家族になった日

それから8日後


◆ミカエル騎士団本部前、

(イグナルト視点)


「セアラさん任務の報告どうしましょう?」

「どうするも何も、ありのまま話すしかないでしょ。」


任務の報告について悩んでいた。


なぜなら今回の調査任務の依頼では何の成果を挙げる事が出来なかったからだ。

いや、正しくは成果を出すことが不可能だった。


情報の場所には屋敷おろか建物一つ無かったからだ。


草木の生え方や地面の変色具合から建物が立っていた事は推理出来たが、実際の建物は綺麗さっぱり消えていた。

瓦礫一つも残さない徹底ぶりだった。


以上に点から相手は物凄く用心深い人物だとわかった。


しかし、ここまでされたら調査のしようが無かった。


念の為に近くを見回ったが何も手がかりが無かった、調査地も人気が全く無い場所なので聞き込みも出来ない。


よって、今回の任務は無駄足に終わってしまった。


そんな落ち込んでいる俺とは違いセアラさんはなぜか嬉しそうな顔をしていた。


「ようやく、イグのシエルちゃんの話から解放させる」

「・・・なんか、すいません。」

「本当に、よくも14日間も同じ話聞かせてくれたわね。全く。」

「すいません。正直、今もシエル成分が足りずに限界です。」

「イグにとってシエルちゃんってニコチンか何かなの?・・・ところで、イグはシエルちゃんをどうするか決めたか?」

「・・・はい。」


この14日間、任務としては無駄であったがシエルとの今後の事を考えるにはいい機会だった。


がこの14日間、ずっと自問自答を繰り返して来た。その結果シエルを誰かに預ける事を決意した。


やはりシエルの為には俺よりずっとそばについてくれる人がいる方がいいと思った。


「そうか・・・分かった。良い引き取り場所を探してあげよう。」

「はい。・・・とりあえず中に入りません?」

「それもそうね。」


俺らは騎士団の敷地内に入り、馬車を止めた。

馬車から荷物を降ろしていると少女らしき声が聞こえた


「おとうさん!」


喜びに満ちた、嬉しそうな声を出しこちらに走ってきた。

俺の事をお父さんと呼ぶのは1人しかいない


「シエルぅぅ。」


シエルが俺の胸に飛びつく。


「俺、長期任務が終わったらばかりで汚いぞ。」

「いいの、おとうさんに会えてうれしい。」

「・・・シエル」


いかん。シエルを引き取らないと決めたのに決意が揺らぐ。


シエルが可愛いからと言ってシエルを引き取ると言うのはシエルの将来の事を考えていないのでここは我慢しよう。


そんな葛藤の最中フラロスさんが俺に話しかけてくれた。


「イグ、よく帰ってきてくれた。」

「・・・って、フラロスさん、なんか老けましたか?」


フラロスさんの姿は俺が任務に出発する、前より明らかに老けていた。


俺がいない、二週間で何があったんだ。


「シエルちゃん・・元気すぎないか?」


その一言でなぜフラロスさんがこんなに老けたかわかった。


シエルは元気でよく走り回る子供だ。

しかも、目を離すとすぐに危ない事もする。小さい子に慣れてる人でも少し手を焼くからな。


しかも、騎士団の人は小さい子供と接する事に慣れていないのでその疲労は測り知れないだろう。


「大体の予想はできました。お疲れ様です。」

「任務より疲れた。」


ようやく肩の荷が降りた様に腕を回しながら言う

本当にお疲れ様です。


「俺がいなくて、シエル寂しがりませんでしたか?」

「・・そうだな、ずっとお前の帰りを気にしていたから、寂しかったんじゃないか?」

「そうか、シエルもお留守番、出来て偉いぞ。」

「うん、シエルがんばった。・・・ーねぇ、おとうさんあそぼ。」

「おぉ、いいぞ・・・と言いたいが先に任務報告をしないとダメだから、終わってから遊ぼうな。」

「えー・・わかったよ」


シエルは聞き分けが良くて、助かるな。


俺は任務報告の為に団長室へ向かった。シエルに待っとく様に言ったが着いて行くと言った。


14日間もお留守番させ、その上に待てと強制するのは可愛そうだったので仕方なくシエルを連れていく事にした。


