その呼び方はやめて
(イグナルト視点)
「マハイルさん、このシチューうまいですね。」
あの後、腹が減ったので夕食のビーフシチューを頂く事になった。
とても美味かったが俺はあまり舌が良い方ではなかったので【うまい、まずい】の判断基準しかない、普通の人なら『この料理は酸味が来て、ほのかに香るスパイスと肉のうまみがマッチしていて最高に美味でおじゃる、、』と言うかもだが、
俺の場合は「なんかわからんが、、、うまい」だった。
その美味いシチューを食欲のままに堪能した。向かいの方に目をやるとシエルちゃんも小さいお皿と小さいスプーンでビーフシチューを一生懸命食べていた、このシチューの肉は凄く柔らかく口に入れるだけでホロホロに溶けるので小さい子でも安心して食べられるようになっていて、マハイルさんが娘の為を思って作ったのだと理解できた。
ちなみにマハイルさんは後で食べるといい今はシエルちゃんを膝の上にのせて俺と軽い談笑していた。和やかな時が過ぎ食事を終えた、、
そして、、、
「おいしかったね、おとうさん」
「うん、違うよ、、」
俺は今シエルちゃんのお父さんになっていた、、
マハイルさんが冗談で俺の事を【お父さん】と言ってからこの子の中で俺が父親になってしまった、、
マジで何してるんだよ、、、
シエルちゃんがお父さんと言うたびマハイルさんは大爆笑していた、マジで何が面白いのか疑問でしかない。
もし俺が仮にお父さんならマハイルさんは奥さんになる、それは困る。
騎士団ではマハイルさんは伝説級の美女となっている、そんな彼女が俺の奥さん、、、、
冗談としても騎士団員にバレたら100%殺される、なんとかしなければ俺の命が危うい。
「マハイルさん、この状況を何とかしてくださいよ、、」
「あはは、、面白いからいいじゃないの、、」
「面白くないです、、それに俺がお父さんならマハイルさんは俺の奥さんになりますよ、いいんですか?」
「いいじゃない、、私アナタの事を気に入ってるし、、」
「本当に勘弁してください、、」
マハイルさんの事は好きだがそれはあくまで友人としてである。
今の俺は恋愛など一切興味がなく、むしろ邪魔だと思う程だ。
騎士団として多くの悪党を捕まえる事が今の俺自身の一番の目標である、そのため恋愛は今するつもりがない、、、
まぁ、そのおかげでマハイルさんとも仲良くなったんだがな、騎士団員の男性陣がマハイルさんに猛アタックしてる中俺だけ一歩引いた位置にいたのが目立ったそうで彼女から話しかけてきた。
俺も最初はあまり相手をしなかったがそれが逆に彼女に火を付けたそうで隙あれば話掛けに来ていた、そのおかげで仲良くなれたのだが今はそれは関係ない。
とりあえずマハイルさんは頼りにならない事が分かったのでシエルちゃん自身にやめてもらう事にしよう。
「シエルちゃん、俺はお父さんじゃなくてイグナルト言ってみて
」
「おとうさん」
「、、、、イグでもいいよ」
「おとうさん」
「、、、、」
「おとうさん」
俺らの会話を聞いてマハイルさんが机に手を叩きながら大笑いしていた。
うん、もう諦めよう
そのうち飽きてお父さんと呼ばなくなるだろうし
俺はそんな都合の良い考えのまま一時的にこの呼び名を受け入れるのだった。
飯を食べ終わった後マハイルさんがシエルちゃんをお風呂に入れそのあと俺も風呂を頂いた。風呂から上がるとシエルちゃんに『おとうさん、ごほんよんで』と言われたので本を読んであげたその間にマハイルさんは少し遅めの夕食を始め、互いにほのぼした時間を過ごした。
◆1時間後
時刻が夜の8時を回り読み聞かせていた本も2冊目の終盤を読み始めた時に膝の上から寝息の様な音が聞こえてきた、音の方に目をやるとシエルちゃんが夢の世界に入っていた、子供は自由でうらやましいと思いながら頭を撫でてあげた。
