ミックス・ブラッド ~異種族間の混血児は魔力が多め?~
久悟
序章 旅立ち
第1話 受け継いだ刀
冒険者ギルドの採集依頼をこなし家路に着いた。朝に出たが、もう夕日が空を赤く染めている。
「ただいまー」
返事は無い、誰もいない。まぁ、いつもの事だ。
この家では父さんと二人で暮らしている。けど、最近はほとんど帰ってこなくなった。
「少し疲れたな」
独り言にももう慣れたもんだ。
コップにお茶を入れ、ダイニングの椅子に座る。
父さんか……前会ったのいつだったかな。
もう13年も前になるのか。
あれから父さんは変わってしまった。
オレは未だにあの日の夢を見る。
◆◆◆
「ユーゴ! 早く起きなさいって!」
「ん……眠い……もうちょっと……」
「困ったやつだな。ハイキングに行きたいって言ったのはお前だぞ」
「そうだった! 早く用意しないと」
昨日は楽しみすぎて眠れなかった。
今日は家族三人でハイキングだ。
冒険者の父さんはオレの憧れだ。
冒険者ギルドの依頼で忙しい父さんに頼み込んで、時間を空けてもらった。
母さんは今日のためにお弁当を作ってくれている。いい匂いがする。
「父さん、母さん、ありがとう!」
「いや、いつも遊んでやれずにすまない。今日は、三人で思いっきり楽しもうな」
「ほんと、三人で出かけるなんていつぶりかしら?」
家からは少し離れた山に向かっている。
三人で出かけられるならどこでもいい。父さんと母さんの間にオレ、三人で手を繋いで歩いている。
それだけでもう楽しいんだ。
「結構歩いたわね。この辺は少し開けて見晴らしもいいね」
「そうだな、ここらで弁当を食べるか」
「うん、ちょっと疲れたな……」
「この程度で疲れるようじゃ、冒険者にはなれないぞ?」
「弁当食べたら元気になるって!」
母さんの料理はいつも美味しいけど、大自然の中で笑いながら食べる弁当ってこんなに美味しいんだ。
「ユーゴ! 少し暑いし、川遊びしよっか?」
「うん! 弁当食べて元気になったしね!」
「じゃあ、俺は片付けしてから向かうよ」
靴を脱いで川に入った。
魚が泳いでる。小さいカニもいる。
獲って母さんに見せた。母さんはニッコリ微笑んだ。
少し疲れたな……眠くなってきた……。
「母さん、眠くなってきた……」
「お腹いっぱいになったもんね。寝たらいいよ」
「うん……おやすみ……」
どれくらい寝たんだろう。
長い時間寝てた気もする、一瞬だった気もする。
『キャァァーッ!!』
母さんの悲鳴で起きた。
気がついた時には、オレは父さんに抱かれていた。
すぐ側には母さんが横たわっている。
「母さんは魔物に襲われた……ユーゴ、お前は大丈夫だ……母さんが守ってくれたんだ」
父さんの涙を初めて見た。
泣きながらオレを抱きしめていた。
母さんが……何だって?
横で寝たまま動かない……父さんが泣いてるって事は……小さいオレでも分かる。
母さんはもう……
「昼寝なんてしなけりゃよかった……ハイキングに行きたいなんて……言わなけりゃよかった……ウワァァァー!!」
オレは父さんの胸の中で泣いた。
「ユーゴ……お前は悪くない。大丈夫だ……」
◇◇◇
オレが五歳の時だった。
母さんは魔物に襲われたオレを庇って亡くなったらしい。
その山には今日採集依頼で行ったけど、かなり上まで登らないと魔物は出ない。出てもD~Cランクの魔物だ。ハイキングコースに魔物が出るなんて事はほぼ無い。
でも、事実母さんは亡くなった。
父さんはSランクの冒険者だ、母さんを守れない訳が無い。少し目を離した間の事だったんだろう。
父さんと母さんは仲のいい夫婦だった。最愛の妻を無くした父さんは、その後塞ぎ込んだ。
母さんが亡くなった後、ギルドの依頼を受けながら父さんはオレに魔法と魔法剣を教えてくれた。
足手まといを連れての戦闘は大変だったと思う。オレが気絶しているうちに、魔物を片付けてくれることも多かった。
「大丈夫だ」
いつもそう言って、目を覚ましたオレを抱きしめた。オレはいつも無傷だった。
傷だらけになった父さんを見て、足手まといにならないように、もっと強くなりたいと心から思った。
もう二度と大切な人を亡くしたくない。
でも、年を追うごとに父さんの目の下のクマは濃くなり、いつも暗い表情でオレと目を合わそうともしない。
そしてほとんど家に帰らなくなった。
今やオレもBランクの冒険者だ。一人でも問題は無いけど、心配ではある。
あんなに優しかった父さんが……。
いつの間にか辺りは暗くなっている。
オレは明かりも付けずに物思いにふけていたらしい。
夕食を食べ、食後の紅茶を飲んでいると、玄関のドアが開いた。
「あれ、父さん。久しぶりだな」
「あぁ……お前に渡したい物がある」
父さんは帰るなり、目も合わせずそのままの足で奥の部屋に入っていった。
そして、一本の打刀をテーブルの上に置いた。
「これは俺が若い頃に使っていた刀だ。整備に関して俺は素人だ、鍛冶屋に見せるといい」
艶のある黒い鞘に収まった刀をゆっくりと引き抜いてみる。
刃紋は
「名は『
父さんの武器も刀だ。
少し認めてもらったようで嬉しかった。
「いいか、何度も言うが『魔力は放つ力』『気力は
気力を武器に纏って戦うのは冒険者の基礎だ。当然修練は欠かしていない。
「あぁ、わかったよ。ありがとう、大切にする。随分具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。早めに休む」
そしてそのまま奥の部屋に入り、その日は出てこなかった。
◇◇◇
次の日、陽の光で目を覚ます。
今日の予定は特に決めていない、朝食をゆっくり食べよう。
皿をテーブルに置こうと思ったが、置き手紙がある事に気付いた。父さんの字だ。
椅子に座り読んでみる。
『俺はもうこの家には戻らない。今まで伏せていた事を伝えよう。お前は、ある種族の血を引いている 。リーベン島へ行け、その春雪がお前と島を繋いでくれるはずだ』
母さんは亡くなり、父さんは旅に出た。
オレはこの家で一人になった。
ふと思い出し、本棚に向かう。そして一冊の本を手に取った。
小さい頃から、変わらずに本棚にある本。オレはこの物語が大好きだった。
毎晩母さんに読み聞かせてもらった事を思い出す。優しい声が今でも耳に残っている。
物語の始まりの節は有名だ。
昔々の物語
ある四種族の物語。
人が生まれる遥か前
この世を治める四人の王。
『
四つの国はそれぞれの
国の平和を守る為
子を産み育て敵国を
攻めては互いの子を減らす。
これはこの世の物語。
『
オレはある種族の血を引いている……まさか、父さんは始祖四種族なのか?
お伽噺だと思っていた。
始祖四王の物語が、オレの周りで動き出す。
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