第32話 女の子に捕まった

 いったいこれから何が起きるのか、と四人が息を呑んだ。

 直樹なおきの腕を無意識につかんだあおいの手が震えていた。

 直樹は自分を頼る葵に後ろめたさを感じていた。当然、健人けんとのことだ。


 だから、意を決して、その手を振り払った。

 一瞬、葵の顔が強張ったが、直樹は見て見ぬふりをした。

 椅子の脚元に置いていた懐中電灯を鷲掴みにすると、


「俺があの子を引き付ける。その間に、誰が最初にここを抜け出すかを相談してくれ」


 と言い放ち、一目散に駆け出したのだった。


「直樹っ!」


 背後から皆に呼び止められたが、振り返ることなく、バス通りへと向かう道を全速力で走った。



『よぉぉぉん。フフフ、フフフ……』


 

 楽し気に数を数える女の子の声が腹立たしい。

 このカウントアップがいくつまで続くのか分からないが、バス通りまでの三百メートルの道のりをひた走った。

 


『ごぉぉぉおぉおっ。フフフ………』



 カウントアップは続いているが、女の子は一向に姿を現さない。

「はあ、はあ……」


 あの角だ。あの角を曲がればバス通りだ。

 もしかしたら、抜け出せるのではないか。

 このまま、あの子に見つからず、バス通りに出られるのではないか。

 直樹が期待に胸を膨らませた次の瞬間、



『クアァァァッッッ! ウケケケケケッ!』



 奇妙な声と共に、突如、左手の曲がり角から女の子が飛び出してきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る