悪役令嬢みたいですが、明るく楽しくのびのびと生きようと思います!
ロゼ
転生して元気です
私の名前はリリーナ・ストマイク。
ストマイク伯爵家の次女で現在十歳だ。
限りなく淡い水色を含んだサラサラストレートの銀髪に、若干吊り上がった猫目(だと思いたい)の色は真っ赤という、大変印象深い顔をしている。
私には前世と呼ばれる記憶がある。
前世の私は平凡な両親の元に生まれた平凡な子だった。
平凡ではなかった事といえば、私が病気を抱えていた事だけ。
病気のせいで年の半分は入退院を繰り返し、学校にも余り通えなかったが、それでもそこそこに友達はいたし幸せだった。
だけど十五歳の時に病状が悪化し、起き上がれない体になり、十六歳を迎える直前の、誕生日を一週間後に控えた日に人生の幕を閉じた。
はずだったのだが、気が付いたら赤ん坊になっていて『あぁ、転生したのか』と何故かすんなり受け止めていた。
短い生涯を神様が憐れんでくれたのだろう。そんなふうに思ったのだ。
それから私は伯爵家の次女としてすくすくと育っている。
前世の記憶があるものだから、前世ではやれなかった事をとことんやってやろうと好き勝手に動き回った結果、伯爵令嬢としてはかなり変わった子供になってしまっているが。
野山を駆け回り、木に登り、馬に乗り、使用人の仕事を率先して楽しそうに手伝い、料理にまで挑戦しようとする伯爵令嬢など早々いないだろう。
お淑やかなお姉様とは正反対のじゃじゃ馬娘が今の私だ。
こんな私だけど、両親も姉も兄も私を可愛がってくれている。
この世界での家族の事も私はちゃんと受け入れているし、家族なんだと思っている。
前の人生での家族の顔や名前はもうぼんやりとしか思い出せないが、受け取った愛情は覚えているし、偶に無性に会いたくなる事はある。
だけどそんな時は今の母が抱き締めてくれるし、父も姉も兄も抱き締めてくれる。
私が前世の記憶持ちだという事は家族は知っている。
この世界では稀にそういう子供が生まれてきては、国政すらも揺るがすような事を仕出かす事があったらしく、前世の記憶持ちの子供は申請する義務が生じるよう法改正されていて、それに反して申請をしなければ謀反の疑いありと罰せられる事になっている。
自分がこの世界のヒロインだと思い込んだ少女が、攻略対象と思った男性達を籠絡し、果ては王子にまで手を伸ばし、婚約解消させた挙句、王子の独断で婚約者を勝手に処刑させ、その婚約者の家が隣国の公爵家だった事で戦争にまで発展しかけた事は六十年前の話だが、今でも教訓のように人々の口に上っているらしい。
私はまだ子供なのでそんな話なんて耳にしないが、前世の記憶持ちという特殊な子供である事からある程度の常識として、または邪な気持ちを起こさないようにとして教育されてきたので知ってはいる。
私は健康な体で元気に動き回れているこの今の自分を気に入っているし、国家転覆を謀るだとか、王子を落とそうだとか、そんな面倒な事しようとも思っていない。
この世界のヒロインだと思い込んだ人がいたと言うのならば、この世界はゲームや小説の世界のような所なのかもしれないけれど、生憎私はそっち方面に興味がなかったので、少し齧ってみた事はあったが、ほぼ知識なんてないし、もし知識があったとしても誰かを攻略したいとか思わない。
あの人を攻略する為にあそこに行って会話をして好感度を上げて……なんてやっている自分が全く想像出来ない。
そんな面倒な事をするなら楽しいと思える事を思い切りやりたい。
いつかは伯爵令嬢として誰かの元に嫁ぐのかもしれない。だったらそれまでは思い切りのびのびと人生を謳歌したい。
どうせ生きるなら明るく楽しく幸せに! それに限る。
*
「どうしても行かなきゃ駄目?」
「こればっかりは無理よ。観念なさい」
朝からダダを捏ねる私を母が宥めている。
今日は『遊園会』が王城の王子宮庭園で行われる日だ。
遊園会とは、王子と気の合う同年代の子供を選ぶ為に開かれる茶会で、今回は第二王子と同じ歳の貴族の令嬢、令息が集められる。
私と第二王子は同じ歳なので、当然私にも招待状は届いたのだが、堅苦しいと思われる所には極力行きたくないので、直前までごねてみた。
『じゃあしょうがないわね』と母が折れないかと期待したが、流石に王家からの直接のお誘いを断れるはずもなく、私は淡いオレンジのドレスを着せられ、髪を緩く巻かれて馬車に押し込まれた。
三歳年上の兄レイモンが本日のエスコート役。
十五歳以上の大人(この世界では十五歳でデビュタントに参加し、大人の仲間入りと目される。早過ぎない?! と思うが、郷に入っては郷に従えだ)は遊園会には参加出来ない為に、兄がエスコート役を買って出てくれた。
「くれぐれもリリーナが暴れたりしないように見張っていてね!」
「リリーナ! 絶対に走り回ったり、木に登ったりしては駄目だからな!」
両親にこんなふうに見送られる私って……。
「流石に王子の前で走ったり木登りしたりはしません!」
そう言ったけど全く信用のない目で見送られた。
「幾らなんでも場は弁えるわよ!」
馬車の中で膨れっ面をしている私を兄が笑いながら見ている。
「そりゃ信用だってなくなるさ! この前だってお客様が来ている所に泥まみれで帰ってきたと思ったら『見てください!』ってでっかいカエルを見せて、お客様を卒倒させたばかりだし」
「まさかカエルで卒倒するなんて思わないでしょ!」
「貴族令嬢ならカエルなんて触れないのが普通だぞー」
「そもそもそれが普通なんて誰が決めたの?!」
「いやいや、考えてもみろよ? 蝶よ花よと育てられた令嬢がカエルと接触する機会なんてどこにある? 見た事もないってのが普通じゃないか? ましてやそれを泥まみれになって捕まえるとか掴んでくるとか有り得ないから」
「ブー」
「まぁ、そこがリリーの魅力だと僕らは思ってるけど、普通に考えたら異端だからな?」
「異端で結構! 異端上等!」
「まーた訳の分からない事を」
腹を抱えて笑っている兄を横目で睨んでいると馬車が止まった。
「着いたな。では我が可愛い妹よ。ここからは伯爵令嬢モードでお願いしますよ」
一足先に馬車から降りた兄が手を差し伸べながらそう言うので「分かりましたわ、お兄様」と答えた。
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