第1話

すべてを思い出した瞬間、あまりの衝撃に眩暈がして、思わず倒れこんでしまった私を抱きとめてくれた方がいた。


「大丈夫?」


この世界で初めて聞く声。でも聞き覚えがある。

まさかと思い瞼を開くと目に飛び込んできたのは、かつて私が焦がれた人の姿だった。

日にあたり輝くプラチナブロンドの髪に透き通るような青い瞳、見覚えがある…ありすぎる。いったい何度この顔を見たことか。間違えるはずがない。目の前のこの人こそ、ゲームのメインキャラクターでありこのベルミントル王国の第一王子であるレイス・フラガリア様だった。


「どこか具合が悪いのか?」


呆然として何も言わず固まっていた私を不審に思ったのか、心配そうに顔色伺いながら声をかけてくれた。


「あ、だ、大丈夫です!ごめんなさい、ありがとうございます、」


混乱する頭をフル回転させ、なんとか声を絞りだした。自分でも聞いていて分かるほど声が震えている。周囲には人だかりができて誰もが私を見るかのような感覚にすら襲われ、目の前がぐらつき眩暈は余計にひどくなってくる。


失礼しました!と半ば駆け足でその場を離れるので精いっぱいだった。助けてもらっておいて急に立ち上がり走り去るなど無礼千万だろうが、これ以上あの場にはいられなかった。


ひとまずその場を離れ人気のない廊下の隅で深呼吸し、心を落ち着かせる。

よくよく考えたらゲームでは入学式の日に門の前で転んだジゼルがレイス様にぶつかる、というように二人の出会いのシーンが描かれるのだから、あの時あの場所でレイス様に出会っても不思議ではないのだけれど、思い出した時の衝撃が大きすぎてそこまで頭が回っていなかった。


それともう一つ、少し異なる点はあるとはいえゲームとほとんど同じシチュエーションでレイス様と会ったわけだけれど、もしかしてこの後もゲームと同じようにイベントが起こっていくのかしら?

もしそうならこの後の学園生活で私、ジゼルとレイス様は身分の差はあれど様々なイベント…もとい交流を経て心を通わせ、学院の卒業式の日に正式に婚約、という流れになるのだが、一つ気になることがある。


それはレイス様の婚約者であるベロニカ・フランボワー侯爵令嬢の存在だ。彼女は未来の夫の心を奪った子爵令嬢への嫉妬に狂いこの学院に通う3年間、あの手この手でジゼルに嫌がらせをして彼を諦めるように迫るも、最終的にはその悪事が白日の下に晒され婚約破棄、更に断罪を受けるという末路を辿る。


当時はスチルやノートの回収に夢中になっていたからあまりよく考えていなかったけれど、冷静になるとベロニカ嬢の嫉妬は当然のものじゃないの。


彼女はレイス様と互いが6歳のなった年に婚約を結び多くの時間を共に過ごしていて、たかが学院での3年間を過ごす同級生に過ぎない私とは文字通り格が違う。そんな相手に他に好きな人いるからと婚約破棄を求められたら、私だって怒るし嫉妬する。


更にそこに侯爵家の彼女と子爵家のジゼルという家柄の違い、どちらの方が次期王妃にふさわしいかなど、一目瞭然。


普通に考えればベロニカ嬢の方がふさわしいのだとわかるこの状況で、それでもレイス様はジゼルを選んだ。

それが彼女のプライドをいたく傷つけてしまったのもあるだろう。


正直に言うとベロニカ嬢の嫌がらせはなかなか悪質なものもあり、プレイ中はそのひどさにムッとしたりもしたが、そもそもは婚約者の心変わりが無ければ彼女もそのようなことに手を染めずとも済んだんだ。


このまま世界がシナリオ通り進んでいくとして、私がレイス様と結ばれて本当にいいのかしら?

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