第19話 お口は軽し

 営業マンのA氏は今度はこちらの社に出入りしている。元々F本社の人なのだ。

 ここでもやはり仕事はしない。F社のマイコンのマニュアルを手に入れてくれといくら頼んでも全然動いてくれない。社内の人にとっては申請書を一枚書けば済むことなので別に難しくはないのだがそれをやってくれない。これも営業に多いサボリーマンである。

 つまりは客に甘えているのである。

 仕方ないのでマニュアルは元F社のN課長と相談してみた。たちまちにして箱一杯に様々な新品のマニュアルが詰まったものが送られてきた。

 それからかなりしてからA氏がボロボロの手垢だらけのマニュアルを持参してきたので、こちらはこっそりとゴミ箱に捨てた。


 私が人形作りが趣味なのを知ってA氏がピーターラビットの人形を作ってくれと頼んできた。子供さんの誕生祝いにするつもりらしい。

 それならばと一体作り上げて渡す。

「本物そっくりじゃん」

 そういうと自分のポケットに放り込んだ。

 一言も礼を言わない。

 人を舐めた人間とはこういうものである。


 一緒に道を歩いているとA氏が私の頭を見てこう言い始めた。

「押さえつけると生え際が目立つな」

 そりゃそうだ。髪をオールバックにするとどうやっても生え際は後退する。もちろん承知の上でやっている髪型だ。

 だが・・だ。

 そんなことを指摘してこの人にいったいどんな得がある?

 マウントを取っているつもりなのだろうか?

 隠しようのない程度の低いサディズム。こんなことで自分の方が相手よりも上だと思いたいのだろう。

 口の軽さで気軽に敵意を買う。間抜けの行いここに至れりだ。


 営業職にはこういった口が軽い間抜けが多いように思うのは私だけだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る