第29話 小説の捨て方

 私はどうしても小説を捨てることが出来ない。そこにある作者の思いまでゴミにしそうです嫌なのだ。


 そうは言っても紙派の私は、ある程度したらどうにかしないと家の底が抜けてしまうので、時々古本屋に持ち込む。値段が付かないものも引き取ってもらう。そうやって本と付き合ってきた。


 しかし、私は今生まれて初めて捨ててやろうかなと思う本に出くわした。


 2、3ページで「ん?」と思い、50ページを超える頃には苦痛だった。でも本を途中で放るという選択肢がない私はとっくに冷えたコーヒー片手になんとか最後まで読み切った。


 こんなにも感性が違う人がいる感動のあまり、そのままゴミ箱に捨ててやろうかと思った。


 いや、半分しかけてたが、これはチャンスだと思った。


 以前TVで本を破きながら読むという人を見たのだ。あまりの文化の違いに驚いたが、「本を破く」という背徳行為はちょっとだけ甘美だった。


 私は急にワクワクし始めて、文庫本のタイトルのページを開いた。私の財布からお金を取ることに最高した、素晴らしいタイトルのページを。


 えいっ!と思い切り破いて見れば、下の方を多く残して千切れてしまった。これでは次のページがよく読めない。ちぎり方にもコツがあるようだ。一枚破いてしまえば、後は簡単なもので。二枚、三枚と破いていった。


 やはり本というのは素晴らしい。いくら破いても次のページが緩くならないし、最後のページが抜けそうになることもなかった。それなりにうまく破けるようになったが、それだけだったので、破く行為はやめた。ゴミ箱に持って行くとそれは文字通り「言葉のゴミ」だった。その倒錯的な行為に少しハマりそうになった。それだけのお話。



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