第4話:呪われた星
俺はテトラに連れられて集落の中に入っていく。集落の入り口には簡易的なゲートがあり、そのゲートを起点にして集落を大きく囲むように柵が設置されている。村に入ってみるとわかるのだが村の中には何やら畑のようなものがたくさんある。まあ多分畑なんだろうがこんな星で農耕ができるのだろうか?確かに食べれる作物はたくさんあるがどれも栽培に向いているとは思えない見た目だからな。
そしてその畑の周りにはぽつぽつと民家らしきものが立っている。多分巨大な原生植物の中身をうまくくりぬいてそこを居住スペースにしているのだろう。しかもキノコのような見た目の植物を使っているので中々オシャレな見た目をしている。
集落の中心部に近づいてくると人がちらほらと見えてきた。そして初めて見る顔に驚いたのだろう。道行く人が毎回俺のことを凝視してくる。正直たくさんの人からの目線が集まるのはきつい。普段他人からの目線というものに慣れていないからな。最後に不特定多数の視線を集めたのはあの裁判以来だ。テトラは道行く人を見かけては「こんにちは!」や「お久しぶりです!」と元気な挨拶を交わす。内気な奴だと思っていたが意外と人当たりがいいんだな。心なしかテトラの姿がまぶしく映る。内気だとは言ってもこういう社交辞令はできるタイプか。それに比べて俺はテトラの背中に隠れてやり過ごしているんだ。これではまるでテトラが俺の保護者のように思えてしまう。いや、まあそうとも言えるかもしれないか。ふっ…泣けるな…。
「怖がらなくても大丈夫だよ。ここの人たちはみんな優しくて、いい人だから。」
と俺のビビっている姿を見てかテトラはそう言った。めちゃめちゃ気を使われているな……。
中心部に着いた。中心部には円形の広場があり、中心にモニュメントらしきものがある。今は昼間だからだろうか、中心部にはちらほらとしか人はいないが夜とかになればここも賑わうのだろうか?とあたりに見入っているとテトラが何やら門番のような武装した人に話しかけている。門番の後ろにはほかの民家より一回り大きい家がある。そしてテトラが村長と話せないかどうかを門番と交渉している様子を見るとここって村長の家なのかもしれないな。
ん?この感じ今から村長との面談が始まるのか…?い、いや、もしかしたらテトラと村長が少し話すだけかもしれないしな。
うん、まあ普通に考えてその可能性の方が高いだろう。
...と思っていたあの頃の自分をしばきたい。今俺は村長の家の手狭な一室で強面のお兄さんとテトラの三人で食卓を囲んでいるからだ。日も暮れてだいぶ時間がたち、俺たちは何個かのランタンがともされた部屋で顔を見合わせていた。暗さで中々相手の表情を認識できないが一つ言えるのは目の前にいるお兄さんが鋭い目つきでこちらを見ているということだ。そのお兄さんは少し派手な服装をしていてピアスもつけている。年は大体 20 代前半と言ったところだろうか。しかも何やら机に肘をつき、葉巻を吸っている。おかげで部屋には葉巻の匂いがこれでもかと充満している。俺はあまりの緊張感も相まってなんでも気を失いそうになった。
まあここまでいろいろ言ってきたがそのお兄さんがこの集落の村長だろう。村長といえばもっとおじいさんがやっているイメージだったのでだいぶ拍子抜けした。正直この地獄の空間から早く脱出したい。そんなことを思っていると遂に村長がその重い口を開けた。
「この子が新しい子か。名前は?」
こいつ、顔色を全く変えないんだが…
あぁ、そうだ…早く名前を答えないと…
「ユッ、ユーギリですッ。」
いつも通りのひょろひょろな声だ。
「そんなに緊張しなくてもいい。何か権威を持っているわけじゃないからな。」
いや、そういう問題じゃないんだけどな!