「あら、シエル寝ちゃったのね。」
「はい、本の続きはまた今度読んであげます。」
「そうね、、、それにしてもイグって本当は子供好きでしょ?」
「、、、別に普通です」
「ウソね、」
普通にバレた、別に隠してる事じゃないが言い当てられるのは自分の心を読まれてるようで嫌だった。
「子供は好きですけど、、苦手です。」
「あら、どうしてそんな複雑なの?」
「、、、子供って繊細なんですよ、飴細工のように繊細で美しい、俺が触ってしまえば壊れてしまいそうで怖いんです」
俺は子供が好きという自覚はあったが自分自身に雑な所がある事も理解していた。そんな俺がもし子供を傷つけてしまったら【自分自身を許せなくなる】なので出来る限り近づかないで遠くで見守っていたかった。
「そうね、でも私イグは子供の扱い上手な気がするわよ、」
「そうですかね?」
「そうよ、今シエルがあなたの膝の上で安心して寝てるのが証拠よ、、」
俺は膝の上にいるシエルちゃんの安心した寝顔を見る、
「この子、人見知りだから会ったばかりの人にこんなに懐くの珍しいのよ、、」
「そうですか、、」
「子供は確かに繊細よ、だからこそ子供は心を許した人の前でしか安心しないのあなたは自信をもっていいと思うは。」
【自信を持っていい】マハイルさんはいつもズルい、俺が欲しい言葉をくれる、
「シエルちゃんはマハイルさんがお母さんで幸せ者だと思いますよ、、」
「私もシエルが娘で幸せ者よ、、」
膝の上で寝ていたシエルちゃんを一度寝室のベットの上に寝かせ、俺らはコーヒーを飲みながら互いの近況報告をする、マハイルさんが騎士団を辞めてからどんな事が起きたのか、、、、
そして今日は初任務を終えて騎士団に戻る途中に迷子になった話を再びした、さっきは要件を簡単にまとめて話したので今回はもっと詳しく説明した。
「相変わらず、イグの強さは異質ね、、さすが
「まぁ訓練してますから、、、それに今回の敵は全員弱かったので楽所でした。」
「すぐに調子に乗る所も相変わらずね、、」
「そういう、マハイルさんも
「草色魔法だから戦闘には使えないけどね。」
ーーーーーーーーーーーー
【第5位】草色魔法
適性レベル
森に住む元看護兵
マハイル=ヴァインス
ーーーーーーーーーーー
マハイルさんは草色魔法のスペシャリストである、元々は看護師見習いで町の病院で働いていた所を総合団長がスカウトしたのが騎士団に入団した理由であった。
彼女の魔法は素晴らしく苗から一瞬で大樹に成長させる程であり腕か切り落とされても数秒でくっつける事が出来る、マハイルさんが在籍していた時の騎士団員で彼女のお世話になった事がない人はいないだろう。
「、、、自分は草色魔法好きですよ、それに比べて俺の魔法は人なんて簡単に殺すことができます、怖い魔法ですよ。」
自分の持つ炎色魔法について話始めた、
炎色魔法、それは最も適合者が多く攻撃性能も高い魔法なので【一番人を殺してる魔法】とも言われている、さらに炎色魔法は制御も難しく一歩間違えば大火事になる、そのため炎色魔法は街中や森などの使用が禁止になっている場所も多く、騎士団から特別な許可がない者は原則使用禁止になっていた。
だからこそ俺は草色魔法が好きだ、
草色魔法は基本的に植物の成長を促進する効果を持っているがそれを応用して人体の傷を治したりする事ができ、適合者も2番目に低く貴重な魔法属性であり【最も優しい魔法】とも言われている、だからこそ俺は人を傷つける魔法より人を救う魔法の方が好きだった。
「俺は、
「そう、ありがとうイグ、、でもアナタの魔法も人を救うわよ」
「俺の魔法が?」
「そうよ、人に危害を与えようとする人から守る事が出来るのは
俺の魔法が人を救う?