団長室に入り今回の任務について全て話した。


「なるほど、敵は用心深い奴のみたいだな。」

「念の為、近辺も捜索したのですが手がかり一つ見つかりませんでした。」

「そうか・・・まぁ、ご苦労だった。とりあえず一度休息を取れ。」

「分かりました・・・よし、シエル遊ぶぞ!」


休息を取る様に命じられた。

俺にとっては【休息=シエルと遊ぶ事】だ。

14日間、シエルと触れ合え無かったし。

今後はシエルと一緒にはいれないので、今日は思うがままに遊ぶ事にした。


◆3日後


二日間の休息を終えた俺は昼食を済ませたタイミングで用事があるとフラロスさんに言われ、団長室に向かう事になった。


「イグナルト、失礼します。」

「おぉ、急に呼んでスマンな・・・って、なんでシエルちゃんまでいるんだ?」

「おはよう、フラロスおじさん、」

「おぉ、おはよう。」


シエルは元気よく、挨拶をした。

この3日間、ずっと俺にべったりで離れてくれなかった。


「まぁ、いい・・今回は任務とか関係なくシエルちゃんの引き取り先が決まったからそれの相談で呼んだ。」

「そうですか・・・見つかりましたか。」


俺らの話を聞いたシエルが驚いた顔でこちらを見る。


「え・・シエルの引き取り先?」


そういえばシエルには新しい家族の話をしていなかった。

いや、実際は言えなかった。

自分自身も言わなけらばならないと思っていたが実際シエルを他の人に渡すのが心の何処かで嫌に思っていたのだろう。

その影響でシエルに話す事が出来なかった


「おとうさんも一緒に来てくれるよね?」」


俺に希望の目を向けてくる。


ここは俺も心を鬼にして否定した。


「シエル・・・ごめん俺はいけない。」

「いやだよ・・おとうさんと別れるのはいやだよぉ!」


シエルが泣き始める。


「シエル、そんな泣かなくても一生会えなくなる訳ではないんだ。」

「いやだよ・・うぅ、おとうさんと離れたくないよ」

「イグ、シエルちゃんと話し合ってなかったのか?」

「すいません、言えませんでいた。」

「たくっ・・・俺は一度、コーヒーを入れて来るからその間に2人で少し話せ。」

「すいません、助かります、」


フラロスさんは気を使い、団長室を後にした。


俺は二人きりになった団長室の会議用の椅子と机が置いてある所で話す事にした。


「黙っていて悪かったな・・・でも、シエルとは一緒に暮らせない?」

「なんで?」


なんでか・・理由は色々ある。

自分自身も本音はシエルと暮らしたい。

しかし、シエルの事を考えると他の人に預けるのが一番の選択だと思う。


「これはシエルの為なんだ、俺が親になるより他の誰かが・」

「いや・・嫌だよ、」

「シエル、いいから話を」


シエルは珍しく話を聞かずに拒絶し始めた。

はじめての事で俺も驚いた。


「聞きたくない、おとうさんはおとうさんだけなの!シエルはおとうさんが良い、シエルはいい子で待つし、シエルは言う事も聞く、何があってもおとうさんと一緒なら大丈夫。」

「・・・」

「もう、嫌だよ。と一緒じゃなくなるの。いやだよぉぉ!!」

「シエル。」


シエルの口から「家族」の言葉が出る


シエル・・・俺を家族と思っているのか?


たった4ヶ月の付き合いで家族って・・・ーいや、俺の19年間にとっては4ヶ月の短い時間だったが

シエルの2年間にとっては長い4ヶ月。

俺が思うよりもシエルの中では俺は大切な存在だったんだな


それなのに・・・俺はシエルの為と勝手に決めつけて。

まだまだ、シエルの事を理解できていなかったんだな。

こんなに俺の事をシエルは思ってくれていたのに・・・ーバカだな。俺は・・・


「シエル、笑えない・・・おとうさんと一緒じゃないと笑えないよ。」

「!?」


笑えない・・・笑えないかぁ。

そうか、そうなのか。

俺も覚悟を決めた方がいいな。


泣くシエルを優しく抱きしめて、落ち着かせた。


◆数分後


「イグ、話はつい・・すまん、シエルちゃん寝ているのか?」


フラロスさんとセアラさんが入ってきた。なぜセアラさんがいるのか?


