リハビリ用短編集

ビーデシオン

ネオンライダー 1

 半年間の大学生活に終止符をうった帰り道、せめて街並みを脳に焼き付けたくて、二駅先まで歩いてみたけれど、辺りが暗すぎてなにも覚えられなかった。頭の中に残っているのは、退学届を受理した職員の面倒そうな顔と、歩道を歩いていただけで鳴らされたクラクションの音くらいだ。マイナスな出来事だけが頭の中で反復され続けている。


「クソ。早く帰れよ……」


 口に出してみてから、自分を責めてしまったことに気が付いた。実際、早く帰ればよかったのだ。帰れば家族が慰めてくれるし、ずっと相談を続けてきたネットの人に褒めてもらうことだってできたはずだった。朝、モバイルバッテリーを忘れなければ今すぐにだってそれができたはずなのに、無駄に歩いたせいで僕は今から、ヘッドホン無しで二時間も電車に揺られなければいけない。


「もう、座れないじゃん」


 現在時刻はわからないが、駅前の人通りを見れば混雑具合は想像できた。この分だと、ホームのベンチも空いていないだろう。次の電車まであと何分かはわからないけど、しばらくは立ちっぱなしになりそうだ。

「いいや、とりあえず、帰ろう」

 ひとまず、電車に乗らないと何にもならない。

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