まあ、とりあえず「へぁ、はぁい…」とだけ返しておく。
「この星にきてどのくらいたった?」
「い、1 週間程度……です。」
「そうか…それまでずっと一人だったのか?」
「は、はい…そうです…。」
「……ここにいる限り安全だ。よく休むと良い。まあここにいる限り最低限の義務は果たしてもらうことにはなるだろうがな。」
義務?何のことだろうか?ここのルールは最低限守れということなのだろうか…?長はしばしの沈黙の後こう続けた。
「……で、結局君は本部に向かうつもりなのか…?」
「は、はい……」
「…そうか……、テトラからこの話を聞いたかは知らんが、原則新しい受刑者を発見した場合はその受刑者を見つけた者が本部まで送り届けないといけないという決まりがある。そうなるとテトラが連れていくことになるのだが……それでいいか…?」
長は俺にそう問うてきた。現状から整理すればテトラとは相性がいいと思っているし、そもそもテトラ以外に頼れる人がいない。初対面の人と旅をするのは到底耐えれる気がしない。全員が全員テトラみたいに優しいとは限らないしな。俺は恐る恐る首を縦に振った。テトラはこちらをじっと見つめてくる。
「そうか……まあ君のパーソナルロボットの修理が終わるまではここに滞在するだろう。まあゆっくりしていってくれ。」
ファーストインプレッションのせいで大分警戒したが意外と温厚そうな性格だな。これならベニ坊の修理の間の滞在もなんとかやれそうだ。
すると長は横に座っているテトラと顔を見合わせていた。どうしたんだろうか…?すると長はゆっくりとテトラにこう尋ねた。
「テトラ、あのことは言ったのか?」
あの事?何だろうか?テトラは首を左右に振った。少なくとも俺の知らない情報なのだろう。すると長は神妙な面持ちで話し始めた。
「君、これからいうことは心して聞いてほしい。大丈夫か?」
ど、どうしたどうした、急に改まって!?そんなこと言われるとめちゃめちゃ不安になるじゃないか!?しかし村長はそんな俺の気持ちなどお構いなしに話を進める。
「不確実なことしか言えないのだが、この星はどうやら普通の星ではないらしい。」
は?何だよ今更。俺だってここにきて1週間はたったのだからこの星が普通の星ではないということくらい肌で実感してる。
「私の腕を見てくれ。」
そう言うと村長は右腕を見せてきた。服の袖に右腕を通していないのは単なるファッションだと思っていたが今思えばこのためだったのかもしれない。そうしていると長は自分の右腕を見せてきた。
言葉を失った。長の右腕の大部分が青紫に変色していてそこら中に黒い斑点が激しく乱立している。人間の腕ではないような風貌だった。どういうことだ?ケガでもしたのか?でもこんな腫れ方、見たことがない。俺が知らないだけか?それにしてもそこにはあまりにも異様な光景が広がっていた。
「驚いたか?この腕は別に傷を負ったわけでもファッションによるものでもない。私がこの星にきてまあだいたい10年くらいが経った。この症状を初めて確認したのは6年ほど前だったか。何か特別なきっかけがあったわけではない。ただふとした時に右手を見るとこうなっていた。最初は指先だけだった変色が指の付け根、右手全体、そして右腕全体へと広がっていった。で、あと半年もすれば浸食は胴にまで及びやがては全身が蝕まれ、遂には息絶えてしまうだろう。」
何を言っているのかわからなかった。どういうことだ?何を言いたいんだ?理解が出来ず頭の中で右往左往する。
「そしてこれは何も私が特別侵されているわけではなく多少の個人差があれどここにいる皆がこうなってしまうのだ。」
え?ちょ、ちょっと待て。情報の処理が追い付いていない…つまり長が言いたいのは…
俺も将来こうなるってことか……?
