第8話 ロデス王国の第五王子だ
家庭教師による授業は一週間に八回行われる。
各回が三時間なので、一週間で二十四時間だ。五歳児にしてはかなり長めだろう。家庭教師が二十人もいたら、一体どれだけの時間になるのか……。
八回のうち二回は魔法の授業だ。
最初は一回だけだったけど、僕が魔法に強い興味を示していることをアピールしまくったことで、二回に増やしてもらえた。
なお、他に一般教養と剣技が二回である。
この魔法の授業のときに、僕とティラはこっそり街の外に出て、魔物の討伐を行うことになった。
もちろん夜と違い、白昼堂々、王宮を抜け出すのは簡単なことではない。
「第三階級緑魔法のフライングを使って空から脱出するのがよさそうですね」
「その魔法なら僕も使えるよ」
「できるだけ見つからないよう、警備の少ない場所を狙いたいです。どこが手薄か、分かりますか?」
「うーん、さすがにそこまでは……。でも、良い魔法があるかも」
影の少ない昼間だと、シャドウハイディングも使えない。
けれどその代わり、逆に日中こそ有効な白魔法があった。
「ライトハイディング」
第三階級白魔法ライトハイディングは、シャドウハイディングとは対照的に、光の中に紛れることが可能になる魔法だ。
「第三階級の白魔法まで平然と……。確かにそれならまず見つかる心配はないでしょう。ではわたしがあなたを抱えて空を飛行しますので、その魔法でわたしたちの姿を隠してください」
今のところ第三階級の魔法を同時に使うことはできない。
なので僕一人だけだとこの方法は難しいのだけれど、二人なら簡単だ。
「あとは万一、部屋に侍女が入ってきたときにどうするかですね……。部屋の中がもぬけの殻だと騒ぎになりますし」
「魔法の勉強に集中したいから、授業中は絶対に入ってこないようにって言っておくよ。それと念のため、これを使おうと思う」
「何ですか、これは……?」
僕が取り出したのは、一辺が十センチほどの立方体だ。
上面に幾つかボタンが付いている。
「【録音キューブ】だよ」
「ろくおんきゅーぶ……ですか?」
「簡単に言うと音を記録しておくための魔道具なんだけど、まぁ実際に見てみた方が早いと思うよ」
まったくピンと来ていない様子のティラに、僕は実演してみせることにした。
ボタンの一つを押してから、
「こんにちは、僕はセリウス。ロデス王国の第五王子だ」
同じボタンをもう一度押す。
これで録音できたはずだ。
「じゃあ、こっちの再生ボタンを押して、と」
「こんにちは、僕はセリウス。ロデス王国の第五王子だ」
「っ!? ま、まったく同じ声で喋った!?」
【録音キューブ】から発せられた声に驚愕するティラ。
「こんな魔道具、はじめて見たんですが……」
「緑魔法と黄魔法の魔法陣を組み込んで作ったんだ」
「まさか、これを自作したというのですかっ?」
「うん。音を振動として金属に刻むことで録音を可能にしたんだ」
もちろん前世の知識が役に立った。
「もし誰かがドアを開けようとしたら自動で起動し、僕の声を出すようにしておくよ。『開けないで! 今、集中してるから!』」
「開けないで! 今、集中してるから!」
こうして満を持して王宮を脱走した僕たちは、北の森へとやってきた。
鬱蒼とした木々で日差しが遮られ、昼間でも薄暗い不気味な森なのだが、いつも真夜中に来ていることもあって、むしろ明るく感じられる。
「まずはあなたの実力を見せていただきましょう。第四階級の魔法が使える力があっても、実際の戦闘でどれだけやれるかは別もの――って、勝手にずんずん奥に進んでいかないでください!」
「大丈夫大丈夫。浅いところの雑魚モンスターじゃなかなかレベルが上がらないし、時間も限られてるからできるだけ奥に行きたいな!」
短い時間で経験値を稼ごうとするなら、適度に強い魔物を倒すのがセオリーだ。
そう考えて、ずんずん森の奥へと向かう。
「ファイアボール」
「ギャッ!?」
「アイスエッジ」
「ワゥンッ!?」
途中、通り道にいたゴブリンやコボルトを瞬殺していく。
サーチングの魔法によって、あらかじめ魔物の位置を把握できるため、ほぼ確実に先制攻撃が可能で、それだけで片づけることができる。
「無属性魔法まで使えるのですか……」
やがていつもレベリングしていた場所より、ずっと深いところまでやってきた。
「いたいた。あれは多分、オークかな」
発見したのは豚頭の魔物、オークである。
大柄の成人男性くらいある中型の魔物で、肉が結構美味しいらしい。
「気を付けてください。オークを倒せれば、戦士として一人前。あれはそう言われるような魔物です。つまり、ゴブリンやコボルトのようにはいきません」
「そうなの? とりあえず、こんがり焼いてみよう。ヒートウェイブ」
第三階級赤魔法ヒートウェイブ。
高熱の波を照射する魔法で、火で炙るよりもムラが少なく均一に焼くことが可能だ。
「ブヒイイイイイッ!?」
悲鳴と煙と美味そうなにおいを上げ、あっという間に絶命するオーク。
「うん、第三階級なら一撃でも十分倒せるね」
「……なんか、心配するだけ損だなと思えてきました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます