第21話 さあ、旅に出るよ
ブルルルゥン、ブルルルゥン!
僕がクラフトした【ホースバイク】が力強く起動する。
馬を模して造ったバイクだ。
魔力をエンジンに車輪で大地を疾駆する魔道具で、遠目から見るとギリギリ本物の馬に見えなくもない。
これが今から世界中を旅する僕の、最初の移動手段だった。
多大な時間と魔力を費やし、つい最近ようやく完成したもので、こいつだけは絶対に亜空間から回収しておきたかった代物である。
「さあ、旅に出るよ、セキトバ」
セキトバというのは、この【ホースバイク】に付けた名前だ。
僕はシートに跨り、アクセルを回した。
ギュウウウウウウンッ!!
タイヤが猛回転し、凄まじい加速で勢いよく走り出すセキトバ。
十年を過ごした王都が、見る見るうちに遠ざかっていく。
アクセルを全力にすれば、軽く150キロは出るだろう。
この世界の道はあまり整備されていないので、さすがにそんな速度では走らないが。
「うん、タイヤのクッション性も悪くないね」
タイヤの素材にはかなり拘った。
色んな素材を試したけれど、最終的には金属製のフレームの上に、強力な振動吸収効果を持つスライム素材、そして高い弾力性を誇るワイルドボアの革を重ねる形に落ち着いた。
もちろんまだまだ改良の余地はあるだろう。
この先もっと良い素材が見つかるかもしれないし。天然ゴムとかあればなぁ。
セキトバで大地を疾走すること、丸二日。
ロデス王国領を飛び出した僕は、バルステ王国に入っていた。
ロデスと国境を接している国であり、しかも領土問題を抱えていて犬猿の仲にあった。
つい数年前にはロデスとの間で軍事衝突が起こっている。軍を率いた第三王子フリードが王位継承を確実なものとした、あの戦いだ。
バルステからすればロデスの王族ほど忌々しい存在はないかもしれないが、僕はすでに王家から放逐された身なので許してほしい。
なお、途中で幾つも検問所があったが、シャドウハイディングで簡単に切り抜けられた。
やがて街が見えてくる。
立派な防壁で囲まれたそれなりに大きな街で、レーネといった。
適当なところでセキトバから降りて【アイテムボックス】に仕舞い、そこからは徒歩で門へと向かう。
「冒険者になりたいと思ってこの街に来ました」
門の出入りを確認している役人から滞在理由を問われ、僕はそう答えた。
前世知識の異世界転生のように、この世界にも冒険者ギルドと呼ばれる国際組織が存在していた。
流浪の身となった僕にとって、冒険者業は身分と稼ぎを得られる一石二鳥の仕事だろう。
やはり冒険者を目指してこの街に来る者が少なくないようで、深く追及されることなく、あっさり一時滞在証明書を発行してもらえた。
僕が十歳の子供なので、信憑性もあったのだろう。……まさか敵対国の王族だとは思ってもいないはずだ。
一時滞在証明書の有効期限は三日間なので、それまでに冒険者ギルドで冒険者証を発行してもらうようにと親切に教えてくれた。
時刻はすでに夕方。
今から冒険者ギルドに向かっても窓口が閉まっている可能性があるそうなので、僕は今晩の宿を探すことに。
そうして適当に街中を歩くこと三十分。
「って、どの辺りに宿があるのか、聞いておけばよかったな」
宿くらい簡単に見つかるだろうと高をくくっていたのだが、それらしき建物がなかなか見つからないのだ。
気づけばすっかり日が落ちてきて、辺りが夕闇に包まれ始めていた。
しかもあまり治安のよくない地区に入ってきてしまったようである。
建ち並ぶ家々が明らかにボロく、壁や塀が落書きで埋め尽くされていた。
「ん?」
不意に道の向こうに小柄な人影が現れる。
頭から黒いフードを被っているため顔が見えないが、背丈からして僕とそう大差ない年齢かもしれない。
だが明らかに友好的な雰囲気ではない。
一瞬、きらりと光るものが見えた気がした。
直後、猛烈な速度で飛びかかってくる。
かなり速い。
まだそれなりに距離があったというのに、第二階級までの魔法でなければ接近までに発動が間に合わないと判断した。
「ファイアボール」
火球が迫りくる人影目がけて飛んでいく。
「なっ……躱したっ?」
信じられないことに人影は僅かに身を捻ることで、僕の魔法を回避。
しかも速度を落とさず、こちらへ突っ込んでくる。
凄まじい身体能力だ。
もはや魔法も間に合わない。
次の瞬間、僕は後方に猛スピードで跳躍していた。
【飛翔シューズ】である。
「っ!?」
斬撃が空振りに終わり、人影が初めて動揺を見せる。
すぐに追撃へと移ろうとしたが、そのときには僕の魔法が発動していた。
「シャドウバインド」
影で敵を縛り、動けなくする第二階級黒魔法だ。
「サンダースタン」
強引に影を引き千切ろうと藻掻く人影に、第二階級緑魔法の微弱な雷撃を浴びせ、一時的な麻痺状態にする。
「ぎゅぅ……」
倒れ込んだ人影に、まずは魔力操作で剣を奪ってから近づいていく。
「何者? まさか、僕の正体を知っての襲撃じゃないだろうね?」
頭のフードを引っぺがす。
すると悔しそうに顔を歪めていたのは、
「女の子……の、獣人……?」
立派な獣耳を生やした少女だった。
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