据えてじっくりとやっていこうと思う。
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