第34話 崖下に車を発見

 慌てて立ち上がってはみたものの、足に力が入らず、再び尻もちをついた。背後ではあの子が楽しくて仕方がないとばかりに笑っている。


 くそっ!


 直樹なおきは怒りを原動力に、身を起こした。

 そして、あの子に背を向けたまま、脇目も振らず山道を駆け下りたのだった。


 ここであの子に見つかったということは、この先を進んだところでバス通りには出ない。間違いなく山荘に戻る。そう思ったのだ。


 案の定、角を曲がると私道が続いていた。

 だが、前回通った時と明らかに異なる点があった。

 右の斜面が一部崩壊していたことと、左手の崖に面する木々がなぎ倒されていたのだ。


「……」


 恐る恐る崖の縁に立ち、懐中電灯の明かりを木立の奥に向けると、車体らしきものが見えた。

 直樹の手が小刻みに震えた。


「……健人けんと、そこにいるのか?」


 声を上ずらせながら安否を確かめたが、返答はない。


「健人っ!」


 声の限り叫んでみたが、返ってきたのは「山荘に早く戻れ」と急かすような木の葉の音だった。



 かさかさ、かさかさ。



「言われなくても分かっているっ!」


 直樹は身を翻し、再び山道を降りた。

 額から滴る汗が目に入り、腕で拭った。

 膝ががくがく震えたが、それでも休むことなく走り続けた。


 そして、目の前にあの山荘が現れた時、それまでに抱いた恐怖心や絶望感ではなく、戻ることができたという安心感に包まれていたのだった。

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