第3章

第25話 莉奈がわめき散らす

 ◇ ◇ ◇


 健人の様子を見に行こうかと考えた。

 だが、こんな夜更けに山道を捜し歩くのは危険だと思った。それでなくとも、この山は今、物の怪につかれているのだ。


 スマホを開いてみるも、相変わらず圏外。警察に連絡することもできない。

 後々のことを考え、直樹はその画面を保存した。本当は連絡できたのに、わざと通報しなかったのではないか、というあらぬ疑いをかけられてはたまったものではない。


「ねえ、ここから抜け出す方法ってないわけっ?」

 莉奈りなが直樹に食って掛かってきた。


「こんなところに誘った責任を取ってよ!」

「莉奈、やめろ」


 亮平りょうへいたしなめられ、莉奈の怒りの矛先は亮平へと向いた。


「私は最初からこんな所には来たくなかったの。それなのに、亮平が行こうって誘うから来たんじゃない!」


「俺はしつこくなんて誘ってないぞ。急に『行く』と言い出したのは、莉奈りなの方だろ?」


 そう言われて、莉奈は一瞬言葉に詰まるも、


健人けんとあおいも行くっていうのに、私が行かなかったら変でしょ?」


 と必死に言い訳をする。

 健人が行くから自分も行くことにした、とはさすがに言えないらしい。しかも、その健人の身を案ずるわけでもなく、ここから出せとわめいている。


 あおいの方は心ここにあらずといった様子だ。

 とその時、再び四人を脅かす木の葉の音が聞こえてきた。


 さわさわ……。

 さわさわ、さわさわ。

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