第6話 夏祭りの奇跡

夏の一大イベント、地元の夏祭りが近づいていた。この年も「時ちゃんの、めざし道!」の前を流れる小さな通りは、祭りの準備で賑わっていた。時ちゃんは、普段と変わらず店を開けていたが、祭りの日だけは、特別に店を早めに閉めて祭りを楽しむ地元の習わしがあった。


祭りの当日、時ちゃんは例年通り店を開けるも、心なしか外の賑わいに心を惹かれていた。そんな時、店のドアが開き、一人の少年が恥ずかしそうに店に入ってきた。彼は地元の小学生で、時ちゃんの店の常連客の息子だった。


「時ちゃん、お祭り、見に行かないの?」少年が尋ねると、時ちゃんは少し考えた後、静かに首を横に振った。「私はここでいいんだ」と答えるが、少年の目は期待に満ちていた。


その後、少年は時ちゃんに一つの提案をする。「じゃあ、僕がお祭りの様子を描いてくる!時ちゃんも少しは楽しめるかなって」。少年の純粋な提案に、時ちゃんは思わず微笑んでしまった。


夕方、時ちゃんは店を早めに閉め、少年と約束の場所である祭りの会場の入り口で待っていた。少年は手に大きなスケッチブックを持ち、祭りの賑わい、笑顔、飾り付けられた屋台、花火を一生懸命に描いていた。


祭りが終わりに近づくと、少年は時ちゃんの元に戻ってきて、スケッチブックを開いた。「時ちゃん、見て!お祭りの様子を全部描いたよ!」。彼の描いた絵には、祭りの賑わいが生き生きと表現されており、時ちゃんはその場の雰囲気を感じ取ることができた。


「ありがとう、とても素敵だよ」と時ちゃんが言うと、少年は満足げに笑った。この夏祭りの日、時ちゃんは店を離れて祭りを体験することはなかったが、少年の絵を通じて、祭りの喜びと地域の暖かさを感じ取ることができた。


この日以降、少年の描いた夏祭りの絵は、「時ちゃんの、めざし道!」の壁に飾られ、来店する客たちにも喜ばれるようになった。時ちゃんと少年の間に生まれたこの小さな絆は、店の新たな宝物となったのだった。

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