第1話 鷹崎特殊警備
〈百数十年後〉
現代、東京某所。
「ハァ、ハァ、ハァ…。お前いい加減にしろよ…!会議1時からって口酸っぱく言っただろが!なんで12時からの映画見始めるんだよ…」
「いやぁ、気になっちゃって、ごめんごめん!ちょっとだけでも見よって思ってたらギリギリの時間に…」
「映画は全部見れる時に見ろ!金の無駄!」
広い廊下を大慌てで走る男女がいた。
『ガチャ!』
「ふぅ、ギリギリセーーフ!」
「ギリギリアウトですよ。川村班長。」
「ごめーん!
「お前ホント班長の自覚を持て!毎回付き合って走る羽目になる俺のことを思いやってくれよ…。」
「毎度お疲れ、涼川。今日は何があったんだ?」
「成美さん、すみません…、こいつ、映画館で映画見てやがったんですよ…。」
「相変わらずだな。まぁ座れ。さっさと会議を始めるぞ。」
室内には既に10名ほど着席していた。
前方にあるモニターに向かって座る班員ら。
その最前列、モニターに背を向けて座っているのが、第1班班長・
ぺこぺこ頭を下げながら第2班班長・
彼らは皆、鷹崎特殊警備第1課に所属する社員だ。
「それでは、本日の会議を始めます。議題は最近多発している行方不明事件について。先日の政府との会談の結果、我々鷹崎特殊警備の主導で解決に向けた捜査を行うことになりました。」
斉藤が会議を進行していく。
事件が多くの人の知られるきっかけとなったのは、1ヶ月前に起こったA市園児・関係者一斉行方不明事件。
預けていた我が子を迎えに行こうと幼稚園に向かった保護者らからの通報で発覚した。
いつも通りの日常、のはずだった夕方、幼稚園で保護者たちが目にしたのは、我が子どころか、他の子供たち、先生・職員、誰もいない抜け殻となった幼稚園だった。
警察の必死の捜査も空しく、何も手がかりが得られないまま迎えた翌日深夜、行方不明だった被害者らは隣の県の空き地で全員見つかった。
被害者は皆、健康被害はなかったが、前日から発見されるまでの記憶がすっぽり抜けており…。
犯人逮捕に繋がる有益な情報は何も得られないまま、既に1ヶ月が経っていた。
話はこれで終わらず、この事件の大々的な報道をきっかけに、小規模被害で済んでいたため報告されていなかった似たような事例も次々と集まり始めた。
調査の結果、それらすべてが件の一斉行方不明事件と関連しており、まとめて全国規模の大事件であると判断されたのだ。
「多数証言は集まるものの…確かな情報は何一つ得られず。警察はもうお手上げとのことです。被害の実態の早急な把握、容疑者とその目的の捜査、犯人確保。早速、役割分担をしましょう。」
「少し厄介なのが、この件、話題性も高まったおかげで1から100くらいの方向性からの証言が集まっている。本当に関連する証言がいったいいくつあるのやら…という状況だ。1班は証言の洗い直し一気にやるぞ。2班は警察から各種資料などを受け取ってきてくれ。被害者らの所持していた小物や衣服なども物証として一部保管しているらしい。その調査は川村に頼んだ。」
「了解です。」
「2班の人員余ったらこっちによこしてくれ。証言の整理はさっさと終わらせたい。」
「だったら私と涼川だけで大丈夫ですね。3人は1班について。」
「「「了解。」」」
「助かるよ。今日3時から…」
着々と会議が進む中、涼川はなんだか浮かない顔をしている川村に気付いた。
「どうした、変な顔して」
会議の邪魔にならないようにコソッと声をかけた。
「いやぁ、映画館でね、ジンジャーエールを飲んだんだけど…。やっぱあれだ、私炭酸苦手だわ。ゲップでそう…。」
「おま…。集中しろよ。そして全力で堪えろ。ここでそれを出したら一生許さん…!」
「だって映画館だよ?なんか炭酸にポップコーン食べたくなるじゃん。」
「さっきキリッと部下に指示出してただろ、あの時もあれか?ゲップ我慢してたんか?」
静かに喧嘩する2人をよそに会議はどんどん進んでいく。
「他には…川村、なにかあるか?」
「いえ、大丈夫です。」
話が自分に回ったとたんにキリッとする川村。
その余裕そうな顔にイラっとする涼川。
2人の様子に、斎藤はジロッとにらみつけたが、川村はニコっと笑い返した。
「じゃあもう終わりでいいな。斎藤、しめてくれ。」
「はい、では次は明日同刻午後1時に。それではお疲れさまでした。」
『ガラガラガラ…』
班員らは一斉に立ち上がり動き始めた。
椅子に座りながらその様子を眺め、自分の鎖骨の真ん中あたりを手でトントンと叩く川村に、ため息をこぼしながら近くにやってきた斎藤が話しかけた。
「ほたる、あんたねぇ…。会議の時間くらい自分で把握しときなさいよ。」
「時間は分かってたよー。30分くらいだけ映画見ようと思ったんだけど思いのほか面白くて…」
「分かってたなら映画やめなさいよ。映画の制作者にも失礼よ!」
「返す言葉もございません…。…ん?」
齋藤に顔を向けると川村は、左手に輝く指輪を発見した。
「おぉ?」
続いて、グイッと椅子ごと前のめりになると、齋藤の向こう側で部下と話している成美を、ジト目の猫のような顔で見つめる。
川村の視線を感じ、目が合った成美は少し照れているではないか。
川村が気付いたことに気付いたのだろう。
「ほぉー!」
「な、なによ?」
「そっか~、な~んか今日雪㮈ちゃんキラキラしてると思ったら、指輪パワーかぁ。いつものペアリングとは違うなぁ。いつプロポーズされたの?」
「…昨日。」
「昨日!ほやほやだねぇ~!」
『ガタン。』
川村は勢いよく立ち上がると齋藤をギュッと抱きしめた。
「よかったね!雪㮈ちゃん、おめでとう!」
「…ありがと。」
「もー、ツンツンしてるなぁ。可愛くて大好きだけど!」
「してないわよ!」
「アハハ、今度お祝いご飯行こ!とっておきのご馳走おごったる!」
「2次会はあんたんちね。寝かさないから。朝まで飲めるよう酒も用意しときなさい。」
「はーい!楽しみにしといて!」
ぐるっと顔を背け、部屋の外へと歩き出した斉藤。
背を向けたまま、こちらに手だけハイハイ、と振り返している。
よく見ると、耳が赤くなっていた。
「フフっ、かわいいなぁ。」
思わず、そう声に出していた。
「ん?どうしたんだ?」
「ん。とりあえず班室行こ。」
川村は涼川を部屋の外に連れ出した。
そして2人は並んで歩き出す。
「雪㮈ちゃん、昨日成美さんにプロポーズされたんだって。」
「まじか!もっと早く言ってくれよ!お祝い言えなかったじゃん。」
「ごめんごめん。今度お祝い会するから予定合ったらおいでよ。2次会は私が雪㮈ちゃん独り占めするからダメだけど。」
「行く行く!うまいとこ探そう。」
「プロポーズ成功直後に大きい事件って大変だよね。二人のためにも早く解決させて、幸せな日々を送ってほしいものだ。」
「だな。」
「…慰めたろか?」
「いつの話をしてんだよ。」
「強がるなよぉ~。」
「まっじでうざい!」
鷹崎特殊警備。
表向きには要人警護やイベント警備などを担う会社だが…、ただの民間警備会社ではない。
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