第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜③
屋上フロアの出入り口となっているドアを勢いよく開くと、そこには、オレの予想したとおりの光景がひろがっていた。
フロアに確認できる人影は、三つ。
放送・新聞部の後輩である
吹奏楽部の顧問であり音楽専科の教師である
そして、もうひとり――――――。
毎朝、鏡で見慣れた姿がそこにある。
ただ、初めて目にするその相手は、黒髪のオレとは違い、金色に近い明るい髪の色が印象的だった。
ドアが開く音に気づいたのか、三つの人影のうち、二つの顔がこちらを向いた。
「フン……
ヤツが、彼女のことを聞き慣れない横文字で呼ぶのを耳にして、
(やっぱり、
と感じつつ、意識をふたたび、対峙すべき相手に向けて、オレは答える。
「名前の割に、ハデな髪色の相手に、大切な後輩を任せておくわけにはいかないからな……悪いが、アンタたちの計画が終わる前に
語学に堪能な人間、もしくは、中二病をこじらせた経験のあるヤツには説明の必要は無いだろうが、シュヴァルツとは、日本語で「クロ」を意味するドイツ語圏の単語だ。
ゲルブたちの会話で、なんとなく自分に近しい人間が関わっているのではないかと察していたが、自分の周辺で、「クロ」を意味する名前を持った人間は、オレの他にいなかった。
並行世界を統合しようという中学生が考えそうな誇大妄想に近い計画を遂行しようという人物なら、その名に相応しく、全身を黒づくめで統一してほしかったが……。
どうやら、シュヴァルツとオレ自身の思想・信条は、相容れないモノがあるらしい。
「
オレの姿をした
「シュヴァルツの
年端のいかない男子生徒に対して、腰巾着なような態度を取る教職員というのは、オレの価値観を根本的に揺るがすモノだが、彼らのセカイでは、一般的なことなのだろうか?
自分自身の経験則とは決して相容れないモノではあるが、年齢によらないのであれば、どんな要素が序列を決めているのか、彼らのセカイの価値観に、少しだけ興味を覚える。
ただ、いまは彼らの独特な考え方や世界観に好奇心を抱いている場合ではない。
どんな価値観を持っているのであれ、女子生徒を人質に取るようなヤツらの行動を見すごす理由はない。
「
挑発的に発したオレの一言に、前回、ブルームとオレの前から逃亡を図ったキルシュブリーテの表情が
一方、シュヴァルツは、相変わらず不遜な表情を崩さず、尊大な態度で言い放つ。
「口数の減らんヤツだな……ただ、我々とて、自分たちのメンバーが侮辱されたとあれば、相応の報いというもの受けてもらわねば、組織の
そう言うと、髪の色以外は、オレとそっくり同じ姿をしている相手は、懐から長さ十数センチはあろうかという銃火器のように見える物体を取り出したかと思うと、少ないモーションで、引き金を引いた。
「危ないっ!」
すぐそばで起こった叫び声に反応するより早く、ゲルブが、オレを押し倒すようにして、身体ごと
彼のとっさの判断が功を奏したのか、倒れ込んだオレたちの数十センチ上の空間をを赤く伸びたレーザー光線のような粒子が切り裂く。
その粒子の短い帯は、そのまま屋上フロアの出入り口付近の校舎を照射し、一瞬の沈黙のあと、鈍い音とともに、コンクリートの破片を周囲に四散させた。
「こんな場面で挑発的言動はマズいって……ほとんど丸腰なのに、良くあんな態度が取れるね」
立場は違えど、どうやら、ゲルブもオレの言動が、現状に相応しいモノではないという考えにおいては、シュヴァルツと同じ意見のようだ。
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