冷静沈着なクラス委員長の美少女が、二人っきりの時だけ本心で甘えてくる
譲羽唯月
第1話 好きな彼女と二人っきりになった日
「では、今日からこのクラスの委員長は早川未宙で。あと、立候補したい奴はいるか?」
午前の出来事である。
担任である女性教師が壇上前に佇み、自由時間を使って学校での役割分担を決めている最中だった。
結果として選ばれたのは、クラスメイトの
彼女は主席で入学したという実績を持ち、周りからも一目置かれていたのだ。
見た目からしても、なんでもできそうなイメージが湧き出ており、誰からも頼られそうな真面目さを併せ持っている。
その上、黒髪のロングヘアな美少女であり、冷静な判断が出来るという側面から見ても彼女が適任であろう。
他のクラスメイトからも異論はなかった。
「委員長は未宙という事で。それと、他にも決めないといけないことがあるから。さっさと次の話に移るからな!」
担任教師は、チョークで書かれた文字を黒板消しで消し、別の話題を書き始めるのだった。
まだ一週間ほどしか経過しておらず、そこまで親しい友人ができたわけでもなく、一人で過ごすことが多かった。
高校に入学したら何かが変わるかもしれないという淡い希望を抱いていたのだが、そんな事はなかった。
特に中学の頃と殆ど変わらず、ひたすらに平凡な感じだったのだ。
はあ……もう少し明るい生活を望んでいたんだけどな……。
期待と現実はまったくの別物だと思い知らされていた。
漫画のように事が進んでいくわけでもなく、環境が変わったとしても、自分は孤独なのだと頭を抱えていた。
周りを見れば、高校で新しい友人を作って会話している人もいれば、中学の頃から一緒の人らで事前にグループを作っている人もいる。
義亜はどちらにも属しておらず、午前の授業が終わってからも、一人で席に座ったままだった。
「ねえ、昼休みって、何か予定とかある?」
刹那、声をかけられ、ドキッとする。
「なに、驚いてんの? もしかして、きょどってる感じ?」
茶髪でセミロング風な隣の席の彼女からちょっとばかし笑われてしまう。
「い、いや、別に……」
図星を付かれ、言葉に詰まっていた。
本当の事を言えば、知っている子はいる。
隣の席の
「特にないならさ。一緒に食事でもしよ」
「いいけど。俺、今日何も持ってきていないから。購買部に行かないと何も食べるものがなくて」
「じゃ、私のをあげるよ。それでいいでしょ? 少しお金も浮くと思うし」
「でも、いいよ」
「いいから。別に良いじゃん。いつも一人で過ごしているみたいだし」
「ずっと、俺の事を見てた感じ?」
「違うし。入学当初から隣同士だし、目につくだけ。いつもそんなんだとよくないなって思って。だから弁当を作って来たの。深い意味はないから」
義亜は彼女から強制的に立たせられ、教室を後にすることになった。
その日の昼は、彼女と共に校舎の中庭で過ごすことになったのだ。
その日の放課後。
隣の席の梨花は他の友人とカラオケに行くという事で、HRが終わると教室から立ち去っていたのだ。
他の人は部活の見学に行くとかで、気が付けば教室内には殆ど誰も残っていなかった。
そろそろ、帰る準備でもするか。
準備している最中も、少しずつクラスメイトが減り、しまいには普段通りに一人になっていたのだ。
最後に教室を後にするなら、最終点検をして下校しないといけない決まりになっていた。
「ん?」
一人で教室内を回って歩いていると、一人分だけ机の横にバッグがかけられているのが分かった。
「早川さんのか……もしかして戻ってくるんだよな」
そうこうしている内に、廊下から足音が聞こえてきた。
そして――
義亜は教室に入ってきた未宙と視線が重なる。
でも、すぐに彼女は視線を逸らし、自身の席へと向かって行く。
着席した彼女は、手にしている資料を真面目な目つきでまじまじと見つめていた。
クラス委員長としての業務が残っているらしい。
一日の出来事なども記録長に記入しないといけないようで、もう少しの間だけ教室に戻っているようだった。