さらに長は続ける。
「我々はこの現象を”同化”と呼んでいる。この同化の現象だが必ず四肢のどれかから浸食が始まり徐々に体を蝕み、個人差はあるものの浸食が始まって3年後にはほとんどの場合、死に至ってしまう…」
「えっ、でも長は浸食が始まって6年が経ったって言っていたような……」
そうだ。さっき長は6年前に初めて確認したって言っていたよな?だったら今言ったことと矛盾しているじゃないか。
「実は私は2年前まで本部にいてな。本部は地中深くの洞窟にあるのだがこの浸食の影響は地下へ深く潜れば潜るほど薄くなっていくんだ。まあどれだけ潜っても完全に浸食が止まるわけではない。地中深く潜ったとしても30年と生きれんだろう。しかも外傷を負ってしまったら進行が大幅に速まってしまうから、下手にケガもできなければ、浸食した部分を切り落として進行を遅らせることすらできん。」
背筋が凍った。せっかく安息の地に着いたと思ったらなんでこんなことに……長くてもあと 30 年しか生きられないのか…嘘だろ…。…い、いや、まだ希望はある!
「なっ、何かこの星から脱出する手立てはないのか!?」
居ても立っても居られなくなりちょっと語勢が強くなってしまった。さっきまでヒョロヒョロしていた俺が急に大きな声を出したせいか長は少し体をビクッとさせる。
「私は本部がしていることはよく知らないが通信によるとどうやらこの星から脱出するための計画が推し進められていると聞く。真偽は現在調査中だ。本部からの使いが近いうちに着くだろうからその時に聞いてみよう。」
そうなのか…!やっぱりまだ希望はあったのだな!少し安心した、いや大分安心した。脱出する手立てあるのなら大分肩の荷が下りる。俺は大きなため息をしながら胸を撫でおろした。
ん?少し引っかかる。じゃあなんでこいつらは本部に行かずここで生活しているんだ?追い出されたとかか?いやでも話を聞いている感じはそんなことはなさそうだったな……じゃあなんで……
「でもじゃあなんであなたたちはここで生活しているんですか…?」
言ってしまった。あああ、勢いで言ってしまった……この後体育館裏に呼び出されてボコボコにされるのだろうか…身震いが止まらない。俺が顔を真っ青にしていると長が
「別に君に我々の考えを押し付けるわけではないが我々は過去に自らが犯した罪を清算、いや償うためにこの地に留まっているのだ。元々星流しの刑とはそういうものだからな。私も元々は本部で過ごしていたが思い直し、この集落に来た。ところで、だ。強要するわけではないし、君がどんなことをしてここに来たのかは知らないが、もしこの考えに賛同してくれるのなら......我々と志を共にしてくれないか?ユーギリ君。」
こ、こいつは何を言っているのだ。うまく綺麗事を並び立てているが要はこの星の生活に限界が来たから自殺するということだろ?普通に気持ち悪いんだが…まるで俺の「生きたい」という気持ちを否定されたかのようにも感じる。お前の価値観は間違っているとくぎを刺されたような気分だ。あと星流しの刑はそういうものだとは言ったがそもそも俺はあいつらからこの星にそんな秘密があることなんて聞かされていない。あいつらが知っているか否かは別として明らかに不当な待遇だ。納得できるかい。
しかも同志になれともこの人は言った。正気か?