あまり考えた事が無かった。
自分の魔法の事は盗賊などを一掃する時に便利な物ぐらいの考えしか無かったので人を守る魔法なんて考えた事が無かった。
今もあまりピンと来ていない。
この先騎士団を続けていたらマハイルさんが言った意味が分かる時が来るのだろうか、、、
もし来るとしても何年後になるやら、、
話し合っているともう日が回っていたので今日は寝る事にした。
一緒のベットで添い寝しようと誘われたが丁重にお断りして近くにあった長椅子の上で眠る事にした。疲れからか一瞬で眠りに付いた
◆次の日
朝、台所からの物音で目を覚ますとマハイルさんが朝食の準備をしていたまだ朝の6時ぐらいだった、
「おはようございます、マハイルさん」
「あら、起こしちゃったかしら?」
「いえ、早く本部に戻りたかったので丁度良かったです。」
建前とかじゃなく本音だった、早く本部に戻って報告を終えたかった、その為もう帰るための準備は終わっていた。
「そうなのね、朝ごはんはどうする、、イグの分も作ったのよ。」
「じゃあ、朝食だけ頂ます、」
「ふふっ、分かったは速く完成させちゃうわね」
マハイルさんは大急ぎで朝食を準備してくれた。逆に急かせる感じになってしまって申し訳なかったがものの数分もしないうちに朝食が完成した。
もしかしたら俺がここを早く出て行くと思い早めに朝食を準備していてくれたのではないかと思った。
マハイルさんならあり得る事だった。
マハイルさんと俺は朝食を食べ進めるしっかりとブラックコーヒーも準備していてくれた、食事が中盤に差し掛かった頃シエルちゃんがいない事に気が付いた。
「そういえば、シエルちゃんはまだ寝てるんですか?」
「えぇ、あの子朝弱いからあと3時間は爆睡よ、」
「そうなんですね、お別れの挨拶しようと思ったんですが、、」
「お別れって、また来ればいいじゃないの、、」
「はは、もう正式に騎士団なんで今度いつ来るか分かりませんよ、、」
そんな会話をしていると外の方からキィーと高い猛禽類の様な声が聞こえる、
迎えが来たようだ。
「あら、なんの鳴き声かしら?」
「迎えが来たんですよ、ごちそうさまです」
食べ終わった朝食の食器を洗い場に出し、マハイルさんと共に家の外に出ると空の方で赤い大きなタカの様な鳥が旋回していたので俺が口笛を吹くとこちらに気付き、空から降りて来た。
そのタカの正体は俺の使い魔のフェニックスだった。
フェニックに迎えに来てくれた礼を言うと嬉しそうに鳴いた。
「あら、驚いたそれ最強種よね。」
「はい、最近使い魔になったフェニックスです。」
「フェニックスって、、、安直ね、もっといい名前無かったの?」
「フェニックスかっこいいじゃないですか、お前もそう思うよな」
フェニックスにも同意を求めようと話掛けると首を左右に振り否定の様な鳴き声をした
俺は悲しくなった、、、
「この子なんでイグ場所が分かったの?」
「魔道具でお互いの大体の位置がわかるですよ、多分昨日帰らなかった事を心配して迎えに来てくれたんでしょう。」
「魔道具ね、、」
「マハイルさんは使い魔いないんですか、マハイルさん程の魔力量なら使い魔も使役できると思うんですけど、、」
俺がそう聞くとマハイルさんの顔から一瞬笑顔が消えた気がしたがいつも通りの笑顔に戻った。質問に対しての返答は『シエルがいるから』と言われ話を流されてしまった、俺もこの時あまり触れない方いい話だと思いこれ以上話題を掘り下げる事はしなかった。
「じゃあ、俺はもう行きます。」
「はい、気を付けて、」
俺はフェニックスの背中に乗る、すると羽を羽ばたかせてゆっくり上昇した。
「シエルちゃんにもよろしく言っといて下さい。」
「分かったわ、またいつでも来なさい」
「はい、またいつか。」
また会おうと言われたが次会うのは何ヶ月後になるかと考えながら本部に帰るのだった。
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