……で、でも、話しかけるなら、今しかないよな。
義亜は深呼吸をした。
入学当初から気になっていた彼女。
そして今まさに、彼女と二人っきりなのだ。
話しかけるなら、この時間が絶好のチャンスだと思った。
でも、自発的に話しかけることに抵抗があった。
……勇気を持たないといけないことだってあるよな……。
義亜は自身に言い聞かせ、一歩踏み出し、彼女の元へと少しずつ近づいていく。
彼女は真面目な視線で、記録長や資料と向き合っていた。
「あ、あのさ……」
「え?」
義亜が話しかけた瞬間、未宙は一度手を止め、振り向いてくれた。
「どうしたの?」
彼女から冷静口調で問われた。
「えっと……」
「何もなかったら、帰った方がいいんじゃない?」
「そ、そうなんだけどさ」
義亜は言葉を詰まらせる。
「えっとさ……お、俺に手伝えることはないかな?」
勇気を振り絞って発言した。
「手伝えること? 特に何かもしれないけど」
「でも」
義亜はこのまま引き下がるわけにはいかないと思った。
「お、俺さ、君のことが気になってて」
「え……?」
未宙は無表情のまま体をビクつかせ、目を点にしたまま義亜の事を見つめていたのだ。
彼女は硬直し、何を言われたのか、戸惑っているようだった。
「もしかしてだけど。君って……あの時の子だよね? 昔さ、小学五年の頃まで一緒に遊んでいた。苗字が違ってて、それに見た目も違っていたから……」
「……わかっていたの?」
「え? う、うん……何となくだけど」
未宙は深呼吸した後、冷静な口調で話し始めた。
「……私もね、話しかけようと思ってたんだけど。義亜って、いつも隣の席の子と楽しそうに話しているでしょ?」
「楽しそうに? え、そんな事は無いと思うけど」
「付き合っているのかと」
「いや、ま、まさか、そんな事はないから」
義亜は違うと否定的に言う。
もしかして、勘違いされていたのか。
「恋人とかじゃないんだね」
「そうだよ。それ、凄い勘違いだから」
「じゃあ、大丈夫なんだね」
「……どういう意味で?」
「んん、なんでも。じゃあ、そんなに手伝いたいなら、やってほしいことがあるんだけど」
さっきよりも未宙の声には抑揚があった。
心を開いてくれたのか、少しだけ笑みを見せてくれるようになっていたのだ。
その時、義亜は達成感を心で感じられていたのだった。
「これがあるんだけど。ホッチキスで留めてくれない?」
未宙から数百枚のA4サイズの用紙の束を渡された。
「これを……」
「それはね、四枚一組で左の上の方に止めてくればいいの。簡単でしょ? 義亜は放課後やる事ないの? 他の人は部活の見学とか行ってるみたいだけど」
「今日は行かないかな」
今日というか、多分、見学に行く事はないと思う。
入部したとしても周りに迷惑をかけることが多く、部活向きではないと、中学の頃の失敗を経験し学んでいたのだ。
「それで、未宙は委員長で良かったの?」
「まあ、他にやる人とかいなかったでしょ? それに私、他人から信頼されているみたいだし。断るのも違うかなって」
「そ、そうなんだ。色々と大変なんだね」
二人は無言のまま、各々の作業に取り掛かることにした。
今、義亜は彼女と二人っきりなのだ。
そう考えると、これほどのチャンスなどない。
話したい事を伝えられる絶好のタイミングだと思う。
「あのさ、今日ってこの後時間ある?」
「あ、あるけど。どうして?」
「ちょっと寄り道していかない?」
「いいけど。時間かかるよ」
「六時くらいまで?」
「そんなにはかからないけど。五時半かな」
「それでもいいよ」
義亜は二人っきりの時間をいいことに、勇気を持って話したい事を伝えられていた。
その甲斐があって、約束を交わすことができたのである。
「あのね。私からもあって」
「どんな事?」
「私の頭を撫でてほしいの」
未宙は頬を紅潮させたまま、義亜に対して発言してきたのだった。
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