死んだはずの朝

@sanma_love

プロローグ

電車を乗り継ぎ、更に麓の街で借りた車を走らせること二時間弱。四方を山々に囲まれた文字通り陸の孤島であるこの場所に、その集落はひっそりと存在する。何か自然の観光資源だとか行楽施設だとかがあるわけでもないため、この地を訪れる人はほとんどいないだろう。一応村から15分ほど歩いたところに滝があり、一時期はそれを売り出し観光客を呼び込もうともしていたようだが、電車もバスもない交通の便の悪さもあり失敗に終わったようである。


しかし、その周囲から隔絶されたともいえるような立地故にこの地では独特の文化が築き上げられており、ごく一部ではあるがそれを目当てにこの集落を尋ねる研究者もいるほどだ。


かく言う私もこの集落特有の建築を目当てに大学のゼミ仲間であり友人の作田とともに訪れている。

ゼミで与えられた課題のテーマを決めるため読んでいた本かサイトかでこの集落の家の写真を見た私は、目を奪われた。


その家は窓が少なかった。


正面からの写真のみだったので他の方向から見たときは分からないが、少なくともその写真を見る限り一つしかなかった。


しかもその窓は通常よりもやたらと低い位置に取り付けられているのである。


私はその奇妙な外観になかなかどうして惹き付けられた。


今回の課題ではテーマに選んだ場所へ実際に赴く必要があったため他のゼミ生の多くは自分の暮らす場所の近くや行きやすい場所を選んでいたが、私はどうしても写真で見た家を忘れられずこの場所を選んだ。


なぜ私がここまでこの集落に拘ったのか、今では分からない。

ただ振り返ってみるとあの写真を見た時に抱いた興味とは別に、何かを感じ取っていたのかもしれない。

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