第11話 第3ゲーム「フルーツパニック」②

 

「ミノリ! こっちよ!」


 私は両足を浮かせないように気を付けながら彼女に駆け寄ると、「すいか」まで引っ張る。花房ユウが何か叫んでいたけれど、それを気にする余裕はなかった。

 

「花房ユウ! あなたがミノリを突き飛ばすところ見たわよ!」


 私がそう言うと、花房ユウは初めて私の方に顔を向けてきた。私よりも少し身長が高いので見下される形になるが、彼女は私をにらみ返してきた。

 ミノリは「私は大丈夫だから……」と私を止めようとしているが、ちっとも大丈夫ではない。

 

「このゲームは脱落者を決めるゲームなのよ? 正解のパネルに立っていればいいだけ。それなら、早くパネルへ行って、後から来た人を追い払ってもルール違反じゃないはずだわ」


 花房ユウは悪びれもせずに言った。

 その顔には罪悪感や反省の色は見えない。むしろ開き直っているように見えた。

 私は呆れてしまった。モナークさまがこのゲームを見ているなら、花房ユウみたいな意地悪をする人を花嫁にしたいと思うかしら?

 

「それでは判定します……」

 

 支配人がそう言ってから、咳払いをひとつした。そして意を決したように口を開く。

 

「全員正解です!」

 

 ミノリは安堵の息を吐いた。私も同じく安心している。これで3問目もクリアだ。

『第4問』という表示が大型モニターに現れた。いよいよ最後の問題だ。

 支配人の「第4問!」という声が響き、私たちは大型モニターに注目する。

 

『人間の体の部位と同じ名前を持つフルーツはどれでしょうか?』

 

 そんな問題文が映し出された。

 人間の体と同じ名前を持つフルーツ? それって「目」とか「歯」ってことかしら……。

 私は花房ユウにちらりと視線を移した。彼女は動揺している様子はない。むしろ余裕そうな表情でパネルを見下しているように見える。

 ということは、この中に正解のフルーツがあるってことかな? いや……違うわね……。これは引っ掛け問題かもしれないわ! 私がそう考えている間に、ほとんどの参加者が「もも」のパネルへ移動を始めている。

 「めろん」には「め」が入っているけれど、「ろん」の説明ができないから、回答としてはどうも怪しい。


 私は焦りつつも、もう一度問題文をよく読んでみた。

 

「人間の体の部位と同じ名前を持つフルーツ……」

 

 フルーツってくらいだから果物よね? フルーツで人間の体の部位と同じ名前……。そういえば、生存者の数がりんごのランプで掲示されていたわよね。

 ということは……。私はもう一度、問題文を見返した。

 

「人間の体の部位と同じ名前を持つフルーツ……」

 

 問題文を読み上げながら、私の頭の中で何かがつながった気がした。

 高校時代に友人の勧めでハマったRPGゲーム。そのゲーム中に『英語でりんごの体の部位は?』という問題があった。

 選択肢がいくつかあったけれど……そう、英語の「Adam's apple(アダムズアップル)」で喉仏という意味だったわ。

 よし、答えは「りんご」だ! 私は確信を持ちつつ「りんご」へ向かった。


「ちょっと、何するのよ!」


 制限時間が来るのと同時に、花房ユウが「もも」のパネルから押し出された。


 彼女の怒鳴り声が会場に響く。

 花房ユウを「もも」から追い出したのは、美浜ネルだった。

 支配人が「そこまで!」と言ったのを聞いて、花房ユウの顔がさらに紅潮した。

 

「ひどいわ! 私が先に「もも」に立っていたのよ!」

 

 彼女がそう叫ぶのを、美浜ネルは冷ややかな視線を送った。

 

「ひどいって……突き飛ばしOKはユウが教えてくれたんでしょ? ライバルを減らして何が悪いの?」

 

 花房ユウは悔しそうに唇を嚙んでいる。


 支配人が「それでは判定します……」と言って、悲しそうな顔で続けた。


「花房ユウさま、失格です!」

 

 彼女はその場に崩れ落ちてしまった。美浜ネルが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 花房ユウは地面に手をついたまま、顔を上げようとしなかった。泣いているのかもしれない……。

 

「では、処刑タイムです!」

 

 と支配人が続けたので、私たちは強いスポットライトを浴びた花房ユウに注目した。

 天井が開き、巨大な三本爪の鍬が現れて、彼女に向かって落ちて来るのが見えた。

 

「いやあぁぁ!」

 

 花房ユウの叫び声が響き渡る中、鍬の先端が花房ユウの腹部に突き刺さった。

 血が飛び散り、彼女は悲鳴を上げ続ける。そして、やがて力尽きたように動かなくなった。

 支配人は満足そうな笑みを浮かべて言った。

 

「皆さん! お疲れさまでした!」


「……ユウ、残念だったね」

 

 美浜ネルが、動かなくなった花房ユウに囁いた。彼女は薄っすらと笑みを浮かべているようだ。

 私には彼女が狂気じみて見えた。

 人は極限状態になると、裏の顔が出てくる。自分でも知らなかったような恐ろしい顔が。

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