俺はここにいる奴らとは違う。こいつらと一緒にしないでほしい。本当に不快だ。もちろんこんなところで自ら死ぬつもりはない。当たり前だ。だって目の前にまだ灯り続けている光があるのだから。
「長!今そこまで言わなくてもいいじゃないですか!?」
間髪入れずにテトラが突っ込む。その通りだ。俺は今めちゃめちゃ不快だしな。何だよ、この最悪な空気は。早く抜け出したい。今多分俺は苦虫を嚙み潰したような顔をしているだろう。
そう思った俺はバッと立ち上がり
「狂ってるよ。……意味わかんね…」
と言って俺は家の外へ走り出してしまった。
ああ、もっといい言い方あっただろ…!わざわざ関係性を最悪にさせる必要はなかったのに…!二人ともあっけにとらわれていたし。これだから他人との距離感をつかめない陰キャは……
まあもういいか…これだから俺は他人と接するのが嫌いなんだ。しばらくは…独りになりたいかな。
そう思い俺は集落の外れの方へ一人歩いて行った。
大分夜が更けた。11 時くらいだろうか?俺は村はずれを手持ち無沙汰に徘徊していたのだが…それを集落の人に見つかってしまい、いつの間にか俺は広場の隅にあるベンチに一人肩身が狭そうに腰かけていた。集落の人が言うには新入りが来たら集落総出で宴?らしきものをするらしい。別に新しい人が来ることってなにも喜ばしいことじゃないだろ!?と思うのだが…おかげで俺の周りでは酒のようなものを飲んで騒いでいる奴や踊り狂う奴までいて、めちゃめちゃ居心地が悪い。というかその話からすると俺が主役のはずなんだが…集落の奴らは俺には目もくれずパーティーを楽しんでいる。しかし目の前で楽しそうにはしゃいでいるのが自殺志願者だと思うと何だか笑えてくるな。
それにしても何なんだよ、俺をここまで連れてきておいて放置って…そりゃないだろ…。最早嫌がらせのようにも思える。ここにきてから不快なことしかない。集落の人が言うにはもう俺の寝泊まりする家はできているらしいから早々と撤退しようかな。ここにいてもつらくなるだけだろうし。
そう思い立ち上がろうと足に体重をかけたところ
「楽しんでるか?」
と声が聞こえてきた。楽しんでいるわけないだろ!?みりゃわかるだろ!と思いながらそう言ってきた奴の顔を見上げる。
そいつは徘徊している俺をこんな場所に連れてきた張本人だった。しかもめちゃめちゃニコニコしてやがる。そうして返事をせずにうつむいているとその男はおもむろに俺の横に座ってきた。
ぐいぐい来るな、こいつ。その男はなんというか、ザ・陽キャみたいな感じの雰囲気をしている。
年は 20 歳手前といった感じだろうか。あまり関わったことがない人種だ。それとその男は何やらボウルのようなものを持っている。そして男はそのボウルを差し出してきた。
「腹、減ってるだろ?まだ何も食べてなさそうだし。ほら。」
そのボウルの中には紫色の液体に具らしきものが入っていた。シチューか何かだろうか?とても食べれそうなものではない。まあこの星で生き残るためにはこれを食べないわけにはいかないんだがな。そう思いながら渡されたスプーンを使ってシチューをすくい、それを口に運ぶ。
目を疑った。いや、舌を疑った。なんだ、めちゃめちゃうまいじゃないか!?この星に来てからこんなうまいものを食べたことがない。俺が食べてきたものと見た目は同じなのになぜこんなにも味が違うんだ…?
「どうだ?うまいだろ?俺の自信作なんだぜ。」
「ふぅえ…?なんでこんなに……」
なぜこんなにうまいのかを聞こうとしたがなぜだか舌が回らない。しかも視界が悪くなる。何だろうか?1滴、2滴と水滴が頬をつたうのを感じる。
「お、お前!?大丈夫か?なんで泣いてるんだ…?」
え?俺、泣いているのか…?なぜだか涙が止まらない。うまかったのはうまかったが涙が出るほどうまかったのか?いや、よくよく考えてみればここ1週間、食べ物とは言えないようなものを食べてきたからな。ほっぺたが落ちるとはまさにこのことだろう。おいしすぎてほっぺたが落ちるなんて経験したことがない。まあずっと晩になれば夜ご飯が自動的に出てくる環境で生活していたんだ。毎日そんな環境で過ごしていたから気づかなかったが、今思えば母さんが作ってくれた料理はどれもおいしかったな。今食べているシチューよりも全然うまかった。もう食べれないんだがな…。
