幕間その2~Not Ready to Make Nice(イイ娘でなんていられない)~後編(下)
(さっきまでとは違う、この胸のモヤモヤは、なんだろう――――――?)
ワタシは、そんな想いを抱えつつ、放送室に向かうくろセンパイと肩を並べて歩きながら、考える。
いままで、(向こうから勝手に)告白してきた男子は、こっちの都合も考えず、一方的に自分たちの気持ちを押し付けてくるばかりで、ワタシの好みや性格など、いっさい考慮していないように感じられた。
そんな状態で、ワタシと親しくなったとしても、こちらの口の悪さに気分を害して、すぐに、「こんなヤツと思わなかった……」と、彼らが離れていくことは、簡単に予想できた。
だけど――――――。
くろセンパイには、ワタシ自身が、いま一番楽しみにしていることを、あっさりと言い当てられてしまった。
そのうえ、ワタシに好意を持った男子を迷惑がり、嫌がらせをしてきた女子を罵倒しただけでなく、ワタシのことを心配してくれていた彼自身にまで酷い言葉を投げつけた自分の口の悪さを『面白い』と言い、そんなワタシと放送で話すのが楽しい、と言っている。
(ほんと、変なセンパイ……)
そう思いながらも、いつの間にか、気恥ずかしさから、まともに目線を合わせられなくなってしまったワタシにはお構いなしに、
「それにしても、いまどき、いやがらせで、教科書に落書きしたり、体育でボールをぶつけたりするヤツらがいるとは思わなかったわ……」
などと、勝手に話している。
ワタシも、「そうですね……」などと、相槌を打ってはいるが、自分自身の思考がまとまらず、くろセンパイの言葉は、ほとんど頭に入ってこない。
それでも、ひとつだけ、ハッキリとワタシの心の中から湧き上がって来る想いがあることに気づいた。
(くろセンパイだけ、ワタシのことをわかっているみたいに話してズルい……ワタシも、くろセンパイの思っていること、感じていることをもっと知りたい!)
知り合ってから、まだ一ヶ月ほどしか経っていない上級生に、そんな感情が芽生えるのは、自分でも不思議だったけど……。
とにかく、週末から始まる放送で、トークのパートナーとなるからには、くろセンパイの趣味や好みを把握しておくのは、悪いことではないと思う。
自分自身のそんな気持ちを確認していると、いつの間にか、放送室に戻って来ていた。
ノックをしたあと、室内に入ると、ワタシの姿を目にした放送部の部長さんが、すぐさま駆け寄って来て、
「
と、言葉をかけながら、ギュッと身体を抱きしめてくれた。
すぐに、くろセンパイが駆けつけてくれて大きな問題にはならなかったことを伝え、
「ううん……こっちこそ、余計なプレッシャーを掛けた上に、
と、少し前に聞いたような謝罪の言葉をいただき、かえって、こっちが恐縮してしまう。
後日、三人のうちの誰か、もしくは、三人が共同で弁償したのか、担任を通じて、落書きされた教科書の交換品がワタシに手渡されたのも、きっと、彼女が手を回してくれたのだろう。
さらに、その後、しばらくして、
「
と言って、ディクシー・チックスという海外の女性カントリー歌手が歌う、『ノット・レディ・トゥ・メイク・ナイス』という楽曲を教えてもらった。
「この曲のタイトルって、どういう意味なんですか?」
そう質問したワタシに、
「色々と解釈できるけど、『イイ
と、クスクスと笑いながら答えた。
また、さらに続けて、
「今後の放送番組で女子ウケを狙うなら、いま、同世代のコたちの注目を集めてる《ミンスタ》のこのアカウントをフォローして、参考にしてみたら?」
というアドバイスとともに、二年生の白井さんのclover_fieldというアカウントを教えてもらったんだけど……。
「くろセンパイに褒めてもらった自分の感性を大事にしたい――――――」
と思ったワタシは、こちらの助言については、丁重にお断りし、引き続き、以前からのお気に入りである
それでも――――――。
このとき、ワタシは、この放送部のメンバーが、本当に自分を受け入れてくれるのだ、と実感し、自分の居場所を提供してくれていることをあらためて感じることができた。
自分の中学校生活が思い入れの深いものになったのは、間違いなく、この人たちのおかげだ。
そんな懐かしい中学生時代のことを思い出したのも、ワタシのアイデアで始まったVTuber・
そして、このアイデアを同居人になった彼に、一番最初に相談して、本当に良かったと思う。
彼と出会った頃のことを思い出しながら、いまは、一つ屋根の下に住むことになった相手を思いつつ、クラスメートから手渡されたメモ用紙に目を向ける。
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誕生日おめでとう!
渡したいモノがあるから、放課後に
4号館校舎の屋上に来てほしい
誰かに見られると恥ずかしいから
こっそり来てもらえると助かる
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LANEのメッセージで済ませられる内容をわざわざメモ書きに残したことを不思議に思いながらも、少しだけ胸が高鳴った自分に気づく。
ただ、このときのワタシは、その気持ちの高まりに流されて、
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