フラロスさんが俺に話しかけるが俺の膝の上で寝るシエルの姿を見て声の大きさを小さくする。


「はい、泣き疲れたそうです。・・-それよりなぜセアラさんまでいるんですか?」

「なんだ。私が居たら何が悪いの?」

「いえ、別に・・・」

「途中でばったり会ってな、時間潰しに雑談していた。・・-それでシエルちゃんと話はついたか?」


フラロスさんがテーブルを挟み対面の椅子に座り話を始める。


俺は決めた事を話し始めた。


「俺の夢は全世界の人を笑顔にする事です。ガキの様な夢ですがそれが俺の全てでした。


過去の俺の様な辛い思いをする子を無くしたい。その思い出で騎士団に入り、皆さんの協力も得て少しは役に立てる男になった気でいました・・— がマハイルさんの一件以降、俺は自分の無力さに幻滅しました。


人を守るって事はこんなにも大変な事なんですね。


強いだけでは人を守れない。この一ヶ月で俺が身に染みて理解した事です。


その為、今後はシエルの様な子を増やさない為にも騎士団に残り死ぬ気で頑張ると思ってたんですが・・・シエルは言うんです。


って


それを聞いた時、俺はこう思いました。


一人の少女の笑顔も守れない男が世界中の人々を笑顔には出来ない。

今、シエルを笑顔に出来るのは俺だけなんです。


なので決めました。


シエルを笑顔にする為にシエルを引き取ります!


俺がシエルのお父さんになります。」


シエルを引き取る事を諦めて一番の理由はシエルから笑顔が消えるからだ。

しかしそれは俺の杞憂だったようだ。


俺はシエルの笑顔が大好きだ!

この子の笑顔の為になら何でもできる。


だから、仕事で長い間、留守にするこの仕事をしているとシエルに寂しい思いをさせてしまうと思っていたのだ。


だからこそ、ずっとそばについてあげれる人と共に暮らす方がシエルの為になると勝手に思っていたが・・—実際は違うようだった。


シエルの前から俺が居なくなる事がシエルから笑顔を消す事に繋がるとは思っても見なかった。


他の子の笑顔は誰かが守れるかもしれない

しかし、シエルの笑顔を守れるのは俺しかいないようだ。


そんなシエルの内情を知って俺はシエルを他の人に託す事はできない。


そして俺の強い思いを聞いたフラロスさんが語り始めた。

「そうだな。俺らもシエルちゃんを引き取るのはイグが最適だと考えていた。お前がその判断をしてくれて俺は嬉しい。」

「すいません、せっかく引き取り先を探してもらったのに。」

「なに、構わん。」


フラロスさんは安心したように笑って許してくれた。


するとセアラさんが訪ね始める。


「それで・・シエルちゃんを引き取った後、イグはどうするつもりかしら?」

「そうですね。このまま騎士団に置いておく事も出来ませんし・・・ーとりあえず、知り合いの所にしばらく厄介になると思ってます。

それにあたり一つ、俺のわがままを聞いてください。」


俺はシエルを引き取ると決めた時に実はもう一つ覚悟を決めた事があった。


「俺は今日限りで騎士団を辞めます。」


この騎士団を辞めると言う決意は俺にとって重要な決断だった。


騎士団を辞める事は自分自身の夢をあきらめると言う事だ。

その大きな決断は長い付き合いのフラロスさんとセアラさんにも十分理解できただろう。


「そうか・・お前が決めた事なら、無理に止めない。」

「そうね。・・イグにとってそれはシエルちゃんを引き取る覚悟表明の様なものね」


フラロスさんが話続きにセアラさんも話す。

この言葉は良く決心したと言ってる様だった。


「分かった。イグお前の決意を組み本日限りで騎士団を抜ける事を命ずる・・・だが辞めてからも顔は見せに来いよ。」


そしてフラロスさんはそう言い俺の頭に手を置く。


「イグは俺にとって息子の様な存在だ。騎士団の古株全員そうだと思う。何か困ったことがあれば。いつでもココに帰って来いよ。」

「はい。12年間お世話になりました。・・—セアラさんも・・・・あれ?セアラさん?」


俺はセアラさんにお礼を言おうと思い、セアラさんの顔を覗くと両目から涙がポロポロ流れ落ちていた。


あの、セアラさんが泣いた!初めて見た!


「うわぁぁ!良く決断した私は鼻が高いわ。イグが居なくて寂しくなるけど。親友の娘を頼むわよ。」

「・・・はい、セアラさんもお世話になりました。」


俺は二人と別れの挨拶を交わした後、眠るシエルの頭を撫ぜ耳元で囁く。


「今日から俺がシエルのお父さんだ。よろしくな。」


シエルが安心して笑った気がした。

こうして俺はシエルの父親になったのだった。

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