まあそんなことはどうでもいい。そうやって感傷に浸っていると男が恐る恐る話しかけてきた。
「辛いことを思い出させてしまったんなら謝る。……大丈夫か…?」
優しいな。人は見た目によらないということだろうか。
「お前、ここにきてからどんなものを食べてきたんだ?」
「適当に食べれる雑草や葉っぱを少々。」
「えっ、まさかお前、生でか……?」
俺は静かにうなずく。
「マジか…そりゃ俺の下手な料理でも涙を流すわけだ。一瞬俺の料理がまずすぎて泣いているんじゃないかってひやひやしたよ。」
自信作って言ってたよな…?まだまだ練習中なのか?まあいいか。俺はしばらくシチューに食らいついた。息をすることすら忘れるほど必死に食べ続けた。男は時より横目でその
様子を見ながら奥にある広場のモニュメントを見つめていた。
食べ終わった。ぐうの音も出ないほどうまかった。さすが自信作というわけだな。それにしても大分寒くなってきた。その寒さも相まってななのかぜか深い余韻に浸ってしまう。
そうぼっーッと一点を見つめていると
「そういえば君の名前を聞いていなかったな。」
「ユーギリ、です。」
あ、下の名前で良かったのだろうか?テトラに名前を教えたときは下の名前を強要されたから勝手に下の名前を答えてしまった。大丈夫だろうか。引かれていないだろうか。
「ユーギリか!いい名前じゃないか!これからユーギリって呼んでいいか?」
やっぱ陽キャだな、こいつ。俺は押され気味にうなずいた。
「俺の名前はレンだ!まあ適当にレンって呼んでくれ!」
俺はますますレンの勢いに押されてしまう。もう少し落ち着いて会話しないか…?するとその願いが通ったかのようにこれまで上がっていたレンの口角が下がった。
「まあお前の過去を知っているわけでもないし、お前のことを理解しているわけでもないが、ここの人たちのことを嫌わないでほしい。別にここの人たちはお前のことが嫌いなわけじゃない。どう接したらいいか、わからないだけなんだ。なんで誰も君にしゃべりかけないかわかるか?」
そんな他人の気持ちなんてわかるはずがない。
「さっきも言った通りどう接すればいいかわからないからだ。そんなうつむいて暗い顔をしていたら誰だって気遣うだろ?まあ確かにノリは会わないかもしれない。だからっていつまでもいじけてちゃ君だってつらいだろう?だからもっと……」
「もういいです…こんな話を聞くためにここに来たわけじゃないので。」
俺は話を遮るかのように立ち上がりそう言った。またレンは口を空け、あっけにとらわれたような顔をしている。
そんなレンをよそに俺は先に教えてもらった方向へ一人で歩いて行ってしまった。
ああ、またやってしまった…同じようなミスをこんな短期間に二度も繰り返してしまった。これだから自分が嫌いになってしまう。いくら何でももっといい返し方があっただろ…!でももう時すでに遅し。元居たベンチからたいぶ離れてしまった。集落の中心部から離れることでどんどんとあたりが暗くなってくる。まあ今更気にしても仕方ないか…だがこういうで気持ちを入れ替えれない性格なんだよな…今日しばらくは引きずることになりそうだ。こうして俺は自らに与えられた家に向かった。
もう日付は変わっただろうか。俺が今いる家、というか小屋と言った方が正しいだろうか。最初は言ったときはあまりの狭さに目を疑ったが慣れれば案外居心地がいい。この狭さといい、天井の低さといい絶妙なバランスで成り立っている。トイレと風呂が外にしかないのが不満点だが、まあ全然許容範囲だ。
まああともう一つ不満点も挙げるとすれば集落の中心の方向の壁が全面ガラス張りということだ。(ガラスかどうかはわからないが)普通に考えてガラスの面積が広すぎるんが…?なんでこんなプライバシーが確保されてないんだよ!?これじゃあろくに自分を慰めることすらできないじゃないか…!
