第51話 三分の道のり

 直樹なおきは一瞬恐ろしい想像をして、それを払うようにかぶりを振った。

 だが、亮平りょうへいが追い打ちをかける。


「山を下りてきた時のあおいの手がひどく震えていた。顔面蒼白。と出くわしたわけでもないのに。しかも、葵はあのハンカチを自分のものだとは申告しなかった。それで、なんとなく理解した。別にいいんだ、故意でも事故でも。葵を問い詰めるつもりはない。責めるつもりもない。俺たちは散々裏切られてきたんだ」


 直樹はこの時、亮平と葵の間に同士としての確固たる絆を見たような気がした。


「さて、そろそろお開きにするか。これ以上酔うと、口が滑って取り返しのつかないことになる」


 亮平がクククっと笑いながら立ち上がった。

 そして別れ際に「たった三分の道のりを、俺たちは必死に駆け抜けたな」と懐かしんで言ったのだった。


 ◇ ◇ ◇

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