第37話 亮平の絶叫

 懐中電灯の明かりが揺れ動き、視界が安定しない中、突如現れた段差に体がふわりと浮いた。


「うわぁっ!」

 咄嗟に左手の細い木の幹につかまり、なんとか転倒を免れたが、心臓が激しく鼓動を打っている。


「はあ、はぁ……」

 呼吸がひどく乱れていたが、直樹は再び走り出した。

 あの子は今、『七』を数えている。

 急げ!


「はぁ……、はぁ……」

 直樹なおきが髪を振り乱しながら駆け下りていたその時だ。


「うわぁぁぁぁぁっっっ!」

 という亮平りょうへいの絶叫が響き渡った。

 直樹は瞬時に足を止め、闇と樹木に包まれた右手の崖上を見上げた。

 だが、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。

 二人揃って捕まっては意味がないのだ。


 直樹はすぐに前を見据え、一心不乱に足を動かした。

 すると、それまでずっと続いていた両脇の木立が数メートル先で途切れていることに気付いた。

 アスファルトの舗装も見える。


 もしかして……。


 直樹は最後の力を振り絞り、飛び出すように木立を抜けた。

 次の瞬間、靴底に整地された地面の感触が伝わった。

 目の前には常夜灯に照らされたバス通りが広がっていた。

 直樹は、百八十度ぐるりと見渡して、


「ああ、やっとだ。やっと、抜けられた。やっと山荘から抜け出すことができたんだ」


 と安堵の息を吐いたのだった。

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