第三話 二つ名は【憂鬱】

「初めまして、鬼灯凛音さん。私の名前は花園八重華って言います。よろしくお願いします。」


そんなふうに笑って言う顎下で切りそろえた白髪と緋色の目の十三歳の少女––八重華ちゃん。

彼女は、彼女は私をこの七階建ての建物まで連れて来たあの、変人こと氷宮さんとは違って普通だと、そう思っていた時が私にもありましたよ。ええ、あったことは否定しません。


喉を一突きされた死体と、それを作った犯人をハイテンションで見てくる奴がリーダーをするような犯罪者集団のメンバーが普通の倫理観と価値観を持ってるって期待する方が間違いだってよーーーーくわかりましたとも。

あ、私もその一員だったわ。


同時に影の様に彼女の後ろに立つ、黒髪を後ろで一つにまとめた緋色の目の少女––山神仁が、八重華ちゃんにデレデレする私の事を可哀そうなものを見る目で見ていたことに納得しましたとも。

決して。決めずして。同い年の少女に頬擦りする私をキモがっていたわけではないでしょうけど。


え、なんですか。最初の時とキャラ変わってないかって?当たり前でしょう。


こんな変人か狂人か両方かの人間しかいない様な場所で猫被ってる方が馬鹿らしいじゃないですか。アホらしいじゃないですか。諦めたとか言ったの誰ですか。戦略的撤退と言ってください。


「ん?話した方が身のためだよ?あ、殺さないとか思ってんなら間違いだから。殺すよ?私は。私の二つ名は【嫉妬】と【閻魔】だからね〜。知ってるでしょ、君ぐらいの人ならさあ」


「【閻魔】って、あの……」


「はいは〜い、そんなこと言ってる暇あったら吐こうか?私、今日は凛音お姉さんとお話しする予定だから、急いでるんだよ。だからさ?」


さっさと喋れよ。


「ああああ、拷問中に一瞬デレる八重華ちゃん可愛い。スキ。チョースキ。どこのアイドルですか?ファンサの殺傷能力がすごい。最後の凄み方も最高ですありがとうございますお話ってなんですか肉体言語ですか調子乗ったのはわかってるんでそれは許してくださいすみません」


「怖っ。どこで息してるんですか?凛音お姉さん。」


「……大丈夫。普通の話だから」


「仁さん、今日もかっこいいですうおっ、プロの暗殺者のスキル使って気配消しながら近寄るのはやめてください怖いですナイフ突き付けないでくださいごめんなさい」


「【嫉妬】、【憤怒】、何したら初対面から三日でそんな懐かれるんだ?」


「いやあ、【暴食】。四回も命の危機を救ったら、そら懐かれるでしょう」


「四回?それはまた異常な数で。流石は【憂鬱】と言ったところでしょうか?」


「やめてくださいよ、【強欲】さん。私だって好きで巻き込まれてるわけじゃないんですから。」


私の異能力は【憂鬱】。その効果は『自身の周囲で巻き起こる事件または事故に巻き込まれる』というもの。


正直に言おう。使えねー。私はこの異能がオートで作動してるせいで自宅の地下室に監禁されていた。私の周囲では自動的に事故や事件が多発することになるので。

全ては私の周囲の人の命を守るためだったらしい。

幸いだったのは、親達が私の命を奪えるほどの人間じゃなかったことだろう。


そして、親が何者かに殺されたことで久々に外に出ていた時にあの事件が起こって氷宮さんに保護、正確には強制連行させられて今に至ると言うわけで。


「それにしても、八重華ちゃんも仁さんも強いし優しいから、自分達と一緒なら外出もオッケーって言ってくれるし、ここは氷宮さんの異能のおかげで私の異能の影響は切れるしで、しょーじき居心地は最高ですよ。

いやー、最初半強制的に氷宮さんに連れて来られた時はどうしてやろうかと思ってましたけど、今となっては感謝ですねえ。」


「拷問師の【嫉妬】と暗殺者の【憤怒】を優しいとか、やっぱ【憂鬱】も相当狂ってますよね」


「そうですか?皆さんほどじゃないと思いますけど。まあ?ほとんど他人との交流ゼロの人間がまともに育つ可能性なんてないに等しいですからそんなもんじゃないですか?」


「あ、忘れてました。凛音お姉さん、今日のお話っていうのは、明日から私と仁と一緒にお仕事始めましょうっていう話です。」


「えーいいの?こう言ったらなんだけど、私がここから頻繁に出るのあんまり良くないんじゃない?」


二人の仕事は命に関するものだ。あまり私が一緒にいて良いものではない気がする。まあ?いつもお世話になってる私が言うことじゃないとは思いますけど⁉︎(なぜかキレ気味)


「詐欺師の僕、掃除屋の【暴食】の二人の仕事は基本交渉だし、情報屋の【怠惰】、闇医者の【色欲】の二人は非戦闘が基本方針。

殺し屋の【傲慢】は好き勝手やってるから言わずもがな。そうなると暗殺者の【憤怒】と、一緒に行動する、戦闘出来る出張拷問師の【嫉妬】が一番【憂鬱】と一緒に行動するのに最適なんだよ。

僕と【暴食】でお偉いさん達は脅し、脅は、恐か、揺っ、ゴホン。説得したからそっちも問題無い。」


うわー。詐欺師さん、大丈夫ですか?絶対合法じゃ無い説得じゃ無いですか……。

私が出かけるために生まれた尊い犠牲に合掌。


「それに詳しくは言えませんが、二人が今してる仕事にも【憂鬱】の異能の力があった方が少し助かるんですよ。命の危険がありますが、二人と一緒なら多分大丈夫です。」


あ、ふーん。絶対じゃ無いんだ。


「と、言うわけで凛音お姉さんは明日から私達と一緒に行動してもらいます‼︎」


「……よろしく」


「何ですか、それ……。命かけるだけで推し二人と任務できるとか最高じゃ無いですか‼︎こちらこそよろしくお願いします‼︎」


なんでみんな苦笑いしてるんですか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る