第23話 山のざわめき

 そろそろ健人けんとの車が戻ってくる頃だろうか。

 直樹なおきが私道に目を向けた次の瞬間、直樹の耳にさわさわと風に揺れる木の葉の音が聞こえた。


「ん?」

 視線だけをきょろきょろ動かし辺りを窺うも、どこにも風など吹いていない。木々が揺れている様子もない。


「どういうことだ?」

 首を傾げる直樹に、莉奈りなが問いかける。


「風なんて吹いてないよね? それなのに、おかしくない?」

「俺も思った」


 緊張に顔を強張らせる直樹と莉奈を、亮平りょうへいあおいが怪訝そうに見ている。二人はどうやらこの異変に気付いていないらしい。


 さわさわ。

 さわさわ、さわさわ……。


 山がざわめいている。

 眠っていたが完全に覚醒したのか。

 山はそれを歓迎しているのか。それとも、警告しているのか。


 さわさわ、さわさわ。

 さわさわ、さわさわ……。


 直樹なおきは前所有者の言葉を反芻はんすうしていた。


「この山荘には、女の子がいる。

 この山一帯が、その子の遊び場。

 皆が去ろうとすると、その子は必死に引き留める。

 あの子は正しい遊び方を知らない。

 鬼ごっこ、かくれんぼ、だるまさんが転んだ。

 あの子にはあの子のルールがある」



 その、あの子独自の遊びが、これから始まろうとしているのか――。

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