第27話 二階の和室

 直樹なおきは気持ちを落ち着かせるため数回深呼吸すると、階段に足をかけた。

 ギシ、と嫌な音を立てる。


「直樹の次は、私が行く」


 と、積極的に手をあげたのはあおいだ。

 あまりの人の変わりように、あやかしに憑りつかれたのではないかと思ったが、見れば眉間にしわを寄せ必死に耐えていることが分かった。早くここから逃れたいのだろう。


 葵に次いで莉奈りなが、そして、背後を守るように亮平りょうへいが上ってくる。

 直樹は一段上るたびに、寿命が縮む思いがした。

 二階に辿り着いた時、直樹は心底ほっとしていた。全室、扉が開放されていたのだ。


「よし」


 気合を入れると、莉奈から受け取ったキャンプライトを掲げ、手前の和室へと足を踏み込んだ。畳の感触が靴底から伝わってくる。

 六畳間の部屋に家具はなく、天井を見上げると、時代を感じさせる照明の笠があった。


 埃に時々むせながらゆっくりと前進し、押し入れの前で足を止めた。

 湿気がこもらないようにという配慮なのか、ここも扉が全開になっていたことに、直樹は感謝しきれない。


 葵、莉奈、亮平が部屋に入ったところで、直樹は押し入れの上段にぽつんと置かれた古びたノートに手をかけた。


「俺は周りを見張っているから、それを読み上げてくれないか?」


 と亮平に頼まれ、直樹は「了解」と素早く答える。

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