第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑤
自分の身を……いや、経験や記憶をシュヴァルツたちに差し出してでも、彼女を……
ここにきて、職務として、『ラディカル』のセカイ統合計画を阻止することを目的としているゲルブたちと、後輩女子の安全確保を最優先事項とする自分の利害が対立したことを悟った。
「済まないな、ゲルブ……やっぱり、
そう返答すると、銀河連邦の捜査官は、唇を噛みながら、オレの覚悟を試すように問いかけてくる。
「本当に良いんだね、
「あぁ、ためらいなく、捜査官の仕事を遂行してくれ。ただ、
「わかった……
オレとゲルブがうなずきあったのが、十メートルほど離れた場所で
「協議が終わったのなら、そろそろ、貴様らの答えを聞かせてもらおうか?」
相変わらず尊大な態度を崩さない相手に対して、自分たちの決断が揺るぎないことを示すために即答する。
「シュヴァルツ、アンタの要求を受けいれる! オレが、いまから丸腰でそっちに歩いて行くから、同時に
声を張って行った返答に満足したのか、シュヴァルツは、鷹揚にうなずき、
「承知した。
もともと、
その瞬間、オレとゲルブの後方で、かすかに空気が変動するのを感じた。
両手を後ろに組んだままのやや窮屈な体勢で振り返ると、歪んだ空間のひづみから、ふたりの女子生徒があらわれた。
「
そう言って、屋上フロアに飛び込んできたのは、オレたち放送・新聞部の部長を務めていた先輩の姿をした捜査官だ。
彼女の元には、文芸部の代表者である
オレが、ふたりの女子生徒の姿(それは、仮の姿なのだが……)を横目でチラリと確認したのとほぼ同時に、シュヴァルツが威嚇するように口を開く。
「もう、我々の交渉は成立している。邪魔立ては控えてもらおうか、ブルーム」
彼の言葉どおり、オレの交渉の目的である
彼女とは、まだ七〜八メートルほど距離が離れているが、オレの歩いている場所からでも、その瞳には生気というものが感じられない。
おそらくは、ひと月前に同じく屋上で気を失った
あの時と同じく、
そのことを考えると、彼女の保護には、より多くの人間に関わってもらうほうが良い。
それらの状況を総合的に判断し、オレは、前方へとゆっくりと歩みを進めながら、背中の方でオレのことを見つめているであろう女性捜査官に声を張って、自分の考え方を伝える。
「シュヴァルツの言うとおりだ! オレのことは良いから、まずは、
オレが、叫ぶように、そう主張すると、『ラディカル』のリーダーは、ククク……と声を殺しながら表情を崩し、ゲルブたちに語りかける。
「物わかりの良い交渉相手だと、ものごとが円滑に進む。ゲルブ、ブルーム……貴様たち、捜査官ともこうであれば良かったのだがな……」
彼らは、オレの予想したとおり、やはり、以前から浅からぬ関係にあったのだろうか?
シュヴァルツの一言には、大きな反応を示さなかったゲルブたちだが、後輩女子の身を案じるオレとしては、このまま大人しく、
そうして、緊張感に身体をこわばらせながら、無表情のまま、まっすぐに歩み続ける
そのまま、五メートルほどの距離を歩き続け、シュヴァルツとキルシュブリーテの元にたどり着くと、ブルームの声がオレの耳に届いた。
「安心して、
その声に胸をなでおろすと同時に、シュヴァルツが、声をあげる。
「これで、交渉成立だな。それでは、
彼が、そう宣言して、キルシュブリーテが、前回と同じように虚空に謎の空間を作り出した瞬間、オレはさっきまで隣りにいた親友と同じ姿の捜査官と視線を交わした。
迷いなくうなずいた彼は、懐から取り出した銃火器の照準をオレに合わせ、ためらうことなく引き金を引く。
BANG!!
鈍い銃声とともに、ゲルブの手元からは45口径の弾丸が放たれ――――――。
オレは、屋上フロアに倒れ込んだ。
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