第17話 山荘を脱出

 運転席にあおい、助手席に健人けんと、後部座席に亮平りょうへい莉奈りな直樹なおきが座り、葵は皆に急かされながらハンドルを握った。


 エンジンをかけるにも、アクセルを踏むにも、おどおどしている。

 久しぶりの運転なのだから仕方がない。

 だが、気が急くばかりに、健人が高圧的に物を言う。


「もっと踏み込め」


 葵が萎縮しているのが見て取れた。

 葵の背後に座る直樹は、前のめりになって運転席のシートに手をかけた。


「葵、心配しなくていいよ。もう少し踏み込んで大丈夫だから」


 葵が頷きながら、車をゆっくりと走らせた。

 山荘からバス通りへと向かう細い私道に入り、道に沿ってハンドルを切っていく。


「いいぞ」


 直樹の言葉に、葵が小さく頷く。

 亮平がふいに振り返って背後を見た。そんな些細な行動に、直樹の心臓がぎゅっと縮み上がったのが分かった。


「何かあったのか?」

「いや、異常がないか確認しただけだ」

「そうか……」


 直樹と亮平の間で窮屈そうに座る莉奈は、いつもであれば「狭い」の一言も漏らすのに、今はこの状況にわずかながらも安心感を得ているようだ。


 直樹もまた、態度にこそ表さなかったが、皆との距離感に救われていたのだった。


「そこのカーブで速度を落として」


 葵は運転に集中しているようで、直樹の指示に今度は頷くことをしなかったが、行動はしっかりと従っている。

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