「……まあ、今日はいいか。」
俺はそんな煩悩をかき消し、俺は試しにその場で寝転がってみた。寝転がれば当然天井が見える。大の字になってみた。まあろくなベッドがないので多少体が痛いかもしれないがこれまでの洞穴のごつごつとした岩の上で寝るよりかは全然マシだ。掛け布団もあるしな。
よくよく思い返してみるとここに来てから、いろいろなことがあったな。
まずはベニ坊のことだ。その前に今のベニ坊の所在なのだが今、ベニ坊は前に投げ飛ばされたりしたことがあったことから点検に出している。まあこの集落にいる限りあいつがいなくても大丈夫だろう。
そのベニ坊のことだ。なんというか、こんなにも他人(ロボットだが)を愛しく思ったことは初めてだと思うくらいベニ坊と一緒にいるとなぜか安心する。それだけ頼れるパーソナルロボットだということだろうか。それとも1週間の短い間だけであるが苦楽を共にしてきたからだろうか。テトラと出会う前まではそんなこと微塵も思っていなかったのに。いやむしろどこか人間らしくないあいつに嫌悪感すら抱いていた。
どういうことだろうか?たかがロボットにこんな感情を抱くなんて、俺もここの生活で頭がおかしくなってきているのか…?
しかもさっきは飯を食べただけで涙が止まらなかった。あれはおいしすぎて泣いたのか、それともこれからはもうあのまずい飯を食わなくてもいいんだと安心したからだろうか。両者とも信じがたい理由だ。とにかく心の中に何かもやもやするものが残る感覚がある。何かがすっきりしない。この不快感は何なんだ……
俺はそうこうしているうちに目をつぶり夢の世界へと入っていってしまった。
間話:ユーギリが長の家から飛び出した直後の長とテトラの会話です。
「長!やっぱりあんな言い方はないですよ…」
「早とちりしてしまったな…しかしなかなか難しそうな子だったな。……ここ数日あの子と接してみてどうだった?」
「なんというか…同い年なのに少し幼く感じたというか…」
「ふんっ、あれくらいの年の子はああ難しいものだ。貴様はまあ 13 にしては大人びているほうだろうが...貴様にだって年相応なところはある。」
「………」
「……で、身の振り方は決めたのか?」
「……とりあえずユーギリ君を本部にまで連れていきす…」
「……そうか……ああ、その話なんだが先週到着予定だった本部からの使いがまだ到着していない。通信が赤嶺山脈の地点を最後に途切れてしまった。」
「えっ!……なぜですか…?」
「原因は不明だ。今調査隊を向かわせている。」
「そ、その…本部からの使いの人って……峠をしっかり通ったんですか……?」
「わからん、ルートからそれてしまった可能性はある。それを現在調査中だ。まあアーゲンがそんなミスを起こすとは到底思えないがな。……調査隊は大体 3 日後に帰ってくることになっている。出発はその調査が終わるまで、まあ気長に待つんだな。」
「………」
「この感じ…10 年前のあの事件のことを思い出してしまうな…」
「あの事件?」
「そう 10 年前、正体不明の未確認生物が赤嶺山脈の唯一の通り道であるカイバル窟に出現した。それで我々は十数人の討伐隊を組んでその巨大生物を征伐を討伐したのだ。」
「巨大生物って……どのくらい大きかったんですか……?」
「さあ、俺は見たことがないから詳しくは知らないが優に体長は 20mは超えていると聞いた。」
「20m……」
「今回の事案、その時の様子に似ているような気がする……」
「……あまり不吉なことは言わない方が…」
「……そうだな。じゃあ話を変えよう。彼を本部に送り届けた後、お前はどうするつもりだ…?」
「………」
「……ベコンのことがやはり忘れられんのか…?」
「………」
「そろそろお前も死に場所を見つけなければいけない時期だろ……?……その様子じゃ……もう 1 か月も持たんな……」
「………」
「……はぁ、別にここでベコンに見送られて逝くでも構わんし、本部で余生を過ごすでも構わんが……早く身の振り方を決めんと…今際の際で後悔するのはお前だぞ。」
「………はい…、……とりあえず彼を本部まで連れていきます……」
「…………」
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